「まず、和臣さんは傍聴席にいらっしゃいましたから、父上の五郎氏が末期ガンだったのはもうご存知ですね。以前から知ってらっしゃいましたか?」
「いいえ…
父は出かけることも多かったですが、運転士は口の固い人物でして…
そんな事は知りもしませんでした。
お恥ずかしながら…」
和臣さんは言った。
「そうですか。
それから、アイスピックについてですが…
アイスピックは常にキッチンにあったのですか?」
「はい、僕と父の五郎はよくウイスキーのロックを飲んでまして…
その日確か、お手伝いさんの麻生さんが休みの日だったかな?
父と一緒に飲もうという話になりまして…
でも、氷はあるけど砕いてなかったので、母に頼んだんです。
指紋はもしかしたらその時の物かもしれません。
その後、アイスピックは行方不明になっていましたから…」
「それが本当だとしたら、重大な事実ですよ…!
そして、アイスピックは事件当日まで見つからなかった、そうですね?」
「はい、おっしゃる通りです。」
和臣さんは頷く。
♦︎♦︎♦︎
そして、第二回目の裁判が始まった。
「良いですか?
みなさん?
弁護人は、斉藤五郎氏が自殺したのでは無いか?と弁論をしましたが、凶器のアイスピックは彼の背中心臓部分に刺さっていたのですよ!?
みなさん、背中の上部に手が届く人がどれくらい居ますか?
五郎氏はしかも55歳という高齢です。
果たして、自分で背中を刺せますかな?
いいえ、そんな事は不可能です。
ここで、検察側の証人・|前川久《まえかわひさし》さんへの尋問を請求します!」
「では、証人の前川久さん、前に出てください。」
裁判長が言う。
「前川さん、あなたのご職業は?」
「整体師です。」
「故人・斉藤五郎氏とは面識がありますか?」
「えぇ、私の整体に通っていただいてたので、よく。」
「どのような施術をしましたか?」
「肩こりがひどいのと、あと五十肩だったので、軽い伸び運動なんかを混ぜて…」
「聞きましたか!?
五郎氏は五十肩です!
さぁ、どうやってアイスピックを背中に刺すのでしょうか!?
ますます不可能じゃありませんか!」
兵藤検察官は声を大にしてそう言った。
まずい…
風向きはあちらに吹きつつある…
「先生…」
「僕は勝ちますよ…」
そして、先生が席を立った。
証人として斉藤和臣さんが出る。
「和臣さん、あなたは大のお酒好きですね?」
「はい。」
「そして、父親の五郎氏も酒好きだった?」
「はい、その通りです。」
「事件に関係の無い尋問です!」
兵藤検察官が手を挙げる。
「発言を却下します。
弁護人は事件との因果関係に気をつけて尋問を続けてください。」
裁判長が言う。