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チャールズの食事に誘われるのは二度目だ。
「さあ、召し上がれ」
「い、頂きます……」
前回よりも料理の品数が多く、豪華だ。
マジル王国の食文化はメヘロディ王国と少し違う。
”ライス”という粒のような種子に水を含ませて、熱を加えるとモチモチとした食感になるものを主食とし、野菜と魚を副菜としている。
今日は野菜と薄く切られた肉が入ったスープ、大きな焼き魚、食べやすく握られたライスが並んでいた。
チャールズはそれらの料理を二本の木の棒で器用に食べているが、私はナイフとフォークを使って食べる。
「今日は、マリアンヌが試験に合格しためでたい日だからね。祖国から新鮮な魚を取り寄せたよ!」
「んっ、弾力のある身と程よい塩味があって美味しいです!」
チャールズの言う通り、焼いた魚の身は生臭さもなく身が口の中でホロホロと崩れる。
メヘロディでは魚は干物でしか食べられなく、干し方が悪いと生臭い味がする。
鮮度が保たれているのは、マジル王国にある”箱”のおかげかしら。
「次は進級試験だね」
「はい」
「リリアンの前ではああいったが、このままの成績だと君の進級は危ういかもしれない」
「そうですね……」
チャールズの言う通り、今の成績では進級が危うい。
「君の成績が十位だったのも、あいつの仕業だろうけど」
「っ! どうしてそれを……」
「マリアンヌのクラスにちょっとした知り合いがいてね。あいつが友人に『課題曲をすり替えたから今度こそマリアンヌは不合格になるわ!』なんて言って高笑いしてたそうだよ」
「やっぱり、リリアンが課題曲をすり替えたのですね」
チャールズに情報を与える人物が、私のクラスにいるとは思わなかった。
それに私の課題曲をすり替えたことは一部の女生徒にしか教えていないはず。秘密裏に計画を遂行したはずだ。それなのに、チャールズの”知り合い”は突き止めている。
「そこまでご存じでしたら、私に教えてほしかったです」
けれど、チャールズは私にそのことを教えてくれなかった。
ふくれ面でチャールズに不満を伝えると彼は「ごめんね」と謝る。
「リリアンは俺の婚約者だからな。あいつに侮蔑と暴言は吐けても、悪事を暴いて陥れることは出来ないんだよ。そうなったら、トルメン大学校を退学させられてしまうからね」
「マジル王国としても、リリアンに傷を付けたくないのですね」
「……そういうことだ」
「チャールズさまの”お知り合い”も、リリアンが度の過ぎたことを公にしないように監視しているのですね」
「まあ、マリアンヌがあいつの不正で不合格にならないよう手は打っていたんだが、君の御父上のおかげで使わなくて済んだ」
「私が十位になれたのも、お義父さまのおかげです」
クラッセル子爵が登場しなくても、チャールズの方で私が不合格にならないよう手を打っていたらしい。きっと、再試験が受けられるといったものだろう。
チャールズは私を助けてくれる存在だけども、婚約者の手前、表立ったことは出来ない。
リリアンが不正をして私を不合格にさせようとしているという情報を掴んだとしても、私に教えてくれないし、それで彼女を制裁することもしない。
チャールズが私の完全な味方であるわけでもない。というか、リリアンに虐められているのも彼のえこひいきのせいだし。
「ああ……、メヘロディ王国の隠し子。彼女がいたらどんなに楽なことか」
「まだ、そのうわさ話を信じているのですか?」
「夢にも出てくる。麗しの姫君――」
「あはは……」
チャールズの意識はメヘロディ王国の隠し子、第一王女に向いている。
相手に霹靂しているチャールズの事だ、噂でしかない幻の姫君に焦がれても不思議ではない。
「お食事、ありがとうございました。とても美味しかったです」
「そうだろう! 時間が取れたら、また誘いに行くよ」
「はい。お待ちしています」
食事を終えた私は、チャールズと別れ、寮へ向かい、私室のベッドに飛び込んだ。
今日は色々あって、疲れた。
(明日の支度があるけれど、ひと眠りしてから……)
私は、疲れを取るため瞼を閉じて、眠った。
☆
翌朝、私は普通科のクラスメイトと共に、国語の授業を受ける。
(あ……)
生徒が三人減っていた。昨日の試験で不合格になった生徒たちだ。彼らは皆、他の音楽科へ編入することにしたらしい。他のクラスでも同じことが起こっているはずだ。
私はクラスメイトが減ったことに寂しさを感じながら、自分の席に座り、先生を待つ。
「さて、授業を始めるぞー」
先生がやってきた。
国語の授業の範囲は、暗記してきている。
今日の授業も同じようにうまくゆく。
そう思っていたのにーー。
「マリアンヌ、教科書を開け」
「っ!?」
先生の指摘を受けた私は、目を丸くした。
「ふふっ」
後ろからリリアンの笑い声が聞こえた。
リリアンの企みにまた引っかかってしまったようだ。