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いつか来る終わりの日まで

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いつか来る終わりの日まで

1 - いつか来る終わりの日まで

♥

1,814

2021年11月12日

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「はじめまして、3年B組の担任になりました。桃といいます!みんなよろしくな!」


高校生最後の年。

教室に心地良い低音が響いて、思わず顔を上げた。

途端、目に写ったのは。

綺麗な桃色の髪、輝く青紫の瞳、明るい笑顔。


綺麗だ。

率直に、そう思った。恍惚とした。


「ちょっと!イケメンじゃない?」

クラスの女子達のそんな声が聞こえてくる。確かに、モテそうだ。顔立ちも綺麗だし、背も高くてすらっとしている。そんな彼を見つめていたら、

ぱちっ、と目が合った。そして、彼は俺に笑いかけた。


「…!!」


突然のことで、驚愕した。心臓が止まるかと思った。…こんなの、知らない。きっと何かおかしなことが起きたんだ。イケメンというものは本当に恐ろしい。

そう思って、机に突っ伏した。







昼休み、友人の青くんとご飯を食べていた時だった。


「赤くんってさあ、恋バナしないよね」

「…興味ないし。」

「冷めてんねー」


突然何を言い出すんだ。大体、俺が恋愛に興味がないことは知っているはず。何回か告白されたことがあるが、どれも丁重にお断りした。


「前告白されたときの返事、「ごめんなさい、付き合いません」だっけー?」

「…変に期待させない方がいいでしょ」

「うっわー、僕だったら泣いちゃう」

「うるさい!」


期待させてあいて本当は関心なしだなんて。そっちのほうが失礼だろう?俺がその子の立場だったら、絶対に嫌だ。というか、告白してきた時点で振られる可能性も考えてきてるわけだから、こちらの発言は自由じゃないのか。


「赤くんはさ、気持ちを伝えるのはずっと気持ちを押し殺すよりいいことだと思う?」

「…まぁ、」


その方がいいだろう。だって、そうしたら気持ちも晴れるし、もしかしたら付き合えるかもしれない。告白せずに溜め込んで、ずっと後悔するよりマシだ。


「僕はそうは思わないな」

「なんで、」

「それでもし迷惑がられたら、相手との関係が最悪になったら。

赤くんなら、どうする?」


「…どうするって、言われても。」


なんでこいつはそんなこと聞いてくるんだ?恋愛したことない俺がいい回答を導けるわけないだろう。俺は告白されて迷惑だと思ったことはない。好意をぞんざいに扱うなんて失礼だろう。


「溜め込むのが嫌なら好きって言えばいい。その後どう思われるかなんてわかんないでしょ。分からないことを考えてもしょうがない」

「簡単な話じゃないんだよ」



青くんのいつになく真剣な目に、びくっとしてしまう。


「簡単な話だったら、僕だってとっくに…」


「…青井くん、どうしたの?」


途端、彼はハッとした表情になった。


「ごめん、なんでもない!今の忘れて、」


そう言って、ばたばたと教室を出て行ってしまった。


「…なんだったの、」





放課後、屋上への階段を登っていた。屋上は立入禁止だけど、案外簡単に入れる。屋上にはもちろん人はおらず、そこで眠るのがとても好きだ。1日の楽しみはそれだと言っても過言ではない。見慣れた立入禁止の黄色いテープを潜り、壊れたドアを開ける。

