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【第二幕:静止した時間、甘い毒】
世一が死んでから、一週間。
世間では「天才ストライカーの悲劇」として騒がれていたが、俺はすべてを無視した。
潔世一の亡骸(なきがら)は、今、俺のマンションのベッドに横たわっている。
防腐処理なんて専門的なことはわからない。
ただ、部屋の温度を限界まで下げ、世一が好きだった香水を部屋中に撒き散らした。
冷気にさらされた世一の肌は、驚くほど白く、そして硬い。
「……世一。ほら、今日はきんつば買ってきたぞ。お前、これ好きだろ?」
俺は世一の枕元に菓子を置く。
世一は何も言わない。
当然だ。
それでも、俺がこうして話しかければ、いつか「凛、うるせぇよ」と言って起き上がってくれる気がしていた。
「……なぁ、お前がいない世界なんて、全部『ぬるい』んだよ。お前がいないゴールなんて、ただの鉄枠だ。」
俺は世一の硬直した指先を自分の指に絡める。
かつては俺を翻弄したその指先は、今はもう、俺が動かさない限り一ミリも動かない。
その事実が、絶望的であると同時に、歪んだ悦びを俺に与えた。
(あぁ……これで、お前はもうどこへも行かない。俺以外の誰にも、そのゴールを、その笑顔を見せないんだな。)