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朝の空気は、どこか妙に重かった。昨日の夜、何も起きなかったはずなのに、確実に何かが変わっている。視線の流れ、距離の取り方、沈黙の質。言葉にしなくても分かるくらい、関係は少しずつ歪んでいた。
リビングに集まると、いつものメンバーが揃う。けれど中心にいるはずのいるまは、まだ完全に起きていないらしい。ソファに座ったまま、ぼんやりとした顔で欠伸をしている。
「……ねむ」
小さく呟いて、そのまま隣にいたらんにもたれかかる。遠慮なんて一切ない、完全に無防備な距離。
「おい、重い」
「ちょっとだけ」
らんは文句を言いながらも、押し返さない。
その様子を見て。
「……」
「……」
すちとこさめの空気が、同時に沈む。
(なんで、そっち)
(俺じゃない)
声には出さない。でも、確実に滲む。
⸻
「みこちゃん」
いるまがふらっと手を伸ばす。
「なに?」
「手」
「手?」
「貸して」
意味もなく、みことの手を掴む。指をいじったり、軽く振ったりして遊んでいるだけ。完全に無意識の行動。
「……子どもかよ」
みこちゃんは苦笑する。
でも、手は離さない。
その距離感が、余計に目立つ。
⸻
「いるまちゃん」
すちが静かに呼ぶ。
「んー……?」
反応がゆるい。
完全に寝起き。
「こっち来て」
「やだ」
即答。
そのまま、みことの手を握り続ける。
「ここでいい」
「……は?」
すちの表情が一瞬固まる。
その横で。
「ふふ」
こさめが小さく笑う。
「振られてるじゃん、すちくん」
「……黙って」
低い声。
でも、余裕はない。
⸻
その時。
「お前ほんと自由だな」
なつが笑いながら言う。
そのまま自然に、いるまの隣に座る。
距離が近い。
「ちゃんと起きろよ」
軽く肩を叩く。
「んー……」
いるまがそのまま、なつの方に寄る。
完全に無意識。
「……」
「……」
空気が変わる。
すちとこさめの視線が、一斉に向く。
⸻
「近い」
こさめがぽつりと言う。
「え?」
なつが振り返る。
「普通じゃね?」
本気で分かっていない顔。
「昔からこんな感じだろ」
その一言が、さらに火をつける。
⸻
「……だから何?」
こさめの声が少し低くなる。
「今もそれでいい理由にはならないよね」
「別に問題なくね?」
なつは軽く返す。
本当に何も考えていない。
ただの“距離が近い友達”。
それだけ。
でも。
それが一番厄介。
⸻
「やめなよ」
すちが口を挟む。
静かに。
でも確実に圧がある。
「今それやる必要ある?」
「は?」
なつが少しだけ眉をひそめる。
「意味わかんねぇんだけど」
「……わかんないならいいよ」
すちはそれ以上言わない。
でも。
視線は外さない。
⸻
空気が重くなりかけたその時、らんが空気を変えるように言う。
「なぁ、今日さ」
「夜どうする?」
「どうするって?」
いるまがぼんやり聞き返す。
「どうせ泊まりだし、なんかするか」
「いいね」
なつが乗る。
「俺、ちょっと酒ある」
「は?」
いるまが顔を上げる。
「お前絶対弱いだろ」
「うるせぇ」
少しむっとする。
⸻
夜。テーブルに缶が並び、軽いノリで飲み始める。ただの遊びのはずだった。でも、それぞれの感情はそんなに軽くなかった。むしろ、アルコールで理性が緩む分、隠していたものが浮き出てくる。
「……にが」
一口飲んだだけで、いるまの顔が歪む。
「無理」
「早すぎだろ」
らんが笑う。
「だから言ったじゃん」
なつも笑う。
でもその横で。
「……」
「……」
すちとこさめは、黙ったまま見ている。
⸻
時間が経つにつれて、差ははっきりしていく。いるまはすぐに酔い、顔が真っ赤になる。みこちゃんも少しずつ静かに酔っていく。らんはまだ余裕があり、なつは普通に飲み続けている。そして――こさめとすちは、ほとんど変わらない。
「……いるまくん、大丈夫?」
こさめが覗き込む。
「だいじょーぶ……」
全然大丈夫じゃない声。
体がふらつく。
⸻
「ほら危ない」
なつが自然に支える。
その動きに、一切の迷いはない。
ただの“友達として”。
でも。
「……」
「……」
2人には、それが許せない。
⸻
「離して」
こさめが言う。
低く。
「え?」
「近いって言ってる」
「いや普通だろ」
「普通じゃない」
空気が一気に冷える。
⸻
「もういいって」
すちが静かに言う。
「今はそういうのじゃないでしょ」
一見落ち着いている。
でも。
その目は、全く落ち着いていない。
⸻
その時。
「……ねむ」
いるまが小さく呟く。
そして。
なつの肩に、完全にもたれかかる。
無意識。
無防備。
依存みたいな距離。
⸻
(……は?)
(なんで)
同時に、何かが歪む。
⸻
なつはただ、軽く支えるだけ。
「ほら寝るなって」
それ以上は何もしない。
でも。
その“何もしなさ”が、逆に距離を強調する。
⸻
目が合う。
すちとこさめ。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
同じ感情が、完全に一致する。
⸻
(こいつ、邪魔)
⸻
楽しいはずの時間は、もうただの前兆だった。壊れる前の、静かな揺れ。まだ何も起きていない。でも、次で確実に何かが起きる。