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井野匠
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#すとぷり
るぃ@BL好き 🎀♡
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職員室に入る時はノックして「失礼します」だ。
校長室に入る時もそうだった。
でも、生徒会室に入る時は何て言えばいいんだ?
生徒間で畏まるのもおかしいし……、だからって「邪魔するぜ」ってのも流石にちょっと、小物の悪役感が強ええし。
「……あーーーもう、何だっていいか!」
投げやりになって、扉をノックする。
「神無月だ。 一条、入ってもいいか?」
「……どうぞ」
校長室に入る時とは、また違う緊張がドアノブを握る手に溜まり込む。
どんなことが起きても良いように……、というメンタルで来てはいるが、実際に何か起きたら対応出来ることはほとんどない。
だから……、非常時用の準備をした。
階段前の壁から肩を出してこちらを見ている包帯顔を確認する。
もし一条が『支配者』だったら……、何が起きてもおかしくはない。野崎もその可能性を恐れていたからか、こうして待機してもらうことを頼んでもあまり渋られず、快諾とまではいかなかったが、三つ・四つほどの苦言だけで受諾してくれた。
後ろ盾を心頼りに、ドアノブをグリリとゆっくり押し開くと、半分も中の様子が見えてないうちに内側から手が伸びてきて扉を引っ張った。
「……何をしている、入らないのか?」
「お、おう。 えーと、お、お邪魔します……」
「……どうぞ?」
中は明るく、空調も効いていた。
用意されたパイプ椅子に腰掛けると、窓辺からの日射がちょうど顔にかかってウザったかったので、椅子の骨を掴んで腰ごと数歩横移動する。
眩しさから解放されてやっと室内の様子を観察できるようになって、気がついた。
校長室とは違い、普通の教室や準備室と大差ない素朴な一室。
生徒会ってのはもっと特権じみた環境で生活してるだろうって偏見を持っていたから、少し意外だった。
奥に設置された生徒会長席と思われるデスクの上には大量の書類とファイルの数々が山積みされている。
足元には口を開かれたダンボール箱が並んでいた。中には……、クラスTシャツだろうか?
鮮やかなカラーのプリントが施された布がビニール包装されて、パンパンに詰まっている。
「文化祭の準備か?」
「そうだ。 片付いてなくてすまない、作業が溜まっていてな」
「……これ全部生徒会で処理すんのかよ!? かなりの量だぞ、これ……。 てか、こんなに仕事溜まってんのに他の生徒会メンバーは何してるんだ?」
「彼らは幽霊会員だ。 己が次々に仕事を持ってくるから耐えられないと言ったきり、生徒会室には来なくなってしまった。 今では、己一人だけだ」
「……あんた、生徒会メンバーにも白い目で見られてんのかよ」
「元から成績稼ぎのために生徒会に入ったような意識の低い者達だった。 いなくなっても大差ない。 それにもう慣れた。 己は去年から、ずっとこうだったからな」
……一条の正義心は、敵対視こそしているものの尊敬できる部分がある。
普通なら適当に理由をつけて、小さな違反や小犯罪くらいは見なかったことにして見逃しがちだ。
そうしなければ自分としても面倒だし、取り締まった相手からも嫌われる。その積み重ねを耐えられる奴は……、学生じゃいないだろう。
だから、一条は強い。
孤独になっても信念で立っている。
一貫した行動で、自分を律している。
でも……、こいつは不器用すぎる。
どれだけ公正であろうとしても、塩梅ってのがある。
罪に罰を与えるのも、罪を抑止するために縛りを設えるのも間違っていないと思う。でも、それをやりすぎてしまえば逆効果すら起こしうる。
勿体ない。
一条という人間はなんて勿体ない人間なんだ。
ほんの少し踏みよる心があれば……、自分だけが認める正しさではなく、皆からも認められる正しさを誇る男として支持され、人から頼られる人となるだろうに。
正しすぎる正義心は、己を孤独にする。
孤独は摩擦の機会を失い、更なる正義の膨張へ繋がる。
このまま独り善がりを続ければ、一条は……。
