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その日、リハーサルが終わると同時に、空は急に暗くなった。
楽屋を出ると、ザーッと大粒の雨。あわてて駆け込んできたメンバーの中で、タカシだけが立ち尽くしていた。
「……傘、持ってないのか?」
横に並んだカイが、半ば呆れたように問いかける。タカシは照れ笑いを浮かべた。
「うん。天気予報、晴れって言うてたから」
「お前、そういうとこあるよな」
カイは小さくため息をつきつつ、手に持っていた黒い折りたたみ傘を広げた。
「ほら、入れよ」
「え、ええって。俺、走って帰るから」
「アホ。衣装濡れたら明日のリハ困るだろ」
ぴしゃりとした口調に、タカシは観念してカイの隣に身を寄せた。
思った以上に近い。肩が触れる。カイが少し傘を傾けて、自分が濡れるのを構わずタカシの方を覆った。
胸の奥が熱くなる。タカシは無意識に口をつぐんだ。
雨音が激しくて、会話もはっきり聞こえない。けれど、だからこそ心臓の鼓動がいやに耳に届く気がした。
「なあ」
カイが、不意に声を落とした。
「こうしてるとさ……なんか、付き合ってるみたいやな」
「っ……な、何言うてんねん」
タカシの声が裏返る。カイは冗談めかした笑顔を浮かべつつも、どこか視線を逸らしていた。
「いや、ごめん。変なこと言ったわ」
その横顔を見た瞬間、タカシの胸に新しい感情が芽生える。照れ臭い、けど嬉しい。
雨は相変わらず降り続いているのに、二人の間だけほんのりと温かかった。
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