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古びた銭湯の片隅に、大きなモンステラが置かれている。
緑の葉は大きく切れ込み、まるで湯気の中を泳ぐ魚のように揺れていた。
銭湯の常連、サトルはいつもその植物に目を向けていた。
仕事帰りの疲れを湯船で流しながら、モンステラの葉が蒸気に包まれて輝く様子を眺めるのが日課だ。
ある晩、サトルはいつになく疲れていて、モンステラに話しかけた。
「最近、いろいろあってさ……もう、どうしていいかわからないよ」
湯気の間を通り抜ける風に、モンステラの葉がひらりと揺れた。
言葉はないけれど、そこにいるだけで励ましてくれている気がした。
銭湯の壁には、昔からの常連客の写真が飾られている。
モンステラもまた、長い時間をこの場所で過ごしてきた「住人」だった。
サトルはゆっくりと湯船に浸かりながら思った。
「この場所も、植物も、ずっと変わらずここにいてくれる。
それだけで、なんだか自分も頑張れそうだ」
モンステラの葉は大きく伸びて、蒸気の中で光を受けて輝いた。
それはまるで、サトルの心に差し込む一筋の光のようだった。
湯気に包まれた銭湯で、植物と人間の静かな対話は続いていく。
言葉はなくとも、互いの存在が確かに支え合っているのだと、
サトルは感じていた。