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シルエットは腰に手を当てたパワーポーズをとったまま、野太くはっきりした声でこちらへ話しかけてくる。
「フハハハハ! まだ生き残りがいたんだな! よくここまで辿り着いた! 素晴らしい! きっとここまで、数多くの恐ろしいゾンビ達が襲いかかってきただろうに! 君たちの勇気の賜物だ!!」
「ディオ……!」
周囲を軽く見回すが、ディオの立つ入口の他に逃げ道は見つからない。 背後のカーテンを潜れば別だが、それはそれで危険すぎる。
「おお! 我を知っているのか! さっきどこかで出会ったかな? 両手両足の指では数えられないほどの生徒を助けてきたからな、すまんが忘れたッ! 悪いな! さあ、早く中へ入るんだ!」
なんと驚くことに、ディオは少しの邪気も見せることなく、こちらへ近づいてきた。逃げ道なしだったオレ達を追い詰めたければ、あのまま立ち続けていればよかったというのに、だ。
「この人だよ、さっき私たち助けてくれたの!」
遥夏が嬉々として指をさす。
そんな遥夏の前でディオは立ち止まった。
「遥夏ッ! そいつから離れろ!」
「オオオオオー!! 我、警戒されてるな……、きっとここまで酷い思いを沢山してきたんだろう! 疑心暗鬼も仕方ないッ!」
ディオはハッハッハと肩を上下させて笑う。
その振る舞いはとても自信家で、無邪気に感じた。
こいつは、何なんだ?
本当に野崎の言う通り、こいつが仮面持ちなのか?
「さて、体育館に入る前に! 君たちが安全かどうかチェックさせて貰う! ゾンビに噛まれていないかどうか、学生に扮装したテロリストじゃないかどうか! さあッ、我にしっかり顔を見せてくれ!!」
ディオは中腰になって遥夏の顔を覗き込む。
オレも野崎も、間に入ればいいのか分からず、動けない。
「恐怖色も有るが、顔色良し! 五体満足! さあ次だ、眼鏡君は……、怪我しているじゃないかッッ!! 大丈夫か、見せてみろ!」
ディオは血の染みた腕を触診し、痛そうにする仁に対して「ああ済まない!痛かったか!」と謝っている。
彼に、この事件を引き起こすような邪悪な心があるようには、どうも思えない。
「よし、この怪我なら、応急処置すれば助かる! 良かったな、体育館に入れるぞ! いいか、よく聞いてくれ、」
と、ディオは二人の肩に手を置いて、
「これから、”君たち二人は観客役”だ! 英雄の物語を静かに見届けてくれッ!」
その直後。
ディオの仮面の表面が、黄金色に煌めいた。
隣にいた野崎が、目を大きくして前傾する。
「『引力』だッ……! こいつ、やはり……!!」
その言葉で鳥肌が立った時には、もう遅かった。
遥夏と仁は二人とも腕をだらんと揺らして、色を失ったみたいに暗くなり、そこからは微動だにしなくなっていた。
「さあ! 君たちには君たちのための役場があるぞ! 客席へ急げ。 もうじき開演だッ!」
ディオがそう言うと、二人は卒業証書授与式のような回り右で後ろを振り返り、オレと野崎の間に向かって歩き始め、そのままカーテンを手で押しのけることすらせずに暗闇へ直進していく。
「おい仁! どこ行くんだ! 遥夏ッ!!」
その様子は明らかに普段通りではない。急に別人になってしまったかのような、不気味さ溢れる動きに、強い恐怖が襲う。
「お前……ッ! 何しやがったッ!!」
「大丈夫だ! 彼らは安全なところへ行っただけさ! さあ、君たちも……」
ディオの手が、こちらへ伸びる。
訳がわからないが、あの手はやばい。
仁も遥夏も、あの手に触れられておかしくなっちまったんだ。あの手に触れられることだけは、避けなくちゃいけない。
オレは反射で身を引いた。