その日は、何か違った。その理由もその後すぐわかった。


「…先生?」

「え、」


彼が手に持っていたのは、煙草で。その独特の匂いが鼻に伝わり思わず顔をしかめた。


「先生、校内は喫煙禁止だよ」

「わかってるって、」


意味がわからない。バレたらクビなんじゃないのか。


「この事は黙っててくれない?」

「はぁ、?なんで俺が、」

「バレたら俺クビになっちゃうかもよ」


「…それは、嫌だなあ。」


思っていたより素直に声に出してしまった。


「じゃあ、二人だけの秘密、ね?」


ぴとっ、と唇に彼の指が触れた。


「…!!」


顔に熱が集まっていく。不規則な風が心地良くて、彼の綺麗な髪がなびいて視界が揺れた。彼しか見えなかった。


「…わかった、言わない」

「いい子」

「そういうの、…やめてよ」


子供扱いなんて、してほしくなかった。


「俺疲れてたんだよね。新任だし初日だし」

「それなのに煙草って…リスク高すぎでしょ」

「軽いストレス解消だよ。たまにしか吸わないし」

「ふーん、俺が来て吸うのやめたけどなんで?」


「お前の体に悪いだろ。」


予想していなかった答えに、一瞬固まった。


「…それを言うなら先生の体にも悪いでしょ」

「俺はいいの。大人だし」


ずるい。

先生の世界に入れないみたいで、疎外感が滲んだ。


「はやく大人になりたい」

「あーね、俺もずっとそう思ってた」


「でも、いいもんじゃねえぞ?」

「…それでもいいもん、」


先生の世界に入れるなら。


「先のこと考えなきゃいけない年だもんなあ、赤は。でもやりたいことやって後悔をなくして高校生活終えな」


後悔。そこで、昼に青くんから言われた言葉を思い出した。


「先生はさあ、好きな人に告白するのっていいことだと思う」

「急だな」

「もしそれで後悔するようになったら、とかさ。」


「…後悔ねぇ。」


彼は淡々と話を続けた。


「いつだって判断するのは自分だろ?それが恋愛のことでも勉強のことでも。」


「自分が後悔しようが、しないよりは良かったと思える日が来るかもしれない」


「でもそれは、相手がそれに対して嫌悪感を抱いてなかった場合の話」

「、?」

「それを相手が迷惑がってたり、告白を断ったことに責任を感じていたら?」



「俺は、そうなるのが嫌だ。好きなやつが困ることだけはしたくないんだよ」



「…まっじめー。」

「なっ、うるせえな!」


本当は少し、いや、沢山嫉妬した。

彼にそんな気持ちをもたせるほどの何かがあったんだって。そのひとは、どんな人だろう。


「先生って、経験豊富そう」

「そうか?」

「だって、慣れてるじゃん。そんなこと普通考えないよ」

「はは、そうか?もし自分がそう思う相手ができたらっていう話だけど」

「じゃあ、今は好きな人いるの?」

「…どうかな」


意味ありげに微笑む彼を見て、むっとした。


「もういい。俺はどうせ恋愛に疎いおこちゃまだよ」

「ばぶちゃんだな」

「は?」

「怒んなって、でも恋愛経験があんまりないのは本当。」

「なんで?モテそうなのに」

「モテたよ」


…なんだこの男は。色々と謎すぎる。


「みんな俺の表の顔だけ見て判断して、理想と違ったら幻滅すんの。誰も本当の俺なんて見つけてくれない。いらないんだよ」


目を伏せて、少し悲しそうな顔をした。それさえも美しいと思ってしまうのは、おかしいだろうか。


「じゃあ、俺が見つけてあげる」


次の瞬間には、もう言葉は発せられていた。


「え?」

「…俺だったら、もう先生が内緒で煙草吸ってることも知ってるし?本当の先生、周りの人より知ってるよ」


「…ははっ、」

「ちょ、何がおかしいの!」



「じゃあ赤、俺の特別だな」



時が止まった気がした。鼓動も見失って、ただ視界だけが心を訴えてくる。目にうつっているのは、俺の好きな人だ。好きになってしまったんだ、この人のことを。認めたくなんてないのに、心が、本能が、確認させる。


「…っ、先生…」


気づいてしまってからにはもう遅くて、鼓動は早くなって、顔に熱が集まって、なぜだか泣きそうになる。


「ん?どうした、」


「……、なんでもない。」


言えるわけないだろ。

相手は教師。それこそ、迷惑がられたりするはず。


「もう時間遅いし帰ったら?俺もここ長居したら他の教員にバレるし」


「…わかった」

「じゃあな、」


寂しい。もう少し一緒にいたい。でもここに居続けたら、本当に泣きだしてしまうかもしれない。


「あの、さ…!」

「ん?」


「明日も、ここ…来ていい?」


声も震えていたし、うまく言えていたかわからない。それでも、彼にはちゃんと届いていた。


「もちろん」


その笑顔は、本当に世界で一番美しかったと思う。






自分の気持ちを自覚してからは、早かった。

普段は教師と生徒だけど、放課後はまた少し違う。もちろん関係はそのままだが、何かちがうものがある。俺が以前言った言葉の通り、彼は俺の前で素でいてくれる。それが、たまらなく嬉しくて幸せだった。

それでも、彼への気持ちを忘れようとした。迷惑をかけてしまうから、彼を困らせてしまうから。でも、彼も悪いだろう?あんなに思わせぶりな態度をとって、本当にずるい。そんなところも好きだなんて、漫画のようなことを考える自分もいた。


