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まだ陽が若い位置にいた。少し肌寒くGジャンを羽織ってきて正解だったと思う。
いつも通り音楽を聴きながら駅へ向かう。駅につき、ホームに入り、電車に乗る。
終点で乗り換えて、大学の最寄り駅で降りる。
改札から外に出て、券売機の前の広場のような部分で立ち止まり、スマホの電源を入れる。
時間を確認しようとしたが妃馬さんからのLIMEの通知があって
そっちに目がいってしまった。しかしすぐに視線を時刻表示に移す。
11時38分。まぁまぁ良い時間だ。と思った。
僕はいつものようにコンビニには寄らず、そのまま大学の正門から大学の敷地内に入る。
入ってすぐ端に寄り、立ち止まり
スマホの電源をつけ、LIMEのアプリを開き、姫冬ちゃんとのトーク画面に入る。
「姫冬ちゃん急にごめんね。今どこかな?」
そう打ち、送った。なんとなく校内に入ろうとは思わず
正門付近の端っこで立ちながら姫冬ちゃんからの返信を待つ。
空を見たり大学の校舎を見たりしながら
チラチラスマホの電源を入れ、返信が来ていないか確認していた。
すぐに姫冬ちゃんからの返信が来た。
「いえいえ大丈夫ですよ。今は大学っすね!」
それはわかってるんだよなぁ〜。そう思いながら
通知をタップし、姫冬ちゃんとのトーク画面に飛び、返信を打ち込む。
「お昼はー終わった?食堂にとか?」
と送った。またすぐに返信が来るかもしれなかったので画面を消さずに
鹿島とのトークを見直したりしていた。
やはり姫冬ちゃんの返信は早かった。姫冬ちゃんとのトーク画面を開く。
「あ、はい。そうですね?食堂で友達と喋ってます。どうかしました?」
まぁさすがに不審がるよな。と思ったが
「ちょっと待ってて?」
とだけ送って大学校内の食堂に向かって歩き出す。中庭のような部分から食堂へ入る。
割と大きな食堂で入ってすぐ食堂内を見回す。
2限後、ちょうどお昼休憩の時間ということでそこそこの人が食堂にいた。
その中から姫冬ちゃんを見つけ出すのは至難の技だと思ったが
ゆっくりと見ているとなんとなく妃馬さんに似た顔があった。
友達であろう数人の女の子と一緒にいた。恐らく姫冬ちゃんだ。
正直、女子の集団に話しかけるのは気が引けた。
更に僕は誕生日プレゼントを渡そうとしている。なおさら気が引けた。
だがここまで来た。ここまで来たという事実を自信に変え、足を前に出す。
徐々に姫冬ちゃんのいるところに近づく。
イヤホンを耳から外し、肩にかける。近づくにつれ、緊張が増していった。
「あれ?暑ノ井先輩?」
気づかれた。
「おっす」
姫冬ちゃんと話していた
恐らく姫冬ちゃんの友達であろう女の子たちの視線も一気に僕に注がれる。
「どうしたんですか?」
そう半分不思議がり、半分不審がっている姫冬ちゃんに意を決して
「はい。これ」
とビニール袋を渡す。
「え?可愛い袋。なんですか?」
「いや、今日誕生日でしょ?妃馬さんから聞いてさ」
「えっ!?プレゼントですか!?」
「そーゆーことです。おめでとうございます」
「え!?マジっすか!?ありがとうございます!わざわざ買ってくれたんですか!?」
いや、妃馬さんと一緒に買ったんだよ
と言おうとして止まる。
「まぁ、妃馬さんとその話してるときにちょうど服屋にいてね」
となぜか誤魔化した。誤魔化したが嘘はついていない。
「えー!ほんとありがとうございます!」
「いーえー。じゃ、オレはこれで」
「ありがとうございました!」
