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なむたろー。
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ciel
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テンという名前を指でなぞる。
調べてもそんな名前の天使はいなかった。
ラファエルとか、ウリエルとかものすごい天使ではなくて、少し安心した。
テン、どんな子なんだろう。
そんなこと、知らないまま。
そんなことも、わからないまま。
私専属の天使のテンは、毎日午後の6時くらいに来る。
本人がそう言っていた。
だから、それまでは、頑張ることができる。
今日は少しただいまの言い方を変えてみようと思う。
テンに会って、少しずつ変われているのかもしれない。
本当かはわからないけれど。
この家のドアを開けるのが嫌でなくなったから、きっとそういうことなのだろう。
がちゃ
靴を脱いで、お母さんのいるリビングに足を運ぶ。
お母さんが私の方を見たときに、言ってみた。
「お母さん、ただいま。」
お母さんは昔と変わらない笑顔でのんびりと言った。
「愛季、おかえりなさい。」
曖昧に、うんと返事をしてから、足早に二階の部屋へと向かった。
私は美術部に入っているから、帰るのはだいたい6時前。
だから、すぐにテンに伝えられる。
とんとんと、いつもより軽快な音をならしながら、階段を上る。
カバンをいつものところに置いて、制服を脱ぐ。
中に着ているのは体操服だけだけれど、いつもと違うお母さんを見られたことで興奮していたから、暑く感じた。
視線を感じて窓を見ると、テンがいた。
鍵を閉めているのに開けて入ってくるのだから、最初はびっくりした。
今はもう慣れたけれど。
「やっほー。」
そう言いながら部屋へ入ってくる。
ここ5日ほどは色々なことがありすぎて気にしていなかったけど、家の中に自分しか知らない人がいるって、だいぶおかしい状況なのではないだろうか。
「やほー。、、、あのさ、窓からじゃなくてドアから入ってきてくれない?」
同性で、年下といえども、あまりよろしくない状況なのはわかる。
でも、テンは、常識というか、モラルというか、暗黙のルール的なものを持ち合わせていなかった。
だから、こんなことを言った。
「何で?」
予想してはいた。
頭のおかしいやつだって。
年齢は13、14くらいなのに、家に入ってくるおかしさを熟知していない。
思わずため息をついてしまった。
「あのね、部屋の中に無断で入ってくるのはさ、なんか、よくないじゃん?」
私はテンなら良いんだけれど、私のところに来る必要がなくなったら、次の人が気の毒すぎる。
「んー、でもさ、私は空を飛んで来るわけだから、窓からが良いんだよねー。」
あっけらかんと言ってしまうその姿に感心さえ、感じた。
「まぁ、いいよ。別に。困らないしさ。」
とりあえず、この話を終わらせ、二階にある台所へと向かう。
「ちょっと待ってて。」
冷蔵庫には、私の大好きなプリン。
自分用に2つ買っているけど、もしかしたらテンも食べるかなと思って持っていった。
「テン、プリン食べる?てか、天使って食べれるの?」
純粋に疑問だった。
食事は必要ないんだろうけど。
「いいの!?食べる!」
子供が仮面ライダーを見たときのように目を輝かせるテンは幼く見えた。
私からプリンとスプーンを受けとると、容器の下の方にカラメルがないのを不思議そうにしていた。
「あぁ、それね、カラメルは自分でかけるタイプのやつだから。」
そう伝えてカラメルの袋を渡す。
テンは容器のふたを開けるとカラメルを全部かけて、ぐちゃぐちゃに混ぜていた。
私がプリンの食べ方の中で最も許せない食べ方。
思わず顔をしかめると、私を見たテンはまた不思議そうな表情を見せた。
「何?」
「あんた、そうやってぐちゃぐちゃにしてプリン食べるタイプだったの、、、。」
嫌悪感たっぷりに言うと、テンは頷いた。
「これが一番いいんだもーん。」
えへへと笑うテンは可愛かった。
今日はテンのことを少し知れた。
モラルがないこと、プリンが好きなこと、好きなプリンの食べ方。
まだまだ知らないことばっかり。
いつか全部知れるかな。
そのときまでいてくれるかな。
そんなこと、知らないまま。
そんなことも、わからないまま。
コメント
1件
寺島あおいです🌷 「お母さん、ただいま」って言えた日——それだけで、この子の心のドアがほんの少し開いたんだなって伝わってきて、胸がじんとしました。プリンをぐちゃぐちゃに混ぜるテンに嫌悪感を見せつつ、でもかわいいと思ってしまう距離感、すごく好きです。知らないことばかりのまま、それでも隣にいてほしいと思う気持ち。この静かな淋しさと温かさのバランスに、引き込まれました。