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数日後、お茶会の日がいよいよやってきた。




───モニーク邸

時計の短針が空に向けられる頃、シルフィアはもにー家の門の前に着いていた。

シルフィアよりも先に一台の馬車が停められ、そこから招かれたであろう客人がゆっくりと降りてくる。

シルフィアもそれに続き、護衛騎士の手を借り馬車から降りる。

「ありがとう。ジョアン」


***


数十分前、エマを連れてお茶会に向かおうと屋敷を出ると、ジョアンが走って近付いて来た。

「あら、ジョアン?」

「シルフィア様、本日はお茶会の予定があるのですよね。私もご一緒させてもらってもよろしいですか?」

どうやら、護衛として彼女が着いてくるらしい。

『ヴァンキルシュ公爵は、大丈夫なの?』と訊ねると、『私は公爵様に仕えていますが、シルフィア様が一番です。その辺の人形のような使用人と一緒にしないでくださいよ』と返ってきた。

彼女は、公爵に媚びを売るような使用人とは違い、シルフィアにも普段の態度で接してくれる。

こうして普通に話せるのは、リベルドを入れて二人目だ。

先が思いやれる、とシルフィアはため息を吐く。


***


「今日はあなたも来てくれて助かるわ」

今回のお茶会は、女性のみ会場に参加出来るようだった。

「ここに来て初めてのお茶会だもの。緊張してしまうわ」

「いえ、シルフィア様がこのお茶会で一番輝いていますよ」

彼女の少しの気遣いに、心が緩んだ。

お茶会の会場である庭に着くと、モニーク家の令嬢らしき人物が椅子から立ち上がった。

「あ!あなたがクロックフォード嬢ですね。お待ちしておりましたよ!私はフレンダです」

彼女はドレスの裾を掴み、軽く頭を下げた。

こちらもカーテシーをすると、少し声が聞こえてきた。

「みんな、お嬢様の綺麗なカーテシーを見て感心しているんですよ〜」

エマは少し自慢げに、そう言った。ジョアンの方へ視線を向けても、その言葉に頷いてるだけだった。

「皆様、少し遅れて申し訳ありません。シルフィア・クロックフォードと申します。モニーク嬢もこの場を作っていただき感謝いたしますわ」

軽く自己紹介をすると、拍手が聞こえてきた。

シルフィアは、フレンダの隣の席に案内されるとすぐに質問がとんでくる。

「ヴァンキルシュ公爵様は、どういらして?」「アルタイル王国から、いらしたのよね」「そちらの護衛の方は?」

同時に質問され、困惑しているとフレンダが両手を前に広げた。

「まぁ、皆さん落ち着いて。クロックフォード嬢も困っていますよ」

「いえ、少し驚きはしましたが大丈夫ですよ」

シルフィアは、飛び交う質問に応えているとあっという間に二時が過ぎた。

「もうこんな時間ですのね 」

「シルフィア様のアルタイル王国のお話、もっと聞きたかったわ」

お茶会の席に座っていたのは、フレンダ含め五人だった。そして、そのうち二人は一時間程過ぎた辺りで、家へ帰って行った。

「そういえば、ラファエロはどう?初夜はもう過ごしたのかしら?」

フレンダは両手を組み、肘をつくと、その上に顔をのせこちらに視線を向けた。

『ラファエロ』ということは、名前で呼び合う仲なのだろうか??それでいて、聞いてくるのならばタチが悪いだろう。

「いえ…」

シルフィアの噂は広まっている。初夜どころか食事や外出をしていないのも知っているはずだ。

「そうなんですか…。あ!この前、家に来た時にこれをいただいたんです」

そう言って見せてきたのは、サファイアのブローチだった。

「この宝石、私の目の色に似ていませんか?ラファエロがわざわざ選んでくれたんです」

これは明らかに、シルフィアに自慢している。『私は、ラファエロと仲が良いですよ』ということなのだろうか?

「あら、このブローチ、今流行りのものですよね」

フレンダの眉間にシワがよる。

「…そうなんですか?」

「えぇ。以前にもそのブローチを付けている方を見かけましたわ 」

シルフィアは微笑むと、残りの令嬢二人が慌てて言葉を放った。

「し、しかし、そのブローチはフレンダ様のためにヴァンキルシュ公爵様が選んでくれたんですよね。フレンダ様に、とてもお似合いですわ」

「……ありがとう。レイラ様」

彼女は下を向き、ドレスの裾を握り締めるが、力を緩め、再び上を向いた。

そして、フレンダは両手を二回叩く。

「さぁ、もうこんな時間です。この辺でお茶会はお開きにしましょう」



公爵令嬢、訳あって隣国に嫁ぎます。

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