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─数年後─
駅前のカフェで待ち合わせた。
「翔太!」
振り向くと、凛が手を振っていた。
少し髪が伸びて、大人っぽくなったけど、
目の奥の“凛らしさ”は、変わってなかった。
「ひさしぶり。元気そうだね。」
「うん、そっちも。」
ぎこちなくはない。
でも、少しだけ“何かを思い出す”ような間があった。
***
お互いの近況を話しながら、コーヒーを飲む。
「パートナーとは、うまくいってる?」
「うん、まあ。波はあるけど、安心できる人かな。」
「翔太っぽいね。」
「凛は?」
「私も。ちょっと頑固だけど、好きなものとか価値観がすごく近くて。」
「そっか、よかった。」
ふたりとも、恋をして、泣いて、うまくいかなかったこともあって、
でもちゃんと“この人だ”と思える誰かを見つけた。
それだけで、少しだけ救われる。
けど、ふたりとも、今日この場所で再会しようと思ったのは、
ただの「久しぶり」だけじゃなかった。
翔太が、ふと目をそらすように言った。
「…この前さ、ふと思い出したんだ。中学のときのあのベンチ。」
「雪が降った日?」
「うん。あのときの、凛の言葉。」
「なんか言ってたっけ、私。」
「“親友でいようね”って。」
「ああ…言ってたっけ。」
翔太はカップを置いて、しばらく黙ってから、少しだけ声を落とした。
「今なら分かる気がする。 あれって恋じゃなかったけど、『 心がほどけた』相手だった。」
「うん。誰かに理解されたって思えるのって、恋愛以上に大事なことあるよな。」
「翔太にだけは、『誰を好きか』よりも、『私がどんな人間か』をちゃんと見てもらえてた気がしてた。」
翔太はうなずいた。
「でも今でも、難しいなって思っちゃう。 誰と出会っても、どこかで考えちゃう。」
「それ、ちょっと分かる。」
ふたりの中で交わされたたくさんの言葉。
“恋じゃない”からこそ、
“親友”という言葉だけでは言い尽くせない、
ただ「君」だったから話せたこと。
それが、ちゃんと今も、ふたりを支えていた。
***
帰り際。
「次に会うときは、パートナーも連れて来ようか?」
凛が笑って言った。
翔太も笑ってうなずいた。
「いいね。びっくりするだろうな、『この人があの親友?』って。」
「でも、ちゃんと紹介したいよね。翔太のこと。」
「俺もだよ。」
「だってさ、恋人じゃないけど、 一番最初に『自分をそのままでいられた人』だったから。」
「それ、俺もまったく同じこと言おうとしてた。」
春の風がふわりと吹いた。
中学の頃、雪が積もったあの場所は、もう取り壊されてしまって存在するしない。
でもその記憶は、今もちゃんと積もったまま、 ふたりの中に残っている。