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ゴーガンの予想は見事に的中してしまった。


気がつけばユーキ・ユーヤと名乗った勇者は戦場で孤立無援の状態になっていた。


私達スターデンメイアの残党やアシュレインに辛酸を舐めさせられた諸外国の兵が非協力的なのは分かるのだけれど……


「アシュレインの連中はどこまで馬鹿なの?」


アシュレインの騎士団はいったい何をやっているの?

なぜ自分達が連れてきた勇者を援護しないのかしら?


「1人で戦わせるなんて……せっかく召喚した勇者を使い潰すつもり?」

「……と言うよりアシュレインの騎士達が弱過ぎてついていけないんだろ?」


勇者は1人で戦場を駆ける。


彼が剣を一振りすれば、近くの魔獣が黒い瘴気を噴き出して消えていく。

私達なら数人がかりでも苦労するだろう大物も彼は簡単に屠ってしまう。


「何よあれ?」

「正真正銘の化け物だな」

「くっ!」


負けるもんですか!


「スターデンメイアは私達の手で取り戻すのよ」

「ああ、じゃないとアシュレインの奴らがまたデカい顔しだすだろうしな」


隣のゴーガンが大剣を抜いて構え、私はワンドを前方へ突き出し魔力を注ぐ。


乱戦では火や風はやっぱり使い勝手が悪いわね。


「北方大山の狩り乙女、氷の矢を射るスカルディースよ、我が敵は汝の獲物、我が敵は汝の戦果、必中氷結の矢を以って、狩れ狩れ狩り尽くせ!」


私の呪に応えて何も無かった空間に次々と氷の塊が精製され、それらは直ぐに氷の矢へと形を変えて私の周りを浮遊する。


だけどこれだけじゃ全然足りない。


「射よ、射よ、射よ……」


私の魔力に呼応して無数の氷が矢となって精製されて、私の周囲を埋め尽くした。手を振り下ろせば、それらは一斉に放たれて近くの魔獣達に降り注ぐ。


それらの氷に射抜かれた魔獣は、脚を縫い止められ、凍りついて動きを封じられ、中にはそのまま絶命して瘴気と化していった。


「フレチェリカも十分化け物だ」


そう言いながら動きを封じられた魔獣の一体を持っている大剣で一太刀の元に粉砕するゴーガンには言われたくない……こいつも十分に化け物よ。


だけど……


チラッと黒い彼を盗み見た。


私とゴーガンで十の魔獣を倒している間に、彼は1人で数十の魔獣を討ち滅ぼしている。


「悔しい……私達の力は彼に全然及んでないのね」

「いったい勇者ってのは何なんだろうな」

「ねぇ、彼の剣筋って見える?」

「気が付いたか……俺は辛うじてってとこだな」


初めは私も彼の剣の動きが見えていたのに、今の動きは目で追えなくなっていた。

私には剣先の動きが光ったようにしか見えない。


「戦いながら強くなってやがる」

「何なのよもう!」


負けたくない。

負けたくないけど力の差は歴然としている。


私のしてきた努力って何だったんだろう?


そう思ったのはどうも私だけではなかったみたい。

異質な強さのせいで彼はどんどん孤立していった。


味方も敵も大勢いる戦場の筈なのに、まるで彼は1人でそこに立っているよう。彼の背中が酷く寂しい気がして、私は先程まで抱いていた敵愾心や競争意識が萎えていくのを感じた。


「フレチェリカ!」


魔法で動きを止められた最後の1体を屠ってこちらを振り向いたゴーガンが鋭く叫んだ。


迂闊だった。

ここは戦場。


私は何をボーっとしていたの!


魔獣が私を目掛けて凄まじい速さで疾ってきている。

こんな近くまで迫っているのに気が付かなかったなんて。


いつの間にゴーガンからこんなに離れ過ぎてしまったの?

これじゃ助けを当てにできないわ。


魔法で牽制する?

ダメ間に合わない!

魔獣の突進をかわす?

とても無理よ!


思考だけが空回りして何も出来ずに棒立ちになってしまった私の眼前に、強大な魔を秘めた黒い獣が恐ろしい形相が迫っていた。


もうダメ!


死を覚悟した私はしかし妙に冷静でもあった。


だからか、目の前の魔獣を見てこいつが私を殺すのかと奇妙な感慨を抱いてしまった。だけど、その終焉は訪れなかった。


襲いくる魔獣がいきなり真っ二つに両断された。


黒い獣だったその物体は断面から黒い瘴気を霧状に激しく噴き上げ、さながら黒い血塵のように見えた。


そして、黒い血塵の向こう側には勇者がいた。


「あ、ありがとう」

「……」


その凄惨な光景に息を飲み辛うじてお礼を口にできたけれど、それは心からの感謝と言うよりも反射的な行為だったと思う。


私の言葉に彼は全く反応を示さず、黒い血雨に晒されて立ち尽くしている姿はとても物悲しいものだった。


その黒い瞳は何の感情の色も窺えない。

彼はただ空虚なのだと、少なくとも私にはそう見えた。


この時、私には分かったの。


この異なる世界で彼は1人ぼっちなのだと……

拠り所を失った彼はとても孤独なんだって……

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