「中也ってさ、私の事好きでしょ」
一瞬時が止まったような気がした。
自分の意思とは反対に、鼓動が大きくなる。
多分顔は赤くなってるから、まだ月が雲から出切ってない事に安堵する。
暗ければ分からないから。
大きい溜息を着いて、俺は答えた。
「どうだかね」
太宰は俺の返答ににやにや笑っている。
「否定はしないんだ」
「特に深い意味はねェよ」
また、沈黙。
そして、
「じゃあさ、私が本気で君を愛してる。なんて云ったら君はどうする?」
「……ぁ、」
喉から声が出なかった。
困惑と、驚きと、嬉しさと、何か、それらが混じった感情が押し寄せる。
太宰が云った事が本当なら、嬉しい。
嬉しくてたまらない。
俺はずっと此奴が好きだったから。
けど、何か違和感がある。
太宰はこんな事云う筈ない。
そもそも、此奴と俺は恋人じゃない。
あくまでセフレだ。
互いの欲の吐き出し口で、一線を越えない、都合のいい関係の、
上司と部下、ただそれだけ。
急に、この違和感が胸騒ぎに変わった。
この太宰の一言が引き金となって、 ずっと考えない様にしていた、考えたくなかった事が急に現実味を帯びてきた感じだ。
このどうしようもない、何とも云えない気持ちが頭をぐるぐるして、気が狂いそうだった。
この感情に行き場などなかった。
深く息を吸って、頭を冷静にして、また、息を吸って云った。
何事も無かった様に。
「っは!有り得ねェ冗談だぜ。ンな訳ねェだろうによ」
俺がそう云い放つと、太宰は何故か、安心したような顔を浮かべた。
「あはは!ばれてた?」
「たりめェだろ。何年の付き合いだと思ってんだよ」
「そうだね」
俺は笑った。
太宰も笑った。
楽しそうに笑った。
とても楽しそうに笑った。
まるで、ありふれた、友達同士の会話みたいに笑った。
この瞬間が今迄で一番幸せな時間だった。
この時間が続いて欲しい。
終わらないで欲しい。
多くは望まないから、此奴にただ傍に居て欲しい。
そう思わずにはいられなかった。
「もう寝ろよ。手前、ただでさえ寝不足なんだから」
「そうだね。今日はちゃんと寝れそうだ」
「そーかよ。おやすみ」
太宰は最後にまた、笑みを浮かべると、
「おやすみ」
と云って、目を閉じた。
瞼と、長いまつ毛が太宰の瞳を覆った。
夜の独特な静けさが部屋を包む。
俺は暫く太宰の寝顔を眺めていた。
「(安心しきった顔しやがって…)」
あまりに久しく見る太宰の幸せそうな顔に、嬉しく思うと同時に切なくなる。
どうしても、胸の内に思ってしまうのだ。
多分、此奴は俺以外の誰かを見てる。
その誰かの為に何かをしようとしている、という事を。
俺は知らない、誰かの為に。
「(こんだけ長い付き合いなら厭でも察しがついちまう、まいったもんだな)」
相棒だったもんなァ…。
ほんの少しだけ、目頭が熱くなった。
寂しい。
もっと俺を見て欲しい。
俺だけのものになって欲しい。
悲しい。
悔しい。
ひとりは怖い。
置いていくな。
云いたい事なんて山程あンだ。
でも、
・
・
・
〝幸せになってくれ〟
やっぱりこの答えにたどり着く。
もう一度、太宰を見た。
本当に幸せそうな顔をしていた。
「これで最後なんだな…」
太宰が起きてしまわないように、小声でそう呟いた。
毛布を肩までかけてやって、俺も眠りについた。
────────────────────
いつもみたいに朝が来た。
昨夜の雨は嘘だったかのように晴れている。
窓から入ってくる朝日が眩しかった。
それで、隣に太宰は居なかった。
続く
────────────────────
皆様どもどもこんにちはー!
ちょっと今回展開がごちゃごちゃしちゃいましたね💦
次回でちゃんと色々整理つくようにしてあるので良ければ見てください🙏🏻
そして次回最終回です!
見てくださった方、ありがとうございました!
コメント
15件
ヒョゴォォォオォオォォォシュコォオォォオオォジュコォォォオォォオ hshshshshshsピギャァァィァァァァァァァァァ!!!!!! もう言葉に出来ないのです。好きだ
ヒィィィィィィアアアアアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙😭😭😭😭 ちょっと本当にしんどい辛いと尊い好きが混ざってて情緒死にそう。 だざむが安心した顔するとかBEASTの結末的にもう大号泣案件なんだってばよ。ちゅやの苦悩する感じがめっちゃ伝わってきてしんどい尊い無理好き😭 元相棒のルビが辛すぎた まじ最高です神作感謝ぁぁ…🙏🏻🙏🏻
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁこういう苦甘展開というか中也が片想いで苦しんで色々な感情でぐちゃぐちゃになってるの本当に大好き過ぎるッッッ😇 てか本当に心情表現が上手すぎて大好きすぎる... このなんとも言えん双黒ならではの距離感大好き過ぎる