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警察官lrnと犯罪者(泥棒)fwのパロディ
※nmmn注意
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近頃は本当に運が悪い。
特にこれと言った啓示があった訳ではないが切実にそう思う。身に起こること大きな事から小さなことまで、何かと不運なのだ。
例えば、お気に入りだったマグカップを割ってしまうような些細なことから、車に轢かれそうになったりガラの悪い奴らに絡まれるとか、かなり気の滅入ることまで。
その時点で、今日の犯行は辞めておくべきだったのかもしれない。それらは全て神による警告。前触れだったのだ。たった今、これまでとは比べ物にならない不運に見舞われているのだからそうと思わざるを得ない。そう存在するかも分からない存在に責任転嫁をするしかなかったのだ。
今更後悔しても遅い、と窃盗集団の一員である不破は顔を顰めた。しくじった。
「随分と手際の良いコソ泥さんだ」
「…っ」
煙草の匂いと共に、耳元で囁かれた低音。有り得ない程強く掴まれた手首がじくじくと痛みを訴える。インカムからは異変を感じたコブンが不破の名前を何度も繰り返す声が聞こえる。けれど、それは背後の警官に名前がバレてしまう可能性を孕む。それを瞬時に判断した不破は自由な方の手でインカムを素早く外し、足で踏みつける。粉々になったそれはツーツーと無機質な音を響かせた。
「ダメな子猫ちゃんだな」
「アンタに情報を握られる訳にはいかないんでね」
不破の反抗的な態度に腹を立てたのか警官は不満そうに息を吐き出す。それから不破の抵抗をものともせず、素早くもう一方の手も捕え、背後に両手を回して拘束する。体を捻って何とか逃げ出そうとするがそれを阻止するように手を下に思いっきり引っ張られ、上半身を反らすように固定される。動いたことで見えた警官の髪は真っ赤なワインレッドで不破はその特徴だけで自身の背後にいる人物が誰かを把握する。
「ッ、ローレン・イロアス」
警官の中でもすこぶる優秀で腕の立つ人物として有名なローレンは正解と愉快そうに答えて、弧を描く不破の背をつぅ…と指でなぞる。
突然のその愛撫のような手つきに思わず肩を震わせる。 そして直ぐに悟り、息を呑む。 この男の望む反応をしてしまった、と。動揺する不破に 機嫌が良くなったのか、煽る為なのか定かではないが、揶揄うように元凶はヒュウと口笛を吹いた。
「逃げたい?筋肉に力が入ってるぜ」
「……」
硬直状態。張り詰めた空気は喉を狭め、まるで首を絞められているような感覚に陥る。そしてこの状況は、どちらかが動いた瞬間に均衡が崩れると不破は直感で感じていた。後ろの警官もそう思っているのか、コチラがアクションを起こすのを待っているようだった。けれど、その一触即発の バランスを壊したのは、不破でもローレンでもない第三者による介入だった。
タイミング悪く月が雲から顔を出して部屋の中を照らし、不破の銀髪を輝かせたのだ。
最悪だ。やっぱりついていない。思わず舌打ちをして顔を見られないように不破は頭を素早く下げた。
そして、その不破の様子を見てニヤリ、後ろの男が獰猛に笑った気がした。
(まずいッ…!)
まるで玩具を見つけた犬のようだ。
次の瞬間には、不破の顎に手がかかり、後ろを振り向かされそうになる。
その時だった。
突如、部屋に煙が放出される。 ローレンは白く蔓延した煙に催眠ガスか、とイラつきながらも素早く鼻を抑える。もちろん依然として不破の手首を捕まえたまま。けれど、ほんの少しでも力が弱まったその隙を不破が見逃す訳もなくローレンの拘束から抜け出す。
「クソっ!」
噴射の勢いは弱まるどころか強まる煙にローレンの視界は悪くなっていく。逃がした獲物を目で追うことすら出来ない。つい数秒前までそこにあった体温の感覚を確かめるように手のひらを握り込んでは開いてを繰り返す。
それからグッと一際強く拳を握り締めてギラりとエメラルドに決意を宿した。
「アイツは俺が絶対に捕まえる」
無事に姿を眩ませた不破は、元の逃走経路だった通気口に逃げ延び、安堵の息を吐いた。
「ちょっとふわっち。大丈夫だったの」
「ごめんなぁ、ありがとうもちさん」
視線の先には応援に駆けつけてくれたであろう仲間である剣持がいた。粗方、目眩しの煙を散布してくれたのも彼だろう。不破は心配そうにコチラを見遣る剣持を安心させるようにいつも通りへにゃりと笑った。
先のようなことがあったのだ十分に警戒しながら通気口を抜けて、裏路地を駆ける。
ここまで来れば不破達の勝ちだ。盗品もきちんとあるし危機一髪ではあったが誰も欠けなかった。
夜風が頬を撫でて髪を梳いていくのを心地好く感じながら 不破は妙な胸騒ぎを覚え、先刻の失態により負った、じんと存在を主張する赤く腫れた手首をさすった。
今宵の月は、不吉を指し示すかのようにワインレッドの赤を持って煌々と輝いていた。
コメント
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