今日も、屋上の階段を駆け上がる。早く彼に会いたくて、つい急いでしまう。


「せんせい、!」

「おー、赤」


今日も次の日も、彼の笑顔を見てもっと好きになって。

そんな毎日が、続いた。でも永遠なんて言葉はなくて、これまで目を瞑っていたその事態からは免れることはできなかった。






「赤、受験頑張れよ」

「うん」

「でも赤なら絶対大丈夫だから。信じてるよ」


大学入試の前日。

推薦をもらったとはいえすごく倍率が高いところだし、正直俺自身も結構勉強はできるとはいえ受かるか分からないレベルだ。でもこの日まで先生が応援してくれたから、ここまでこれた。


「先生、頑張ってくる!」

「おう!」


この時は、それだけだった。

受験で精一杯で、自分と先生のことを考える暇なんてなかった。






呪文のように並ぶ様々な3桁の数字とにらめっこして、願った。


「316…316…」

「…あった、!」


一番最初に、先生に伝えたいと思った。でも、俺は彼の連絡先を知らない。また学校で話せばいいか、と思って、気がついた。


「…俺、卒業したらもう先生に会えないんだ」




家に帰ってお母さんに合格の報告をしたら、歓喜の声をあげられた。頑張ったかいがあったと思いながら自分の部屋のドアを開ける。

受験が終わったことの安堵感から、また違うことを考えていた。先生と俺のことだ。


卒業まであと3ヶ月。卒業式の日が過ぎたら、もう会わない。会いたくても会えない。


「告白…しようかな」


振られるのは目に見えている。ならせめて最後の日だけでも。


“好きなやつが困ることだけはしたくないんだよ”


彼の言葉を思い出す。


「…先生は、困るかな」


きっと困る。迷惑に思われるかもしれない。それでも、もう会わないんだから。


最後くらい、好きにさせてよ。







「先生、俺受験受かったよ」

「おー!やったな!!」


自分の事のように笑う彼を見て、つい顔が綻んでしまう。


「もう、卒業だね」

「そうだな」


なんとも思ってくれないの?だなんて、絶対に言えない。


「寂しくなるな」


「…え、?」


耳を疑った。幻聴か?とも。


「なんというか、赤とこうやって話すの日常だったからさ」


「…せんせい、」


「でも!生徒が無事に卒業するのは喜ばしいことだし。受験も合格したんだから、俺から言うことはもうないよ」


「赤、これからも頑張れよ」


直後、頭に柔らかい感覚が落ちた。それは彼の手で。もう限界だった。


「…っ、やだ…」


「ん?」


「俺、卒業したくない…!」


先生は少し困ったように笑ってから、言った。


「まぁ、高校生って特別だもんなー」

「、っ」

「でも大学生になったらもっと楽しいことが待ってるぞ?それに、今の友達ともまた会えるし」


じゃあ先生は、?

先生とは会えない。それなら意味なんてないだろう。高校生だからとかじゃない。



「ちがう、そんなんじゃないよ」

「え、?」

「卒業したらっ、先生ともう話せなくなっちゃうじゃん、!」

「あー、…でも同窓会とかあったら行くぞ?」

「そういうの、じゃなくてっ」


クラスのことじゃ足りない。俺だけを見てほしい。二人きりでこれまでみたいに話をしたい。あの屋上じゃなくても、どこでも良い。この毎日が続くのなら。なんだっていいんだ、先生と一緒なら。だって、



「俺…、先生が好き」



気づいたときにはもう、音になっていた。


「…、!」


途端に驚いた顔になる彼。ああ、俺、言っちゃったんだ。なんてことを考えていたら、彼は少し笑って、言った。


「赤、それは恋じゃない」

「…え?」

「確かに、赤は思春期だし。憧れと恋愛感情の区別がついてないだけだ。恋愛もしたことないんだろ?」

「っ、」

「大丈夫、そういうことたまにあるから。卒業してから俺に会いたいだけなんだったら、何かで会える機会があるかもしれないし」

「ちがう、」

「赤、その気持ちは恋じゃない」

「…っ、?」


「少し、距離が近かったから。そう思ってしまったのかもしれない。憧れとか友情と恋愛は別物だよ」


じゃあ、この気持ちはなんなの?

