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勇者と魔王の戦い。 それは、この世界で幾度となく繰り返されてきたものだ。 魔族を統べる魔王。 彼らは一つの時代に必ず一人いる。 今代の魔王が倒された時、魔族や魔物の中でも特に強い力を持ったものが、次代の魔王として進化する。 そう、世界によって決められている。 故に、魔王は滅びることはあっても、絶えることはない。 その性質は千差万別。 剛力により拳で地面を割り砕き、谷を作ったとされる魔王。 魔導を極め、千の術を操ったとされる魔王。 そうした魔王たちに共通しているのは、人族に敵対し、いずれも強力であるということ。 勇者はそんな魔王と戦う、人族の希望。 勇者と魔王の戦いは、まさに一進一退。 勇者が魔王を討ち滅ぼすこともあれば、魔王が勇者を退けることもあった。 しかし、魔王が絶えぬように、勇者もまた、絶えぬ存在だった。 両者の戦いは、代を超え、連綿と続いている。 それはこの世界の宿命。 悲劇があるとすれば、その代の勇者と魔王は、互いに相性が良すぎた。 双方ともに、希少な次元魔法の使い手。 次元と時空すら操る神にも匹敵する魔法。 彼らは己の宿命に従い、その魔法を行使した。 二つの魔法がぶつかり合い、世界が悲鳴を上げる。 勇者と魔王は、己の魔法の力に耐えられずに滅びた。 その余波は、時空をも超えて別世界に届いてしまう。 その時空の大爆発は、地球という名の世界の、日本という国の、とある高校の教室で炸裂した。 教室内にいた、総勢26人の生徒と教師は、魔法の直撃を受け、あっけなく命を落とした。 その事件は、謎の大爆発と報道された。 だが、死んでしまった彼らがその放送を知ることはない。 たとえ生まれ変わっても、ない。 なぜならば、彼らの魂は、時空を渡り、勇者と魔王が争う世界に逆流してしまったからだ。 彼らの魂は、新たな世界で飛散し、それぞれが新しい命として生まれ変わる。 これは、そんな彼らのうちの一人の物語。
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うぐおがー!
意味不明のうめき声をあげたつもりだったんだけど、うめき声も出やしない。 それだけ今の私の体はやばい状態なのか? OK、落ち着け私。 体に痛みはない。 国語の授業中に、いきなりものすごい激痛に襲われたところまでは覚えてる。 多分それで気を失ってたんだと思うんだけど、今はどこも痛まない。 けど、目を開けても真っ暗でここがどこだかもわかりゃしない。 というか、まるで体を何かに覆われているみたいな感じで動かせない。 これはまさか、植物人間状態!? うわー。 否定したいけど、状況的にその可能性が高い。 何があったのかは分からないけど、どうやら私は植物人間になってしまったっぽい。 ないわー。 意識だけあって体も動かせない、五感もないとか…。 発狂コース確定じゃないですかー。 ないわー。
と、思ったら、何やらカサカサという音が微かに聞こえる。 聞こえるってことは、聴覚は生きてるわけだ。 うーん。 けど、音が聞こえるだけってのも辛いことに変わりないよね。
ガンッ! あ痛!? なになに? なんかぶつかった? ん? 痛いってことは触覚も生きてる? あれあれ? もう一度落ち着け私。 冷静になってみれば、なんか違和感あるけど、体の感覚あるじゃん! いやー、植物人間とか早とちりだったっぽい。 さっきは体が何かに覆われてるみたいって言ったけど、そのものずばりそのままの状態だったわけだ。 あはは。
いや、笑いごとじゃなくね!? え、何この状況? 麻袋に入れられて拉致? イヤイヤ。 私みたいな最底辺女誰が攫って得するよ? とにかく、脱出せねば。
ピシッ! お、体に力を入れて踏ん張ってみたら、私を覆っている何かが壊れ始めた。 麻袋じゃなかったっぽい。 なんだろうこれ? 柔らかいような、硬いような、不思議な感触。 まあ、壊れるならそれに越したことはない。 このまま壊していざ脱出!
パカッ! 開いたー! 頭から這い出す。 これで私は自由だー!
目の前に大量の蜘蛛がウヨウヨしてた。 ホワィッ!? ウエェェェイェ!? キショッ!? なにこの巨大蜘蛛軍団!? 一匹一匹が私と同じくらいでかいんですけど!? え、なんか卵みたいなものから次々出てくる! さっきカサカサ聞こえてたのはこれかー!! 思わず後ずさる。 足に何かがあたって振り向く。 うん? これは、あれか? 私がさっき這い出してきたものか? なーんか、蜘蛛軍団の卵に似てるように見えるのは気のせいか? 似てるというか、そのものじゃね? 改めて自分の姿を見直す。 首が動かない。 けど、視界の端に私の足らしきものが映った。 蜘蛛の足が。
おおおおおおぉぉぉおおおお落ちちちち付けけけ!!! こ、これは、まさかのあれか!? あれなのか!? 今ネットで流行のあれなのか!? イヤイヤイヤ! ほら、小説とかだと、神様的なやつに特典とか貰うじゃん? 私もらってないしきっと違うはず! 神様出てこないパターンもあるけど、いくらなんでもねえ。 男の場合勇者候補とか、女の場合悪役令嬢とかそういうパターンもあるけどさ。 もう一度チラッと横を見る。 周りにワサワサいる蜘蛛と同じ、細い針金のような足があった。 意識して足を動かしてみる。 私の思い通りに動いた。
うむ。 現実逃避は大の得意だけど、ここは潔く認めなければならない。 どうやら私は、蜘蛛に転生してしまったらしい。