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「母さん、今度三者面談があるんだけど、仕事どうにかなるかな?」
「えっと、いつになりそうなの?」
「希望日に丸つけろってさ。はい、これプリント」
俺は母さんに、プリントを渡す。うちの両親は仕事が忙しく、なかなか学校行事には顔を出せていない。
一年生の時も、香織のお母さん、明日香さんが代役を務めてくれていた。
「そうねぇ、この日なら多分大丈夫だわ。今回はちゃんと行くからね」
「本当?別に無理しなくて大丈夫だよ?」
「大丈夫よ。じゃあ、もう仕事行くから戸締りよろしくね」
「わかった。行ってらっしゃい」
俺は母さんを見送ると、ささっと朝食を食べ、学校の準備を始めた。
父さんはまだ寝てるのかな。昨夜遅くに帰ってきて疲れてるだろうから、起こさないようにしないと。俺は声をかけずに家を出た。
ーーーーーーーーーー
「おはよう、ハルくん。どうだった?」
「おはよう、香織。今年は母さんが来れるってさ。無理してなきゃいいけど」
「そうだね、真奈まなさん忙しいもんね。
伊織いおりさんも元気にしてる?」
「あぁ、父さんも元気だよ。昨日も夜遅くに帰ってきたから、ぐっすり寝てるよ」
「そっか。でも、真奈さんは本当に美人だよね。久しぶりに会えそうで良かったよ」
「そういえば、しばらく会ってないのか」
俺の両親は何かと忙しいので、お隣さんの香織ですら中々会う機会がない。本当に身体を壊さないか心配だな。
「あのさ、ハルくんはやっぱり、真奈さんと同じ道に進むの?」
「うーん、そうだなぁ。母さんは好きにしていいって言うだけどさ。まだ、迷ってる」
「そっか、でもハルくんならやってけそうだもんね。応援してるよ」
「あぁ、ありがとう」
その後、俺たちはいつもの場所で綾乃と合流し学校へと向かった。
綾乃はいつも通り、変わった様子はない。楽しそうに、香織と体育祭のことを話している。
しかし、俺は綾乃を直視出来ないでいた。
原因は昨日の出来事だ。バスケの試合が終わった後のこと。俺は眠くなってうたた寝をしてしまったのだ。
綾乃が近くに来たら、すごく良い香りがして、余計に眠くなって、俺はそのまま寝てしまった。
「ひゃっ!?」
俺が綾乃の肩にもたれ掛かると、綾乃は変な声を出した。汗かいてるから、嫌だったかな?
ごめん、綾乃。でも、もう、疲れて・・・。
俺はそのまま意識を手放した。
「は、晴翔?寝てるの?」
そして、バランスを崩したのか、俺の頭は綾乃の肩からずり落ちて、脚の上に落ちてしまった。その衝撃で、俺は目を覚ましたのだが、急な展開で俺は動けずにいた。
「はわわわ、どうすれば」
綾乃も困っているみたいだから、そろそろ起きようと思ったが、綾乃が俺の頭を撫で出した。
「おい、齋藤の奴ぅ」
「ちょっと活躍したからって、ちくしょう」
「全然羨ましくないんだからな!ちくしょう」
おいおい、なに勝手なこと言ってんだ。俺の気も知らないで。助けてくれよ。
次の瞬間、綾乃の顔が近づいてくる。いやいや、近い、近い!
「晴翔、大好き。私、頑張るからね」
!?
