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一村の空は、今日も灰色だった。冷たい風が、石畳をなぞるように吹き抜ける。
ジュラは、
村の広場の片隅で、ひとり立っていた。
それは、いつもの光景だった。
神に近い存在エピルークのルキエルが隣にいても、人々は遠巻きに彼らを避け、冷たい視線を向けるだけだった。
一昔から、ずっと。
無表情の大人たち。
楽しそうに笑う子どもたち。
誰もが、
ジュラを、”そこにいないもの”として扱った。
泥をかけられた。
荷物をわざとぶつけられた。
石を投げられた。
それでも、ジュラは、必死に耐えてきた。
ただ 生きるために。
(……なんで僕だけ……)
(僕は、ただ、ここにいただけなのに一)
ジュラの心の底で、ずっと燻り続けていた声。
それを、
誰も知らなかった。
ーそのとき。
オレンジ髪の小太りの少年レンジが広場に現れた。
顔を歪め、
怒りと嫉妬を剥き出しにして。彼らの前に立ちはだかった。
レンジの隣には、
小悪魔のような少女の形をしたエピルークーフラウが、退屈そうに浮かんでいた。
「ジュラァ!!
てめぇみたいなクズがエピルーク持ちだぁ!?
ふざけんなよ!!!」
ジュラは、レンジを見た瞬間、
胸に突き刺さるような痛みを覚えた。
一思い出す。
かつて、
レンジに、村人たちに、何度も泥をかけられ、突き飛ばされ、
誰にも助けられなかった日々を。
一数年前。
レンジは、フラウと出会った。
その日、フラウは、
面倒くさそうに宙に浮かびながら、レンジに尋ねた。
「ねえ、なんか願いごとないの?
面白いの、聞かせてよ~?」
レンジは、
興奮しながら叫んだ。
「俺を!!一番にしてくれ!!
村の誰よりも!!!!」
フラウは、
心底面白がるように笑った。
「ふふっ、いいよ~。
君なら行けるよ〜?
きっと、ね。」
そして、契約が結ばれた。
レンジは、
傲慢と支配欲に取り憑かれていった。
この日からエピルークもちとして村からも勇者扱いをされるようになったレンジ。
怖いもの無しだった。
しかし今、
目の前にいじめていたジュラにもエピルークがついている。
レンジからしたら面白くもなんともない。
むしろ苛立ちの方が大きかった。
そしてレンジは、
地面から小石を拾い上げた。
指をパチンと鳴らす。
フラウが、にやりと笑った
鋭い風を纏った石が、ジュラを襲った。
ジュラは、
必死に身をかわした。
だが一
かすり、血がにじむ。
足がもつれ、倒れそうになる。
「へっ、やっぱジュラはジュラだなぁ!!
なんにも変わんねえんだよオ!!」
レンジが嘲笑う。
フラウが、声を上げて笑う。
広場中に、冷たい線が広がる
(……また……僕は…)
膝が震える。
拳が、握れない。
そのとき。
ルキエルの声が、静かに届いた。
「ジュラ。
君は、何を望んだ?」
ジュラは、顔を上げた。
ルキエルは、まっすぐに、
何の迷いもなくジュラを見ていた。
(僕は……)
(僕は
ー!!)
ジュラは、立ち上がった。
血だらけの足で、泥だらけの体で。
ぐらつきながら、拳を握りしめた。
「僕だって!!」
「僕だって……やれるんだ!!!!」
叫びながら、前へ踏み出した。
レンジが、最後の石を投げる。
フラウが風を纏わせる。
「ゲイルストーム・ブレイカー!!!」
広場が、
轟音に満たされる。
視界が真っ白になる。
だが一
ジュラは、止まらなかった。
(僕はもう一
一負けない!)
全身を使って、嵐を突き破る!!
「う、うぉおおおっ!!!!!!」
渾身の拳が、
レンジの腹に突き刺さる!!
ドゴオツ!!!
レンジが吹き飛び、泥に叩きつけられる。
その瞬間
__契約、断絶。__
フラウは叫ぶ
「くっくそぉおおぉ!!!あと、あともう少しだったのにぃぃぃぃぃ!!!!」
その言葉を残しフラウは消滅した。
レンジの胸から、ふわりと立ち上る光。
傲慢と、支配欲。
ルキエルは、静かに手を伸ばし、それを吸い込んだ。
さらつく、苦く、
けれど奇妙に甘美な感覚が胸に満ちる。
満たされる。
誇らしい。
でも、何かが引っかかる。
ルキエルは、ロ元をぺろりと舐め、小さく微笑んだ。
ごちそうさまでした。
そして。傲慢と支配欲を奪われた
レンジは、泥の中で、無様に泣いていた。
「……ご、ごめんなさい…..」
「ぼ、ぽくなんか……もう……」
ジュラは、
その姿を静かに見つめた。
勝ったのに、
胸が、ひどく痛かった。
(これが
戦うってことなんだ…….)
ジュラは、
拳をほどき、
ルキエルの背中を追った。
まだ、何も知らないままに一