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ぱらぱら雨が止んだ後、 珍しく空が綺麗にオレンジ色に染まり、穏やかな雰囲気に包まれていた。
桜魔の進捗が無かった研究に一筋の光が刺してきた頃、久しぶりに現世に帰ってきた、ベランダで黄昏ていた。
勿論収録は大変だけれどこんな他愛の無いことをするのもいいな、と感じていた。
風が心地よく頬を撫でた時だった
「晴ッッ!」
背後から切迫した声が響いた。振り返る間もなく僕の服の裾を誰かが掴んだ、いや、掴んだというより引っ張られたような_
『え……?』
驚いて振り向くとそこには不破さんが居た。
けれどいつもの不破さんではなく、髪や頬から水滴がぽろぽろと音を立てて流れ落ちていく、さっきの雨なのか、それとも汗なのか。
彼の焦点は定まっておらず、どこか遠くを見ているようだった。いや__遠くではなく、過去を見ているのかもしれない。
「おね_がい」
不破さんの声は震え、所々途切れていた。
「きづッッなくて…ごめん」
誰への謝罪なのだろうか、みるみるうちに服の裾を掴む力は強くなっていき、爪が食い込むほどになっていた。
「おねがいだから、しなないでっ…」
僕はすぐさま理解した。不破さんは今、僕を見てるのではなく、僕ではない誰かを見ている。
「不破さん……?」
名前を呼んでも不破さんの反応は無く、彼の目からは溢れそうなほど涙が溜まっていた。あの感情が無いと言われている不破さんなのに。
「しなないでッッ……おねがい、ッおにぃちゃッ、」
最後の言葉まではほとんど聞き取れないほど小さくなっていた。
《どうしました!?!?》
やっと到着した社長の声が楽屋に響き、同じタイミングに剣持さんも来たようだ、
【ふわっち!?何してんの??!】
皆混乱していて、不破さんの肩を剣持さんが掴もうとした瞬間、呼吸が乱れ始めた。
「はッッぁ、ッはぁッッッあ、」
不規則に胸が上下している。過呼吸を起こしているのかもしれない、パニック発作だ_。
《不破さん!?落ち着いて下さい!》
社長がバカでかい声で、そう言った後反応を確かめる為肩を揺さぶった。
だが不破さんの反応は無かった。
「はぁッッッ、ぁごめんなッさ……ごめッッ」
声は途切れ途切れで、呼吸の度に言葉がちぎれていく。彼の体が酷く震えていた。
「俺が、ッ気づいてあげれば…ッッ、」
服を掴む手が更に強くなった。
『不破さん、大丈夫です。ここにいるのは晴ですよ。』
安心させるように、刺激しないように、優しく語りかけた。
だが顔色がどんどん悪くなっていく、このままだと本当に倒れて死んでしまう。
【ふわっち!しっかりしろ!】
剣持さんが頬を軽く叩き、強い口調でそう言った。
不破さんは自分の世界に閉じ篭っている。
不破さんの掴んでいる服の下、僕の心臓が激しく鳴っている。怖い。何が起きているのか分からない。でも、不破さんはもっと怖いんだ。今、彼が見ている光景は、僕たちには想像もできないものなんだろう。
僕は思わず不破さんの頭に手を置き、
桜魔の言葉でそっと囁いた。
『大丈夫ですよ、ここに居ますから。』
ようやく不破さんの呼吸が少し落ち着き始めた。上下していた胸の動きがゆっくりと穏やかになっていく。
「はぁ、…は、ぁ……」
やっと焦点が戻ったかと思えば、僕を見た。
「……甲斐田、…?」
掠れた声で僕を呼んだ。前のように晴と呼んでくれないのか、と少し残念がってしまった自分も居たが一先ず安心だ。
「はい、僕ですよ」
不破さんは自分の手を見た。僕の服を掴んでいる、その手を。それから、周りを見回す。社長、剣持さん、そして僕。三人が心配そうに彼を見つめていることに気づいた。
「…あ……」
湊さんの顔が、みるみるうちに青ざめていった。
「ごめん……」
彼は僕の服から手を離し、一歩後ずさった。
「ごめん、俺……ちょっと、頭冷やしてくる……」
「おい、ふわっち!」
剣持さんが呼び止めようとしたが、不破さんはそれを遮るように
「大丈夫、大丈夫だから……ちょっと、外、出てくる……」
そう言って、不破さんはふらふらと扉へ向かい、ドアが閉まる音。それきり、静寂が訪れた。
一旦ここで区切ります!気が向けば続き書きます……