テラーノベル
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[いつもと違うところ]
・学パロです
・クロノはアスペルガー症候群です
・微ザキクロです
大丈夫な方のみそれではGO
15歳の僕の人生は、ずっと最悪だった。
勝手に期待されて期待に添えなかったら蹴られて、テストの点数に絶望し、教室の隅で授業も聞かず内職。
それで怒られて。それが僕、ハイザキのすべてだった。
一週間前、僕はついに爆発した。
自室の机を蹴り飛ばし、数日分の下着と、なけなしの貯金、
そして非常食1週間分だけリュックに詰め込んで、夜の街へ飛び出した。
「完璧であれ」という呪いから逃げ出した先は、
築四十年の湿った木造アパートの一室。
コンビニの廃棄弁当を齧り、薄暗い部屋で一人、
スマートフォンの光だけを頼りに夜を明かす。
自由になったはずなのに、心は少しも軽くならなかった。
街を行き交う人々が発する「完璧」という名のノイズが、
僕の耳を突き刺す。どこへ行っても、僕は不純物だ。
このまま透明人間になって、誰にも気づかれずに消えてしまいたい。
そう願って、降り出した雨を避けるように、
住宅街の片隅にある古い私立道場の軒下へ滑り込んだ。
――スパァンッ!!
乾いた、鋭い音が鼓膜を叩いた。
雨音を切り裂くような、その音に惹きつけられ、
僕は道場の重い引き戸を数センチだけ開けた。
板張りの床の上、青白い蛍光灯の下で、二人の剣士が対峙していた。
一人は、ガタイのいい大人。
そしてもう一人は、自分より一回りも小さな、細い少年だった。
「めーーーーんっ!!」
少年の気合は、叫びというよりは「正解」を突きつける宣言のように聞こえた。
最短距離を真っ直ぐに突き進む、迷いのない竹刀の軌道。
男の面を正確に捉え、弾けるような音を響かせる。
男が苛立ち、少年をけり飛ばした。少年はたやすく転がり、
防具が床を叩く鈍い音がした。
これってもういじめじゃないか。
普通なら、ここで萎縮するか、怒りを見せるはずだ。
けれど、少年はすぐに立ち上がった。
まるでリセットされたかのような、淀みのない動きで。
やがて稽古のようなものが終わり、少年が面を外した。
滴る汗と、引き込まれるような青と黒の髪。その下から現れた顔は、
驚くほど幼く、そして無機質なほどに冷静だった。
「……あはは。今の打突は、僕の計算より1.29秒遅かったね。
でも、相手の呼吸の『波』が止まった瞬間に合わせられたから、数値的には合格だね!すごいや!」
少年――クロノは、倒されたことなど微塵も気にしていない様子で、
独り言のように呟いた。その瞳は、周囲の部員の顔を見ていない。
ただ、自分の竹刀のささくれや、床の木目を見つめている。
「またクロノの『天然』が始まったよ」
「あいつ、マジで空気読まないよな。打たれてもケロッとしてるし、
不気味っていうか……」
周囲の冷ややかな囁きが聞こえる。だが、僕には分かった。
彼は空気を読んでいないのではない。
空気を読むという「機能」が、最初から備わっていないのだ。
その代わりに、彼は世界のノイズをすべて遮断し、自分だけの「純粋な真理」の中に生きている。
アスペルガー症候群――その名前を知ったのは、ずっと後のことだ。
けれど、その瞬間の僕にとって、
クロノは単なる「変わった少年」ではなかった。
彼は、僕が喉から手が出るほど欲しかった「孤独な完成形」だった。
誰とも繋がれず、誰にも理解されないけれど、自分の足で、自分のルールだけで世界と対峙している。
その姿は、あまりにも神聖で、残酷なほど美しかった。
――見つけた。
固まっていた僕の喉が、熱く震えた。
この人だ。この人なら、家出をして、誰にも愛されず、世界を憎んでいる僕のことさえ、
一つの「生体反応」として肯定してくれる。
僕は、道場の戸を勢いよく開けた。
冷たい雨の匂いが、道場の中に流れ込む。
門下生たちが驚いて僕を見る。けれど、僕の視界には、
竹刀を片付けようとしているクロノしか映っていなかった。
「……あの!」
声が裏返った。十五年生きてきて、
こんなに必死に言葉を紡いだことはなかった。
クロノさんが、パチパチと瞬きをして僕を見た。その瞳に、他意はない。
ただ「そこに異物が現れた」という事実を認識しただけの、澄んだ色。
「……弟子にしてください。あなたの、弟子に」
周囲から失笑が漏れる。中学生が中学生に弟子入り? 冗談だろう。
けれど、クロノさんだけは笑わなかった。
彼は僕の頭のてっぺんから足の先まで、分析するようにじっと見つめた。
「……君、ハイザキくんって言うの? 名札に書いてあるね。
……君の瞳の揺れ、71BPMで動いてる……すごく、静かだ」
クロノさんは、僕の「絶望」を「静かだ」と表現した。
「弟子……いいよ。ちょうどおれも、
自分の理論を他人に共有する実験がしたかったんだ。
君は僕の言うことを、98%の精度で実行できそうに見えるしね」
クロノが、アホっぽく、けれど有無を言わせぬ気迫で微笑んだ。
その瞬間、僕の世界を覆っていた灰色のノイズが、
青い閃光によって一掃された。
「……ありがとうございます、師匠」
僕は、その場で膝をついた。
これが僕と師匠、クロノとの狂った師弟関係の始まりだった。
それから数分後。
「 なに盛り上がっとるんじゃ?」
爆音のような広島弁と共にクロノの同級生、アカバが乱入してきた。
「クロノ、お前はまた変な拾い物しとるんか! だれじゃコイツ?」
「あはは。アカバ、ハイザキくんは拾い物じゃなくて、弟子だよ。
……あ、でも、雨に濡れてるから『拾われた子犬』に近いかもしれないね」
クロノの天然な言葉に、アカバが「なんじゃそりゃw」と爆笑する。
僕の「師匠」は、一瞬で賑やかな、けれど歪な連中に囲まれていくことになる。
それでも、僕は確信していた。
この道場の隅で、僕の心拍数を「心地よいリズムだね」と肯定してくれる師匠がいる限り、
僕はもう、透明人間にならなくて済む。
「一生、ついていきます」
僕は、誰にも聞こえない声で呟いた。
雨は、まだ降り続いていた。
けれど、僕のノートに新しく記される言葉は、もう死を願うものではなかった。
一ページ目。太いペンで、僕はこう書き記した。
――『師匠のすべてを、僕が守る』。
それが、僕の新しい人生の、たった一つの教典になった。
コメント
2件
るるこさん見てますか?????
書くのがうますぎる気がしてきた😦