耳元で聴こえる綾乃の声に、ドキッとした。そして、一瞬何を言われたのか理解出来なかった。
そして、俺の頬に柔らかいものが触れる。綾乃からのキス。綾乃とのデートの時を思い出した。あの時に感じた胸の違和感。きっと、この気持ちは・・・。
「ーーーると、晴翔!」
「うお!?ど、どうした?」
ずっと呼ばれていたのか。全然気がつかなかった。
「どうしたって、今日変だぞ?」
熱でもあるのか?と綾乃の手が俺の額に触れる。いきなりのことで緊張がすごい。
んー、大丈夫そうだな、と手が離れる。きっと、俺の顔は真っ赤になってるんじゃないかと思うほど熱かった。
「綾乃、大丈夫だから、その、離れてくれ」
「え、あ、ご、ごめん」
普段となんら変わりないやり取りだったが、お互い思い出すことは同じで、体育祭の出来事が脳裏を過ぎる。
2人は、顔をほんのりと赤く染める。
「ほほぅ、お二人さん何かありましたかな?」
香織は何かを察したようで、なんとなく探りを入れてくる。しかし、ここで素直に言えるほど、俺はこの手の類に慣れていない。
「別に、なにも」
「そ、そだね、何も、ないよ」
「ふーん、そっか。ならいいんだけど、綾乃ちゃんは後でお話ししようね?」
はぁ、ダメだ。どうしても綾乃を意識してしまう。俺達は、微妙な空気のまま、学校へと向かった。
ーーーーーーーーーー
学校に着くと、なんだか騒がしい。近づいてみると、話している声が聞こえてくる。
「おい、田沢桃華が来てるってよ!?
「えっ、田沢って、女優の?」
「うちの生徒だったの!?」
どうやら桃華が登校してきたようだ。そういえば、そろそろ撮影が終わるって言ってたな。
面倒なことにならなきゃいいけど。
「ねぇ、その女優って晴翔と写真撮ってた人だよね?」
「そうそう、それにこの前ほっぺにチューしたんだよ!?」
「!?」
綾乃が、泣きそうな顔で頬を膨らませこちらを睨んでいる。おいおい、俺は悪くないぞ!
「むぅ、私だって、そのくらい出来るもん」
綾乃が、何か言っているが、小さすぎて聞き取れなかった。香織が、「今はそっとしといて」と言うので、綾乃のことは見守ることにした。
俺達は教室に向かったが、そこでも話題は桃華のことで持ちきりだった。
最近は、香織が俺にべったりで、もうどうにもならないと思ったのか、俺達に絡んでくる奴は少なくなった。ただし町田達の一部を除けば。
「晴翔、おっす!」
「あぁ、俊介、おはよう」
友達と挨拶するなんて、小学生以来か?なんだか嬉しくなってしまった。
特に、その後話し込むわけではないが、挨拶するというのはいいものだ。今度はこっちからしてみよう。
そんな時だった。
勢いよく、教室のドアが開いた。
ガラガラガラッ!
突然開いたドアに、教室内は静まり返る。皆の視線の先には田沢桃華がいた。そして、次第に騒ぎ出すクラスメイト達。
「お、おい、あれ」
「田沢桃華だ」
「やばい、可愛いくない!?」
「私ファンなんだよね!」
そんな中、クラス代表と言いたげに、町田が近づいていく。
「田沢さん、どうしたの?ここは2年の教室だよ?」
町田が話しかけるが、桃華は全く反応しなかった。その様子をみて、町田は苦笑いを浮かべるが、懲りずに話しかける。
「田沢さん、誰か探しているのかな?もしかして、俺のことーーー」
「違います。ちょっと静かにしててくれますか?気が散ります」
流石にここまで拒絶されると、町田は黙りこんだ。表情は悔しさにまみれ、拳を握りしめていた。
クラスが微妙な空気に包まれる中、桃華は人探しを再開した。
「おかしいなぁ、確かにHARU様の気配がするんだけど」
桃華が探してるのは俺か!?
俺は顔を伏せて、事態が収まるのを待った。
「あっ、あなたは!HARU様の彼女さんじゃないですか!?」
桃華はクラスに入り、香織の元へ向かった。
「あら、私のハルくんに何のようなの?」
勝ち誇った表情で迎え撃つ香織。対して、桃華も余裕の表情をみせる。
「ふふふ、確かにあなたはHARU様の彼女なのでしょう。そこは認めます」
意外にもあっさり引き下がる。これには、香織も意外だったのか、驚きの表情である。
「意外とあっさりしてるのね」
「ですが、HARU様ほどの方です。何人彼女が居ようと構いません。必ず、私に振り向かせてみせます!」
それでは、と言って颯爽と教室を後にした。あっという間の出来事に、誰もついていくことが出来ず、ただただ見守っただけだった。
その後も、各クラスをまわり、俺を探したようだが、見つからず担任の手によってクラスへと連行されたようだ。
桃華が俺を見つけるまでは、もう少し時間がかかりそうだ。