いつも先生の事考えて、話せる度嬉しくて、毎日放課後が楽しみで仕方なくて。少し体が近くなると心臓がどきどきした。幸せなのに、苦しくて苦しくて。


「先生は、俺の何を知ってるっていうの?」

「え、?」

「せんせい、全部知ってるような顔して、何もわかってない。俺の方が俺の気持ちを分かってる」

「……」


やっぱり、俺じゃだめ?



「…先生のばか、」


「え、」


次の瞬間には、もう唇が重なっていた。


「…、!?」


おぼえているのは、先生のひどく驚いた顔。耐えられなくなって、屋上から出た。



「は、ぁっ、はあ、」

「なんで、俺…っ」


先生、絶対嫌だったよな、なんて当たり前の事考えて。


「好き、なんだもんっ、」


その時、先生の言葉がわざとらしく頭に流れてきた。


“それを相手が迷惑がってたり、告白を断ったことに責任を感じていたら?”


“俺は、そうなるのが嫌だ。好きなやつが困ることだけはしたくないんだよ”


「…俺、最低だ」


勝手に自分の気持ち押し付けて、一方的にキスして逃げて。そもそも教師と生徒という関係なんだから、希望なんてないのに。いや、違う。それを理由にして逃げてるだけだ。俺なんか、もし生徒じゃなくても、同い年でも同じ職業でも、好きになんてなってもらえなかった。そして、俺はまた先生を好きになる。先生じゃなくても、ただの友達でも、絶対に。


「…もう、どんな顔して先生に会えばいいの」



ファーストキスは甘くもなんともなくて、ただ苦かっただけだった。





それから、俺が屋上に行くことは当然なく。先生はもしかしたら屋上にいたかもしれない。でもそこに俺が行くことは許されないだろう。また話すことだって、笑い合うことだってできない。罪人への罰だ。


「赤くん、!」

「青くん…」


受験で忙しくて、クラスの人たちとはあんまり話せてなかった。先生と話せればそれでよかったからだ。


「受験どうだった?」

「うん、受かったよ」

「さっすがー!」

「青くんはスポーツ推薦だっけ?すごいね」

「はは、まぁね。とりあえずはよかった」


「僕、赤くんと同じ大学行きたかったな」

「…そうだね、俺も友達青くんくらいしかいないから一緒が良かったな」

「まぁ、卒業まであと2ヶ月あるし!いっぱい思い出作ろうよ」

「うん、!」


卒業まで2ヶ月。

それまで、先生とは同じ空間にいるはずなのに。話せるはずなのに。

そんなことも、もうできない。

そう思うと、涙がじわじわ溢れてくる。


「…っ、」

「え、!?赤くん!?」


いけない。彼の前なのに。先生の時と等しく、また困らせてしまう。


「なんでも、ないからっ、ごめん、なさいっ」


自分の気持ちとは裏腹に、涙は溢れるばかり。あれ、俺ってこんなにすぐ泣くやつだったっけ、なんてことを思う。きっとこれは先生に出会ってからだろう。


「赤くん、我慢しないで」

「…え、?」


彼から予想外の言葉が出てきて戸惑いを隠せなかった。


「僕の前では、無理しないで」

「っ、?」

「大丈夫、僕は赤くんの味方だよ」


何故だ、自分の気持ちなんて誰にも言ってないのに。はてなマークが頭を飛び交ったが、唯一手を差し伸べてくれた彼の手を取ること以外、選択肢はなくて。


「青くん…っ、!」


次の瞬間には、俺は彼の腕の中にいた。


「ちょ、赤くん、!?」


上からは、彼の戸惑ったような声が聞こえたが、もう何も考えられない。ただ彼の服を掴んで、胸の中で泣いた。途中からは周囲の音も聞こえないくらい、悲しくて辛くて、ただただ泣いた。だから当然、彼の言葉も俺の耳には届かなかった。





「…僕にすればいいのに、」






それからというもの、俺は今まで先生と過ごした時間を全て青くんに費やした。時間を埋めるだけでもだいぶ違って、少しは辛さもなくなった。でも俺の先生への気持ちがなくなることはなくて、学校で見かける度に苦しくて辛くて、でも顔を見れることが嬉しくて。


そんな生活が続いて、もう卒業の日となった。


「みんな!今日は卒業式だな!」


先生の綺麗な声でその言葉が教室に響いて、クラスメイト達はざわざわする。この感覚も、もう体験できなくなるのか。


「俺は、初めてもったクラスがここで良かった!卒業まで色々あったけど本当に最高な1年を過ごせたと思う。それはみんなもだし、俺もだ」


クラスメイト達のすすり泣く声が聞こえる。そこで、分かりきっていることを考える。もう教壇で彼の声は聞けない。


ああ、せめて告白なんかしなければよかった。そしたら、この2ヶ月も先生と同じ時を過ごせたんじゃないか。もちろん青くんと一緒にいるのも楽しかったけど、俺は先生のことが好きだから。