「……さて、件の投票会の開催情報について擦り合わせをしよう。 君が広報部に協力を仰ぎ校内放送していた内容では、詳細までは知りえなかったからな。 ……それと、こういうことは先方とスケジュールを合わせてから日程を決めたり、開催を決定するものだぞ。 校長先生づてに己が許諾したから話を進めたのだろうが……、気をつけろ」
「わ、悪ぃ……。 果たし状送り付けた決闘みてえに、一方的に日時とか決めりゃあ来てくれると思ったんだが、フツーに考えたらそうだよな……」
「ちなみに、君が校内中に貼り付けていた投票会の宣伝ポスターだが、あれも校則違反だ。 校内の壁面に設置されている掲示板は事前に生徒会許可を得たものしか掲示してはならない。 君が不利になる証拠がまたひとつ追加されたな」
「あぁ……、そうだったのか。 すまねえ、それも知らなかった。 自由に使っていいものかと……」
「……神無月煌。 案外に君は腰が低いのだな、不良とは思えない」
「オレは不良とかじゃねえって! お前に押し付けられた喧嘩の件だって、ほとんど冤罪みてえなもんなんだよ」
「喧嘩の場に居合わせたのは認めるのだな? 報告をした風紀委員の方が、そんな事案に巻き込まれるような生活を送っている劣等生の君よりずっと信用できる。 冤罪というのは証拠不十分すぎるしな」
「くそ……!」
やはり一条は強硬だ。
だがそれよりずっと不審に思うのは……、コイツが何にも手出しをしてこないことだ。
恐喝でもする気なら、オレを逃げやすい部屋の出口に近い席に座らせて、自分は奥に座る必要はない。
コイツが『支配者』である場合だってそうだ。
何か策略があると踏んできたが……、ただ淡々と投票に向けた話し合いだけが進んでいく。
何を考えているんだ、一条……?
試しに……、こちらから仕掛けてみるか。
やるなら正面から単刀直入に……、
「……なあ一条、お前が『支配者』なのか?」
「……何の話だ」
「仮面、権能、EXE、ラヴェンダー、『少数派』、『廃棄物』。 今更隠す必要ねーよ、お前はそっち側なんだろ? 折角二人きりなんだ、腹割って話そうぜ」
「……………………」
どうだ、ここまで決定的なことを言われてしまっては、惚けるワケにもいかねえだろ。
一条は片手で読んでいたファイルを閉じて、少しの間、沈黙を続けた。
顎に手をあてて何か考える様子を見せた後に、スっとオレと目を合わせて、
「……何の話をしている? 考えてみたが思い当たる節がない。 ラベンダーというのは花の話か?」
「……しらばっくれてんのか?」
「己のことを支配者と揶揄しているのかと思ったが、あまりに話が合わないな。 君は何か勘違いをしているようだ、劣等生」
……一条の表情には淀みがない。
素性を隠そうと演技しているとは思えない。
権能の界隈と関わりがあるなら、今のオレの発言には必ず反応するはずだ。
てことは一条は……、『支配者』ではない?
じゃあコイツを取り巻く事件の数々は、本当にただの偶然だったっていうのか?
それとも……、誰か他の奴の力が働いていたとでもいうのか?
「……そろそろ話を進めよう。 投票会場の設営についてだが、ここは選挙管理委員に私から協力を要請して――――、」
それは話題のすり替えって感じの会話再開じゃあなかった。
本当に、時間の無駄になりそうな雑談はやめて早く話を進めようってイメージだった。
……オレは、少し敏感すぎたのかもしれない。
ジョン・ドゥに『支配者』の存在を知らされて、今までのことがあったから気にしすぎていたんだ。
一条が『支配者』でないのなら別に問題はない。 それに越したこともない。
脅迫してくる様子もないし、変な杞憂はやめて今はこのまま決選投票の開催まで漕ぎ着けることを第一に考えるべきなのかもしれない。
「……話を聞いているか?」
「ああ。 そうだ一条、当日使う投票用紙なんだが、過去の生徒会選挙とかで使ったフォーマットとかありゃ、そいつを素材に量産を――――、」
コメント
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あおいです🤍 第82話、読み終わりました。 神無月くんが生徒会室で一条くんと向き合う緊張感、すごく伝わってきました。「孤独でも信念で立っている」一条くんの正しさは、でも確かに孤独で不器用で……神無月くんが「勿体ない」と感じる気持ち、分かります。そして「支配者」の問いかけに対する一条くんの反応が自然すぎて、こっちまで「え、違うの?」って戸惑いました。二人の距離感の描き方が本当に巧みで、次の展開が気になります。