「ん⁉それじゃあ、ここに来たのは将軍に言われて…?」
「いえ、将軍は何も知りません」
驚きのあまり聞き返すと、彼はそれを否定した。
”我神”…昔、僕はその神と仲が良かった。
しかし、彼は日に日に人間界で起こされる「戦争」に興味を持ち、そして僕はそんな彼に”命を捨てるそのような行為に興味を持つな”と言えば距離を置き、彼は僕と関わらなくなってしまった。
戦争を好む将軍は幾千と存在している。
けれどどの思考にも僕は賛成することが出来ず、やがて上位であった地位が下から数えては早いほどに下がってしまった。
年月が経つに連れ戦争という文化は衰退していったものの、怨念となった霊体が悪さをする一方、天界では世界中に”神体”が派遣されていくため人手不足となってしまっている。
特に”我神”は常に人手不足だと聞いていたけど…
「…君たちは僕が誰だか、知ってる?」
「ええもちろん。公子殿下でしょ?」
「天界にやってきては幾度となく、他の神の住居を壊す”あの”公子殿下でしょ?」
「あ…ははは、」
彼らの言う通りではある。否定はできない。
「あの」
手を上げたのはぐちつぼだった。
「ん?」
「先ほど倒した神獣…なんですが、こんな姿でしたっけ?」
噴水の土台で隠れていた神獣に目をやれば、そこには人がいた。
これは…
「…君たち、「伝説騎伝」を知ってる?」
「それって…あのデタラメな絵本ですか?」
「__そう」
この見た目は、明らかにあの”戦士”と同じだった。
「”かつての王国には勇敢な戦士がいた”…」
ぐちつぼが復唱する。知っているのだという事実に驚くも顔には出さず、静かに頷く。
「その戦士の姿に、そっくりなんだ」
__僕は彼を見たことがあった。
「ん゛…」
__また、彼も僕を見たことがあった。
「…”らっだぁ”?」
長くなり、目にかかる黄ばんだ髪の隙間から見える琥珀色の瞳と目が合う。
その呼ばれ方は、何年ぶりだろうか。
僕は目の前の彼に、どんな表情を向けられているだろうか。
「”きょーさん”、久しぶり」
彼の手を取り、起き上がらせる。
超常現象が収まった街は元の姿に戻り、横の南琴通りでは沢山の人が声を出し賑わっていた。
フードの彼が一番に口を開く。
「あのぉ…お知り合い?w」
「……」
黄色い彼はその質問に、固く口を閉ざした。
気まずくなった空気の中、僕が代わりに答える。
「いや…”赤の他人”だよ」
僕の言葉に、”黄色い彼”はこちらを見る。その顔が徐々に変化していくのも、横目で分かった。
表情を見たのか、はたまた空気を濁らせてしまったのか、
その後は、誰も、何も話さなかった。