その時、先生と目が合った。


「…、!」


そして、先生は笑った。初めて彼に会った日と同じで。その笑顔を見て、すごく泣きそうになった。あぁ、もう終わりなんだ。そんなことが、ものすごく身に沁みた。





卒業式が終わって、クラスメイト達と写真を撮ったりしていた。中にはもう帰った生徒もいたが、周りは卒業ムードだ。


卒業証書を受け取って席につくのも何の問題もなかったし、式は正直練習で何回もやったものだったから、特別泣く事もなかった。


「赤くん卒業式で全然泣かなかったね」

「青くんはボロ泣きだったもんねー。全く、何がそんなに悲しいんだか」

「はぁ…。ロマンがないなあ」

「卒業式にロマンって…告白でもするつもり?」


その一言で、彼の目が一瞬変わった気がした。


「…僕さぁ、ここの屋上行ったことないんだよね」

「まぁ、立入禁止だしね」

「最後に入ってみたいな。ね!一緒に来てよ」

「ええっ、…仕方ないなあ。いこっか?」

「やっさしー!ありがと!」




そうして、屋上へと向かった。なぜだか青くんは一言も喋らなくて、青くんも卒業の雰囲気にあてられたのかな、卒業式でわんわん泣いてたし。なんてことを考えながらただついていった。



「…赤くん」


階段を上がって、立入禁止のテープの一歩手前で彼は立ち止まった。そして真剣な目をして、こちらを振り返った。


「僕、赤くんが好きだよ」

「…、え?」


彼が何を言ったのか、わからなかった。でも、それは俺が先生に言った事と同じで、理解せざるを得なかった。


「入学したときから、ずっとずっと、好きだった。赤くんが僕だけのものになればいいのに、ってずっと思ってた。」

「…っ、」

「赤くんのことずっと見てきたから、分かるんだ。赤くんが先生を想ってることも。僕のことを恋愛として見たことがないってことも。でも、諦められなかった。好きで好きでしょうがなかったから。」