姫冬ちゃんにはもちろん僕に視線を注ぐ恐らく姫冬ちゃんの友達であろう女の子たちにも
会釈をして、その場から離れる。食堂から出て、正門を目指す。
やはり緊張していたのか、食堂から出た途端、疲れがドッっと襲ってきた。
僕は正門付近で端に寄り、スマホを取り出し、ロックを解除する。
画面にはLIMEのトーク一覧が映し出され、僕は鹿島と匠2人ともに
「今から家行っていい?」
というLIMEを送った。妃馬さんからの通知はなかった。
妃馬さんからの通知がなかったというだけなのに、なぜか疲れが増した気分になる。
僕は最近使ったアプリの一覧を開き、そこから音楽アプリに飛ぶ。
するとアプリの中央のボタンが停止ボタンの表示だった。
そこで音楽を止めていなかったことに気づいた。
僕は今流れている曲を一度停止し、肩にかけていたイヤホンを耳に入れ
もう一度プレイリストをシャッフル再生をし、曲を聴きながら駅に向かい歩き始めた。
駅につき、ホームに入る。ド昼間ということもあり、ホームには4、5人しか人がいなかった。
僕はベンチに腰かけ、スマホの電源を入れる。
姫冬ちゃんからのLIMEがあったのは、まぁなんの驚きもなかったが
まさかの匠からのLIMEの通知があり、少し驚いた。
「いよ。怜夢1人?」
とのメッセージ。僕はその通知をタップし、匠へ返信を打ち込む。
「今んとこ1人。鹿島にもLIMEしたから、もしかしたら後で来るかも」
と送った。次に姫冬ちゃんのトーク画面を開こうと
姫冬ちゃんの名前をタップしようとして、一瞬手が止まる。
「姫冬が画像を送信しました。」
の文字。画像?と思いながらも、姫冬ちゃんの名前をタップし
姫冬ちゃんとのトーク画面へ入る。まず最初に飛び込んできたのがその画像。
姫冬ちゃんが僕のプレゼントした妃馬さんと色違いの
太々しい猫がサングラスをかけてビーチベッドに寝ているTシャツを
顔の横で広げた笑顔の姫冬ちゃんの写真だった。
恐らく先程いた恐らく姫冬ちゃんの友達であろう女の子たちのだれかに
撮ってもらったのだろう。プレゼントして良かった。と思うほど良い写真だった。
駅構内にアナウンスが流れ、立ち上がり、ホームに電車が入ってきて、電車に乗る。
電車を乗り換え、自分の家の最寄り駅の1つ前の駅で降りる。
猫井戸高校が近く、懐かしの光景が広がる。
僕は僕の過ごした青春を思い出しながら匠の家へのルートを辿る。
5から7階建てのマンションがあったり、一軒家があったりする中
匠の家はすぐに視界に入った。一軒家だけど門があり
猫井戸高校のように敷地を塀で囲われていた。
2階建てだけど小さな3階があり、屋上に出れる造りになっている。
とにかくもの凄い豪邸だった。僕は恐らく車用の大きな門の隣の
人が出入りする用の両開きの扉の横に付いているインターフォンを押す。
ピーンポーン。あぁ、そうだった。
インターフォンの音は庶民の僕たちと変わらなかったんだった。
初めて匠の家を訪れたときに感じたことを思い出す。ウイィーン。カッチャン。
鍵の開いた音がする。ドアノブに手をかけ、押す。金属製の扉の開く音がする。
ゆっくり閉めると、カチャン。鍵の閉まる音がする。
飛び石のようなタイルの道を進み、今度は玄関前のインターフォンを押す。
カッチャン。ガチャ。
「おう」
扉が開き、匠が顔を覗かせる。
「おう」
「どぞー」
と扉を支えてくれる匠の手の横に僕の手を置き、扉を支える役を代わる。
「お邪魔しまーす」
恐る恐る挨拶をしながら中に入る。他人の家の独特の玄関の香り。
新築ではないのに新築のような新しい感じの香り。
