「ねぇ、私と心中しない?」
呆けるには十分な言葉だった。
押し倒されたこの状況から突然な彼のお誘いにぼくの首は頷く事も断る事何もせずできずと動けないまま
「…心中?」
「あれ?知らない?」
「馬鹿にしないでください、その程度知っています」
「じゃあ返事を聞かせてくれたまえ」
「何故ぼくとの心中を望んでいるのですか」
「そこに死ぬのにピッタリな水があるから」
聞いたところで無駄だと気付いた。そもそも彼が求めているものはぼくとの会話ではなくYESの返答のみである事は既に分かっている。それにしても彼の言う『ピッタリな水』とは…
「君の友達が用意してくれた遊戯のものさ」
簡単にぼくの思考を読んでくる。楽に会話が続けられるので楽しくはあるが、こういう時は嫌味を感じるのだ。
「…彼が望んでいるのは、ぼくの死ですよ?」
「私が負ける可能性をも残した前提での遊戯だ、そこに私の死体があってもいいんじゃない?」
嗚呼、ほらまた、彼はぼくの癪に障る事を言う。似た者同士とは実に厄介だ、自らとの対話と考えれば興味深くはあるが…
「で、返事は?」
「悩む時間ももらえないのですか?」
「もうあげたよ」
「”たんき”ですね」
「それって短期?短気?どっち?」
「癪に障りましたか?よかったです。どちらも含めていますよ」
「最低」
「ぼくの事を無理矢理押し倒している貴方が言えますか?」
「…言えないねぇ」
最後に『まぁ、もう遅いからいいけど』とも付け足して彼は可笑しそうにカラカラと少しの笑みを見せた。
「…ふふ、悩む君に心中の魅力を1つ教えてあげようか?
ーー ぼくの耳元へ彼の唇が近付いて
心躍らせた甘い息遣いがすぐ傍で感じた ーー
私が先に死ねば私の死んだ顔が見れるよ?」
ぼくと彼、何方が先に死ぬか死を賭けた勝負…
褒美が彼の死体とその顔なんて、ぼくの心まで踊らされるではないか
「返事は決まったみたいだね?」
互いの甘い息が混ざり合った瞬間が、同意を意味した。もちろん、互いにそれを分かっていた。
ムルソーの一室では
くすくす、くすくす、と
小悪魔のような美しい笑い声が響いた。
コメント
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こういう話大好きです……()