「そんな気持ちも今日で終わりにする。忘れられるかはわかんないけど、区切りをつけるよ」

「…青くん、」


そんなにおもってくれてる人が、身近にいただなんて。びっくりはしたけど、純粋に彼の気持ちが嬉しかった。


「…好きでいてくれて、ありがとう。」

「ねぇ、


やっぱり、僕じゃだめなんだよね?」


縋ったような、そんな顔だった。初めて見た顔だった。


「ごめん、俺はやっぱり先生を忘れられない。」


そして、笑顔を作る。そうしたら青くんは困ったように笑ってから、言った。


「変に期待させないほうがいい、って言ってたよね」

「うん、」


「…実際言われてみるとさぁ…っ、やっぱり、悲しいね」


そう呟いてから、彼の目から涙が何粒も零れ落ちた。


「…ほんとに泣くとか、っ…僕ダサすぎでしょ、」

「そんなこと、ないよ」

「え、?」

「青くんのおかげで俺、卒業までの日を楽しめた。それに、ひとりぼっちだった俺に一番最初に話しかけてくれたでしょ。」

「…っ」

「だから、ありがとう。青くん」


「うん、うん…っ、」


彼の目から涙が止まることはなかったけど、彼は笑顔を見せてくれた。


「好きだったよ、大好きだった。赤くん、今までありがとう。また会えるといいな」

「会おうと思えばいつだって会えるでしょ」

「はは、そっか。でももうちょっと心の整理させてからにするね」



「本当は、ここに連れてきたのは告白したかったからだけじゃなくて」

「え?」


そして彼はふわっと笑って、こう言った。



「…最後くらい、ヒーローにならせてよ」



そう言って彼は背を向けて、階段を駆け下りて行った。


「行っちゃった…」


それにしても、最後のはなんだったんだろう。告白するためだけじゃなかった?ここの場所、屋上で。



「…まさか、」


あの人の顔が浮かんだ。忘れたいのに、忘れられない人。ずっと頭のどこかにいる人。


震えた手で、壊れたドアを開けた。ガチャっと音がして、あの光景を見た。かつて見慣れていた光景。もう見れなくなったはずだった光景。



「…せんせい、」



屋上のフェンスにもたれかかった彼は、一言呟いた。




「待ってた」



「…先生、なんでここに、」

「来るかなって思った」



「卒業おめでとう、赤」


また、この場所で彼と話をしている。嬉しいはずなのに、もう会えないのはわかりきっているから涙が込み上げてきて。


「…っ、うぅ、」

「ちょ、!…泣くなよ、」


それは、心底困ったような声だった。でも優しさを含んでいて、それが彼らしくて好きで。そうだ、謝らなきゃ。


「ごめんなさい…っ、俺、キスしてっ、」

「…あぁ、気にしてないよ」

「でも、嫌だったでしょ、」


そうしたら先生は意味深な笑みを浮かべて、一言放った。


「赤、俺のことどう思ってる?」

「…え、?」


なんでそんなことを言うんだ。知ってるくせに、今更何を言わすんだ。そう考えたのに、それが許されるのなら、気持ちを伝えていいのなら、今までためていたことを全部。そう思ってしまった。


「先生が、…好き、」


言ってしまってからは、もう止められなかった。


「好き、愛してる、先生の笑顔を見ると幸せな気持ちになるの、毎日先生のこと、思い出しちゃうの。毎日放課後が楽しみで仕方なかった。屋上が世界で一番幸せな場所だった、先生の声も顔も髪も手も指も、全部全部何もかもが好き…っ」


「先生を、世界でいちばん愛してる。だいすきだよ…、!」



次の瞬間、体が暖かさに包まれた。スーツが見えて背中に手を回されているのが分かってようやく、自分が彼に抱きしめられているのを理解した。


「俺は、もっと好きだよ」


「…え、?」


「最初のホームルームでさ、すっげえ緊張してて。そこで赤を見つけて、一目惚れだった。また話したいって思ったけど、忙しくて話しかけられなくて。そこで赤が屋上に来てさ」


「二人きりで話してから、もっと好きになった。俺も毎日放課後が本当に楽しみだったよ」


「…う、そ、」

「嘘じゃないよ」


「じゃあ、…っキス、してよ」

「いいよ、?」

「へ、…」



唇が、重なった。3ヶ月前俺がしたのとは全然違って、綿菓子のようなキスだった。ただひたすらに甘くて、幸せで。


「愛してるよ、赤」

「で、も…俺が好きって言ったとき、嫌そうだった」

「…ずっと、俺の片思いだと思ってた。迷惑かけたりしたくなかったから、言わなかった。赤のことが好きだから」


もしかして、あの言葉は。俺に向けての言葉だったの?


「だから、赤に告白された時…そんなはずないって思ったんだ。赤が俺のことを好きなわけがないって。」

「そうだったの、…?」

「それに、さすがに卒業するまでは手出せないだろ。でもすっげぇ嬉しかった、赤の気持ち聞けて」

「そっか、…」


「じゃあ、俺達…また、会えるの?」


恐る恐る聞いた。ずっとこのことを考えてきた。卒業したらもう会えない、と。


「先生として…じゃなくて、恋人として。な?」

「…!!」


「せんせいっ、大好き…っ!」

「先生じゃなくて、桃くんって呼んで」

「桃、くん…っ、好き、大好き」

「俺も好きだよ。赤、愛してる」



風が吹き抜けた。彼の桃色が輝いて、その綺麗な目が優しく微笑んだ。




end.
















えむちゃです。今回初めてノベル作品を書いてみました~!ちゃんとした小説っぽい話を書くのは初めてで、そして国語力もあんまりないので所々文章が変なところがありますがお許しください😿見直しもしたので誤字脱字等はあまりないと思いますが、あったら申し訳ございません🙇‍♀

一万字超えの作品なので、ここまで読むの長かったかと思います。。私も書くのめっちゃ時間かかりました。伸びますように!!

ハートとコメントが私の励みになります。特にコメント!既読感覚でしてもらえると嬉しいです~


ブクマの際は必ずコメントお願いします(ˆ꜆ . ̫ . ).ᐟ.ᐟ

ここまで読んでくださり本当にありがとうございました!感想のコメント待ってます🙌🏻💕

この作品はいかがでしたか?

1,814

コメント

61

ユーザー

めっっっっっちゃ!好きです😿 ブクマとフォロー失礼します❗️

ユーザー

ぶくしつです

ユーザー

最高すぎました、!! 入りからオチまで全力で楽しませてもらいました🥺🎀 次の作品も待ってます!

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