冷たいような香りが鼻に入ってくる中、うちの3倍はあろう大きな玄関で靴を脱ぐ。
フローリングの廊下に上がり、靴の向きを整える。
「どーする?リビングがいい?オレの部屋がいい?」
「どっちでもいいけど」
「じゃ、とりあえずリビングでいっか。キッチン近いし」
そう言いながら廊下を進む匠。結んだりまとめたりしていない
白よりも少し青みがかった髪が歩く度左右に揺れる。僕はその後をついていく。
左手に洗面所があり、匠に一言かけてから
そこで手洗いうがいをさせてもらい、リビングへ続く廊下を進む。
廊下の天井は僕の家とさほど変わりないが
リビングに入った瞬間、天井の高さが一気に変わった。
リビング部分は2階が吹き抜けになっており、天井は2階の高さだ。
何度か来ているもののやはり圧倒されるこの豪邸。
「てきとーに座ってて」
「あいよー」
と返事をし
「失礼します」
と小声で言いながらソファーに座る。
正直ソファーの沈み具合、硬さなどはうちのソファーと大差なく感じたが
大きさが圧倒的に大きい。うちのソファーは4人がけで
ギュッっとすれば6人座れるかな?という大きさだが
匠の家のソファーは6人がけであろうが6人座ってもギュウギュウにならないソファー1つに
L字になるように4人がけであろう、うちのソファーと同じくらいのソファーが1つに
スツールともオットマンとも呼ばれるものが2つあった。
昔聞いた気がするが何型かわからないがとてつもなく大きいのテレビが目の前にある。
「ハレルヤ、テレビ点けて」
匠が割と大きな声を出す。すると僕の目の前の大きなテレビがパッっと点いた。
「ハレルヤに言えばチャンネルも変えられるから、好きなチャンネルにしていーよ」
「ん。ありがと」
スマートスピーカーを駆使しているとはさすがお金持ち。
こんな豪邸だとさぞかし便利だろうな。と思った。
「氷いる?」
匠が聞いてくれる。
「あぁ〜お願い」
「あいあい」
カランカラン。氷をグラスに入れ
氷同士、氷とグラスがぶつかる涼しげな音がキッチンのほうから響いてくる。
「なにがいー?オレンジジュース、リンゴジュース、ブドウジュース、ソラオーラ
四ツ葉サイダー、Santa(サンタ)グレープ、Santa(サンタ)オレンジ
ココティー(心の紅茶の略称)ストレート、レモン、ロイヤルミルクティー。あと牛乳と水」
怒涛のメニュー読み上げだった。
「え?匠ん家ドリンク屋?」
「飲みたいの買ってったら溜まってた」
「そんなあると悩むな」
「わかる」
「じゃあ、Santa(サンタ)オレンジで」
「わかる」
「わかる?」
「たまに無性に恋しくなるよな」
プシュッっという音が聞こえ、注いで氷にパキンッと割れる音が聞こえる。
「おまちどー」
と言いながらソファーの前のガラス製のローテーブルにグラスを置いてくれる。
カカンッ。ガラスとガラスが触れ合う音が響く。
「さんくすー」
僕はシンプルなグラスを手に取り、氷が浮いたSanta(サンタ)オレンジを1口口に流し込む。
良い意味で駄菓子のガムのようなチープなオレンジの香りと味、炭酸に
どこか懐かしさを感じる。
「っ、うっま!」
「な!」
2人で顔を見合わせる。
「でも匠今実質1人でこの家にいるんでしょ?」
「まぁ〜そうね。父も母も会社に泊まること多いし、仕事で出張なんてしょっちゅうだし
まぁ家にいる時間のほうが少ないから。たしかに実質一人暮らしよな」
「こんな広い家に1人って…どうなん?」
「どうなんって?」
「いや、なんか寂しいというか、怖いというか?」
