目の前に現れた巨大な獣神。
金色を纏う皮膚は、古来から鋼のように硬いとされており、その手に握る斧を振ればたちまち世界が滅びるとか…滅びないとか。
そんな曖昧な噂が立ったのはいつだっただろうか、なんて考えていると、頭上に大きな斧が降ってくるのが分かる。
寸でで身を翻し避けるも、斧は方向を変え、追ってくる。
すると、目の前をなにか黒い影が通り過ぎたと認識した瞬間、大きな斧は地面に叩きつけられ大きな音を鳴らす。
「ったく…、ぼーっとしないでください」
すたりと軽い音を鳴らし着地したのはゾムさん。彼が一蹴りで斧を落としたのだろう。
落ちた斧をなんとか避けようともつれた足が地面に尻餅をつかせた。そんな僕に手を差し出す彼。
彼は存外、優しいのかもしれない。
「あぁ、ありがt」
「…これじゃ、派遣されたの俺一人同然じゃないですかねぇ!」
「…はぁ?」
出会って早々、なんとなく感じ取ってはいたけど、彼らはどうにも仲が悪いらしい。
売られた喧嘩を前に眼鏡下の紅い瞳がギロリと光る。流石は僕よりも信仰者がいるだけある、背筋がゾクリと震えた。
…いや、大人しかった彼が苛ついた様子を見せたのが、ただ少し、怖かっただけかもしれない。
神獣の動きが少しだけ早くなる。
「手が空いていたってことは忙しくないってこと。まだなりたてで、そのうえお守りさせられるんやから、そこまで偉い神さんでもないんやろ…?w」
ゾムさんがいじめっ子のような、悪役のような太刀の悪い笑みを浮かべる。
そんな彼を睨み続け、何も言い返せないというように唇を噛みながら俯いてしまうぐちつぼ。
…喧嘩するほど仲が良い、とか、…迷信、だったのかなぁ。
「御二人とも。喧嘩するのは良いけど、ここに来た目的を果たしてからやってください?」
「「わかってます」」
返事だけは綺麗にハモる彼らに、仲が良いのか悪いのかとうっかり肩を落としてしまうほどだ。できれば仲良くして欲しい。
そんな僕らを見ていた金の神獣がまた、盛大に斧を振り落とす。
綺麗に敷かれた石畳をえぐるその攻撃を瞬時に避け、ゾムは右に、ぐちつぼは左へと走っていく。
神獣の視線に捉えられたからには、きちんと”囮”として役立たなければ。
また彼らが喧嘩してしまう前に、僕は度々振り落とされる攻撃を避けた。
頬に冷や汗が伝う中、神獣の左右に小さな影が2つ。
ドゴッ!
__バゴッ!
連携攻撃を繰り出す彼らは何故喧嘩をするのだろうか。
目を回す神獣を横に、少し気になったことを聞いてみることにした。
「…僭越ながら、ゾムさんはどちらの将軍にお仕えしてるのかな?」
仲が悪い=仕えている神同士の問題ではないかと、僕は考えた。
ゾムさんがフードの下に隠れる黄緑色の綺麗な瞳を細め、首を傾げ答える。
「”我神”です」
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