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勿忘

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勿忘

1 - きっといつか、いつまでも

♥

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2024年02月11日

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___はぁ、と溜め息を1つ。

見上げた空は憎らしい程青くって、思わずその眩しさに目を細めた。

こんな空を見ては、空虚な己と比較しては自嘲気味に笑うだけ。

そしてふと、懐かしき日々を思い起こすのだ。



──いつからだったっけ、〝誰かの為〟を掲げるようになったのは。



あれは…そう、確かこんな青空を見上げて笑っていたときのこと。

人が沢山居る中に、何も知らない私が放り込まれて右往左往して。

何も知らないなりに言の葉を紡いで、謳って、掲げて。

そうしている内に、沢山の人が少しずつ私を振り返って、見つけてくれて。


そんな人達と、沢山笑い合って微笑い合って。

ずっと、この人達と笑っていたいって思ってた。


でも、そんな願いは呆気なく散った。


私より幼い彼女は空へ飛び出して。

私より幼い彼女はこの地を離れて。

私より大人な彼女は殻に籠もって。

私より大人なあの人は友を失って。

私より大人なあの人は己と争って。


みんなみんな、何処かへ散ろうとした。


そんなとき、私は掲げることにしたんだっけ。

           生きる。

───私は誰かの為に 此処に居る。

           言の葉を紡ぐ。


それからはもう必死だった。

彼らの、彼女達の、あの人の元へ言の葉を届ける為に。

紡いで謳って掲げて縋って差し伸べて肯定して否定して微笑って訊いて。

そうしていたら、誰かは踏み止まってくれて。

そうしていても、誰かのものは掌から零れ落ちて。


それでも必死に〝誰かの為〟を掲げてきた。

私が失わないために。


それでも、やっぱりそれは疲れるもので。

いつからか、私もそこを離れた。


時折顔を出しては、誰々が離れたとか。

何人消えただとか。数えてもどうしようもないものを数えては俯いて。


離れた者達の遺したものを消せなくて、名にはお揃いのものをつけたままで。背景画像もお揃いのもののままで。自己紹介欄のものも皆で1つのものを消せないままで。


ずっとずっと、縋っていた。






それで。

いつだったか思い出せないけれど、笑い疲れて泣き疲れた日に。


わすれない、って決めて。


縋り続けていた、握り続けていた、とっくのとうに体温が失われたあの人達の手を振り解いた。



───〝誰かの為〟はただの言い訳だった。



本当は、私が失いたくなかっただけ。






そこまで思い返して、青空から目線を外す。

嗚呼、なんて馬鹿だったんだろう。

己の心はまるで空だった。

広く、広く。けれどひたすらに空虚で何も無い空は、私の心そのものだった。

___本当に、馬鹿だ。

これ以上空を見上げるのは億劫で、足元に目線を落とした。






それで…そう、私は青が好きだった。

空が好きで、海が好きで、ネモフィラが好きで。

────それで、勿忘草が好きだった。








『 ■■■を忘れないで。 』










「 ___うん、わすれないよ。 」


「 もう二度と。 」








私が目線を落とした先には、可憐に咲く勿忘草が風に揺られていた。

その花に私は幾度となく慰められて、力を貰っていたけれど。

勿忘草が咲くのは私の為じゃない。誰かの為でもない。

勿忘草は自然の摂理に従って、己の遺伝子を守る為に咲いていた。


他のものもきっとそうで、彼が笑うのは彼が楽しいからで。彼女が泣くのは彼女が心を痛めたからで。あの人が手を差し伸べるのは、あの人が失いたくないから。


全部私の為じゃない、誰かの為でもない。


全部、あの人達が自分の為だけに。





だから、私は私の為だけに。


あの人達の存在をわすれないし、彼の笑顔をわすれないし、彼女の涙をわすれない。








Q,誰の為の私?



A,私の為だけの私。







きっと、いつか。


私は私の為だけに。


「 勿忘わすれないでね。 」


って、言の葉を紡ぐのだろう。

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