「ん〜…考えたこともなかったな」
「マジ?」
「あぁでも!マンガとか絵描きながら映画とか
nAmaZon(ニャマゾン)プライムとかで怖いやつを
家の電気全部消して、タブレットとテレビの光だけで見てるときは
さすがにキッチンの奥のお風呂に行く廊下の暗がりとか
玄関までの廊下の暗がりとかはめっちゃ怖い」
「うわぁ〜無理無理無理」
「まぁ大概部屋で絵描いてるか、リビングでなんか見ながら絵描いてるか
屋上で絵描いてるか、庭で絵描いてるかだから」
「うん。とにかく絵描いてるのね」
「そーゆーこと」
「あ、でもさ、鹿島と泊まるとき、ホラー系を真っ暗で見るのアリかもね」
「アリ寄りのアリ」
自分で鹿島と言い、思い出したようにスマホを取り出し
電源をつける。鹿島からの通知あり。
「鹿島呼んでいい?」
「いーよ」
「オッケ」
そう言い鹿島からの通知をタップし、鹿島とのトーク画面へ飛ぶ。
「これから?まぁいいけど、どした?」
という鹿島の返信に
「今匠ん家なう。来る?」
と送る。きっとすごい剣幕で返信来るぞー。と思いながら、トーク一覧に戻る。
妃馬さんのトークの右側に数字がないことに少しがっかりして電源を切る。
「そういえばどうなの?」
唐突な匠の言葉に本気で
「え、なにが?」
と聞く。
「いや、好きな人?気になってる人?とは」
匠の言葉に一瞬僕の思考、時間が止まる。芸人さんの食レポで笑うスタジオの声が聞こえる。
「え?あ、え?ん?なになに?」
匠の言葉を理解するのに少し時間を要し、理解したところで明らかに動揺する。
「どうなの?」
変わらぬ表情で聞いてくる。
「どうって…。どうもないけど…」
変わらぬ表情の匠に押され、つい否定することを忘れていた。
「あ!いや!まだ好きかはわからんよ?」
必死に否定する僕の様子がおかしかったのか、匠が笑い始める。
「別にいいじゃん。なにそんな必死になってんの」
笑う度、匠の綺麗な白より少し青みがかった長い髪が揺れる。
「いやさ、長い間恋愛してこなかったし
この歳になって「好きだ」って言葉に出すことのなんていうのかな。
怖さ?が出てきたんだよね」
「あぁ〜なんとなくわかる」
「わかる?マジ?バカにされるかと思ってた」
「なんでバカにするんだよ」
「いや「この歳になって」とか「好きが怖いー」とかなんだそれっ!って」
「言わねぇよ」
「そっかそっか」
「いやさ、オレも歴は短いし、曲がりなりにだけどヲタクをやらせてもらってるじゃん?」
いろいろつっこみたかったが我慢し頷く。
「でさ、オレより遥かに長い歴のヲタクの先輩方がいるから
オレも自信を持って「マンガが、アニメが大好きだ!」っていうのが怖い…ってか
そのヲタクの諸先輩方に申し訳なかった?んだよね」
わかる。わかるぞ。と思い頷く。
「でもさ、言葉には出せなくても、心では「大好きだ!」って胸張って自分に言えるんだよ。
だからまぁ心のどっかで、どっかに「好き」って気持ちがあれば
それは「好き」なんじゃない?まぁ芸能人とかMyPiperみたいに
「あれも好きー」「これも好きー」なんて言ってると
そこに「愛」は感じられないし、本当に好きかも疑わしくなるから
「好き」って言葉を発するのに慎重になるのは良いことだと思うよ」
面食らった。正論というのもそうだし
自分の考えていなかったことを教えられたというのもそうだし
匠がこんな真面目なことを言うのにも面食らった。
「お…おぉ。匠って真面目なこと言えんのな?」
「はぁ!?オレを誰だと思ってんの?将来、良い話、笑える話を描いて
