テラーノベル
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自分が愛されていないと思い始めたのは小学五年生の秋だった。
確か夢だったと思う。
その日はあまり疲れてなくて眠りも浅かった。
その夢は、小学五年生には重すぎる内容だった。
いつも仲が良い父と母が喧嘩している夢だった。
「なんで急にそんな事言い始めるんだ。とあだって大事な家族だろう。」
「だってりとのほうが優秀じゃない。なんでりとにお金をかけれないのよ」
「しょうがないだろうふたりとも俺等の子供なんだから」
「女の子が欲しいなんていうべきじゃなかった。」
「おい、そんな事言うな。とあも家族だ」
「あんな子産まなければよかった」
その言葉を聞いた途端、私は飛び起きた。
まだ外は薄暗かった。
時計を見るとまだ2:30を回ったあたりだった。
顔や手など体中に冷や汗が出ていた。
手は少し震えていた。
二人がそんな事言うはずない。
自分に言い聞かせた。
寝て忘れよう。
これは夢だ。
そんなことあり得ない。
布団に潜る。
眠れるはずもなかった。
当たり前だ。
その日から寝るという行為自体怖くなって眠れない日々が続いた。
目の下に隈ができ始めてやっと自分の体がやばいことに気がついた。
親には心配され、
もっと嫌われるんじゃないか。
挙句の果てには捨てられるんじゃないか。
と心配されればされるほどそっちの恐怖が大きくなっていった。
日数というのは最強の魔法だと思う。
あの時の恐怖は殆ど感じなくなるし、もうどんな夢だったかも思い出せない。
自分は、少しずつ眠れるようになってきた。
多分その時にはもう愛を忘れていたんだと思う。
いや、愛を感じる力をなくしたんだと思う。
記憶が薄れても緊張感は減らない。
家で起きておはようと声をかけられるその瞬間自分の運命は決まる。
毎日朝7時ぴったりに起きて自分より早く起きている家族に挨拶をする。
えくぼを見せて少し黄色くなった歯を見せて元気な声でおはようという。
それがルーティーンだ。
言わなかったら殺されるその覚悟で毎日を過ごす。
家を出て友だちに会うまでのほんの数分が気を使わないで息ができた。
家では家族の顔色を伺い、機嫌がよかったらそのテンションに合わせ機嫌が悪かったら自分のことを後回しにして家事を進める。
学校では積極的に先生に話しかけに行って、友達と思われる人に挨拶しに行ってその人達と同じ行動をする。
それが当たり前なのだ。
怒らせてはいけない。
多分みんなそうしている。
きついとおもうことはあっても決してやめなかった。
”辞める=死”
その考えはもうずっと治らない。
三歳のときに買ってもらったくまのぬいぐるみだけが心を許せる友達だった。
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