だが、隣の野崎は動かない。
「ディオ、お前に聞きたいことがある」
野崎は後ろ腰から、ベルトの裏に隠していたであろうものを取り出し、ディオに向けた。
それは、淡い青色の拳銃だった。
「お前は、『分派』か?」
いつの間にか鉄仮面を被った野崎に、ディオの手が止まる。
「……その仮面。 我々を知っているな?」
「今、我々をって言ったね? つまり答えはYESだな? 『分派』は何を企んでいる? どうしてこんなことをする?」
「ほーう! その言い方、君は『少数派』だな!! 君みたいな邪魔者が学生に混じっているなんてな! フハハハハ!!」
「質問に答えろよ」
野崎は空手の左で鉄仮面を掻き、指の出血を拳銃に上から注いだ。
「その銃、我の物だな! ゾンビ狩りに使ったものを拾ってきたみたいだが、それじゃあ撃てないぞ!? その銃は、使用済みだからな!」
ディオは灰色の学ランをばさりと開き、その内側に無数に貼り付けられたホルダーと、何本か差されたカラフルな拳銃を見せつけてきた。
「これは3Dプリンターで作ったハンドメイドの自作銃だ!! 素材は合成樹脂! 悪党が使うような銃に比べれば、威力も耐久力も非っ常ォーに柔いッ! 故に黒色火薬を調合したハンドメイド弾を、たったの一発しか撃てない難物だ! 一度撃てば機構が砕け、二度と使うことの出来なくなる儚い武器だが、悪を誅すには充分な代物ッ!! 名付けて、対悪党用浄化光線銃ッッッ!!!!」
ディオがゾンビを撃っていた時、一発ごとに拳銃をその場に捨てていた理由に納得がいった。
一丁に一発。使えば壊れる。それがディオの使うカラフルな銃の性能だったからだ。
となると、野崎が拾ってきたらしい銃は、既に使用済みで撃つことのできないということになる。
「己のやっていることに意味がないとわかったかい、包帯君! それはもうゴミだ! さあ、同じ仮面持ちだからって悪いようにはしないさ! 君も皆と同じように、観客役に――――」
「よおく見てみろ阿呆が。
『爆弾作り』。
既に私は描写しているぞ」
野崎の構えていた青色の銃は、弾が内蔵されていたであろう持ち手の上部に、破裂や、溶解した跡のような大穴があいていた。
その穴に、野崎の血液が注がれている。彼女はそこに指を挿入し、銃の口内で小刻みに血溜まりを掻き混ぜた。
「お前の捨てていった銃の残骸たちは良い参考になったよ。銃を描るために必要な機構は、全て学ぶことが出来た。この銃に欠けている部分は、私が描き、補填する」
すぐにそれは完成した。
赤黒い本体と、青白い握りで出来た、カラフルなリボルバー銃。博物館の一件で野崎がジャケットに包んで隠し持っていたものと、ほぼ同じ形状のものだ。
ディオが制服に差しているものと違うのは、リボルバー特有の回転筒機構と、左右に伸びた赤い弦。
「合成樹脂ではなく、私の権能によって形状記憶された特殊血液を使い、耐久性の低さをクリアした連射可能、六発装填のオリジナルリボルバー。 弾丸は火薬を使わず、クロスボウと同様の力学を強引に再現する。 血の流れを操作して発射される弾丸の威力は、お前の仮面ごと脳漿を炸裂するには充分。 フン、光線銃なんて大仰なネーミングで見掛け倒しするなよな、私の作品の名前はこうだ。 対理想主義者用描写統制銃。さあ吐け、吐けよディオ。お前の正体を、この計画をッ!」
あれだけ強気で自信満々だったディオが、一歩退く。野崎はそれを見逃さない。
「動くな。 逃げられないぞ。仮面を剥げ。これ以上被害が拡がるくらいなら、お前を撃ち殺すなんて躊躇ないよ」
「……我の光線銃を奪ったうえ、改造し、脅迫とは! 君も悪党だなッ!」
「そうかもね。でもどうだっていいさ、正義も悪も、白も黒も、最後に決めるのは私だからな」