「ねぇねぇ、あの先生の新刊読んだー?めっちゃ良い話だったよねぇ〜」
「あの先生のあの作品はめっちゃおもろい」
「生きる希望をもらえた」って世の中から言われる匠様だぞ?」
と女の子やいろんな人を声色を変えながら演じ分け、自慢する匠。
「期待してるぞ?」
「まかせとけ」
残り少なくなったSanta(サンタ)オレンジの入ったグラスで乾杯する。コキン。
残りをぐいっと飲み切る。カラカラカラン。
液体が無くなったグラスの底に氷がぶつかる音、氷同士がぶつかる涼しげな音が鳴り響く。
「次なん飲む?」
「あぁ〜…匠の飲みたいやつと同じのお願い」
「オレの飲みたいやつかぁ〜…。オッケー」
と僕と匠のグラスを持って立ち上がり
「飲みたいやつ飲みたいやつ」
と呟きながらキッチンへ向かう匠。
僕はめちゃくちゃ大きいテレビで流れているお昼のバラエティー番組を見ながら
スマホの電源をつける。鹿島からの返信が溜まっていて
やっぱりすごい剣幕だ。と思いながら鹿島の通知をタップし、鹿島とのトーク画面を開く。
「え!?なんで?いやなんで?ってのもあれだけど」
「オレも行ってい?行っていいんこれ?」
「ちょ匠ちゃんに聞いて?」
「あ、あと場所わからんから迎えにきて?」
そのメッセージの後に宇宙人が「返信はよ」と催促しているスタンプが
めちゃくちゃ送られていた。
「スタ爆やめろや」
と呟きながら僕は手元のスマホで、匠の家の最寄り駅の名前を入れて
「ここの駅集合で」
と送信する。3、40分ほどで駅に着くだろうと考え
2つのグラスを手にソファーに戻ってきた匠に
「鹿島来るってー。でも匠の家わかんないから駅まで迎えに行くけど一緒に行かん?」
と問いかける。
「あぁ〜うん。コンビニとか寄る?」
「あぁいいね!」
匠が僕の目の前にグラスを置いてくれる。
りんごの香りがしてりんごジュースだとわかった。
「あんがと」
「ん」
僕はグラスを手に持ち、氷がぷかぷか浮く
りんごの良い香りがする恐らくりんごジュースであろうものを飲む。
りんごの濃厚な味が口いっぱいに広がり、りんごの良い香りが鼻を支配し、鼻から抜ける。
「うんまっ!」
コンビニなどで売っているりんごジュースとは明らかに違い
その香りの良さ、美味しさに驚く。
「うまいよねぇ〜。青森県産。直接青森から送ってもらってる」
「うげぇ〜リッチメーン」
「我が偉大な両親のお陰です」
その後、オレンジジュースは愛媛県から送ってもらってるとか
ブドウジュースは長野県から送ってもらってるとか
リッチエピソードを聞き、実際に飲ませてもらって、その美味しさに感動したりしていた。
匠がキッチンへ立ったとき、スマホの電源をつけると
鹿島に返信をしてから30分近く経っていた。
「あ、匠ー。そろそろ駅行かんとー」
と振り返り、大きな両開きの冷蔵庫を開きながら
次なに飲もうかを悩んでいる匠に投げかける。
「あ、もう?オッケオッケ」
冷蔵庫を閉め、グラスをシンクに置く匠。そしてレバーを上げ、水を出す。
「テキトーに着替えてくるわ」
「別にそれで良くね?」
「部屋着は家で寛ぐときの神聖なもんだから」
そう言いながら、キッチン横の階段を上っていく匠。
しばらくすると吹き抜けで2階が見える部分に匠の姿が見えた。ペタッペタッペタッっと
階段を下りてくる音が聞こえ、ビッグシルエットの無地の白いTシャツに
七分袖ほどまで捲った白の長袖のYシャツを羽織り、シンプルなジーンズ姿の匠が下りてきた。
「んじゃ、行くか」
という匠の言葉に立ち上がり、スマホだけをポケットに入れ
バッグを置いたまま匠の家を出た。