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「月禎さんって、自炊はしないんですか?」
「しないな」
「……もしかして、料理できないとか?」
「したことがない」
「えっ、一度も?」
「ああ。必要なかったからな」
あまりにもあっさり答えられて、瑠菜は目を丸くした。
「じゃあ、お米は?」
「米?」
「炊いたこと、あります?」
「ないな」
「……炊飯器は?」
「持ってない」
「ええっ!?」
思わず声が大きくなった。
月禎はそんな瑠菜を、不思議そうに見つめている。
「そんなに驚くことか?」
「驚きますよ! じゃあ、おうちに何があるんですか?」
「冷蔵庫と電子レンジ」
「……それだけ?」
「ああ。それだけあれば十分だろ」
確かに、買ってきたお弁当を温めるだけなら、それで十分かもしれない。
でも。
(……この人、本当にお料理しないんだ)
仕事ではあんなに何でも卒なくこなすのに。
レジの操作も、商品の検品も、品出しも、一度教えればすぐに覚えてしまう。
それなのに、家に帰るとご飯ひとつ炊けないだなんて、なんだか、ちょっと意外だった。
「そういえば、月禎さん。お店のエプロン、いつも綺麗ですよね」
ふと思い出して尋ねる。
月禎は仕事中、支給されたエプロンをいつもきちんと身につけている。
汚れや皺もほとんどなく、まるで毎日新品を下ろしているみたいだった。
洗濯やアイロンは得意なのかな? と思った瑠菜だったのだけれど……。
「ああ。クリーニングに出してるからな」「えっ!?」
思わず大きな声が出てしまった。
「クリーニング!? お店のエプロンを!?」
「そうだけど?」
「それ、洗濯機で洗えますよ!?」
「……そうなのか?」
「そうなのかって……月禎さん、もしかして洗濯したことないんですか?」
「ないな」
「一度も?」
「ああ」
「じゃあ、普段のお洋服とかはどうしてるんですか?」
「全部クリーニングに出してる」
「ぜ、全部!? 全部って、……もしかして下着もですか!?」
「ああ」
月禎は当たり前のように頷いた。
「……なんでそんなに驚く?」
「驚きますよ! 下着なんて洗濯機で洗えばいいじゃないですか!」
「そういうものなのか?」
「そういうものです!」
瑠菜は思わず頭を抱えたくなった。
この人は、いったい毎月いくらクリーニング代に使っているのだろう。
「……月禎さん、うちの洗濯機、使いますか?」
「いや、いい」
「遠慮しなくても大丈夫ですよ?」
「遠慮じゃない。使い方が分からない」
「教えますよ!」
「へえ。じゃあ、お願いしようかな」
そう言って月禎は、どこか楽しそうに笑った。
(……あれ?)
なんだか、またうまいこと乗せられたような気がする。
「じゃあ、今度お休みが合ったときにでも教えますね」
「ああ。楽しみにしてる」
そう言って笑う月禎を見て、瑠菜は小さくため息をついた。
まったく。この人は、仕事ではあんなに頼りになるのに、どうして私生活ではこんなに世話が焼けるのだろう。
「……あ、もうこんな時間!」
ふと時計を確認すると、午後十一時十五分を過ぎていた。
「すみません、月禎さん。うち、明日も六時からなので、そろそろ……」
「ああ、悪い。引き止めたな」
「いえ。じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ、瑠菜」
瑠菜が玄関へ戻ろうとした、そのときだった。
「そういえば、瑠菜」
「はい?」
「さっき、勉強してたって言ってたな」
「あ、はい」
「何の勉強?」
「高校の数学です」
月禎が少しだけ目を見開いた。
「高校の? なんで今更そんなの……」
「あー、確かに今更、ですよね。……その……、うち、中卒なんです。なので……高卒認定取りたくて」
「……そう、なのか?」
「はい。だから、ちょっと頑張ってみてるんです」
瑠菜は笑った。
「うち、勉強するのは好きなので」
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コメント
2件
家事をする必要のない暮らしをしてたってことかな?
第7話、読み終えました!月禎さんの家事スキルがまさかのゼロで笑ってしまいました(笑)クリーニングに下着まで出してるって…!でも「全部クリーニング」を当たり前のように言うギャップがツボです。そして最後、瑠菜さんが「中卒」と笑いながら言うシーン、胸がぎゅっとなりました。勉強好きなのって本当に素敵なことだと思います。月禎さんがどう応えるのか、気になります〜!