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すごく新鮮だった。妃馬さんと匠は一応顔見知りではあったものの直接話すのは初めてだし
音成さんと匠が一緒にいるのも見たことがない。なんだか、ドキドキしワクワクしていた。
「この後2人でどっか行くんでしょ?」
妃馬さんが音成さんに聞く。
「まぁ〜そうらしいね」
「そうらしいねって。ですよね?」
妃馬さんが今度は匠に聞く。
「そうっすね。ちょっと借ります」
「どうぞどうぞ」
妃馬さんが音成さんの背中に回り、音成さんの背中を押し、匠に近づける。
「ちょっとサキちゃん」
「でもまだどこ行くか決まってなくて」
いやおおまかには決めてたろ。と心の中でツッコむ。
「そうなんですか?んん〜…無難に近いところとか。大吉祥寺ぶらつくとか」
「あぁ〜なるほど」
「それか冷袋の水族館とか?」
「怜夢と同じこと言ってる」
匠がクスッっと笑う。
「なにわろてんねん」
「いや…別に」
「でも時間がびみょーなんですよ」
「びみょー?」
妃馬さんが「?」という顔をする。
「6時で前半?が終わるらしいんですよ」
それだけでなんとなくわかってくれたのか
「あぁ〜」
と納得する妃馬さん。
「まぁとりあえず冷袋に行きたいと思います」
「あ、そうなんですね」
「音成…あ、音成どっか行きたいとこある?あるなら、そこ行こ?」
「ううん。大丈夫。今のとこ行きたいとこはないから冷袋行こ?」
「オッケ。わかった」
匠の気持ちはもちろん、音成さんの気持ちもなんとんなくわかっている僕は
2人が直接話しているのを聞くとなんだか嬉しく、ワクワクし、心臓はドキドキしていた。
そんな新鮮なメンバーで新鮮な会話をしているとあっという間に駅についた。
4人で改札を通り、4人でホームで電車を待つ。新鮮だ。
「鹿島今日のこと話したら悔しがるぞ〜」
隣の匠に言う。
「だな」
と匠が微笑む。ノーマルな男の僕でもこの笑顔に少しドキッ…っとはしないが
カッコいいなとは思うんだから、男が恋愛対象の人から見たら
この笑顔には大概の人は射抜かれるだろうと思う。
「まぁオレも鹿島も楽しみにしてるから」
前にいる妃馬さんと音成さんには聞こえないように匠に少し寄り、小声で話す。
「あぁ。そうね。まぁもう少し先になると思うけど」
「あ、そうなん?」
「うん。今月…の終わり頃かな?」
「土日?」
「そのつもり」
「26か7か」
「そそ。だからまぁその後だな」
「6月入ってからか」
「そうなるな」
「なんかもう6月の話してんだなぁ〜って思うわ」
「わかる。7月にはもう夏だし、夏休みよ」
「マジか。まぁ夏休みは嬉しいけど」
駅構内にアナウンスが流れて、間もなくしてホームに風を引き連れた電車が入ってくる。
電車から降りてくる人を待ち、4人で乗り込む。扉が閉まり、ゆっくりと動き出す。
「夏休み、高校に比べて長いしな」
先程の話の続きをする。
「それなぁ〜。それのせいだわ。オレが大学サボるようになったの」
「ん?」
「いやさ、なんもしなくていい時間長いじゃん?課題という課題もないし」
「そうな?」
「そうなるといざ「大学始まりましたー」って言われても
「あぁ、もう少し休も」「あと少し」「あとちょっと」ってどんどんだらだらしちゃうのよ」
「あぁ〜わかるわ」
「中学高校ってまぁ夏休みって長期休みだけど、宿題も多かったし
学校のこと考える時間が割と多かったから、学校始まっても
「うわぁ〜始まったぁ〜…」ってダルかったけど腹括って行けたのよ」
「あとあれもじゃない?中学高校はなに?
義務教育?だから行かないと卒業できないじゃん?」
「はいはい」
「でも大学って時間割自分で決めれる上に
別にその講義落としたところでなんもないじゃん」
無言で深く何度も頷く。
「それあるわ。それある」
「中学高校は校則校則言ってたけど、いざ自由ですーってなるとなんかあれよな」
「めっっ…ちゃわかる」
「溜めたな」
「溜めた」
妃馬さんと音成さんは2人で、匠と僕も2人でそれぞれ話に花を咲かせていた。
「次はぁ〜大吉祥寺〜大吉祥寺〜」
アナウンスが流れる。
「匠たちはどこで降りんの?」
「んん〜どこだろ」
するとこちらの会話が聞こえたのか、匠の背中を人差し指でツンツンする音成さん。
「ん?」
匠が振り返る。
「真新宿駅で降りて乗り換え…だよ」
音成さんが説明する。
「お、おぉ。調べてくれたの?ありがと、音成」
「うん」
間もなくして電車の速度が落ち、電車が止まる。
「んじゃ、匠、音成さん。楽しんで」
「おう」
「うん」
「じゃ恋ちゃん、小野田さん楽しんでください」
「ありがとうございます」
「うん」
匠と音成さんに別れを告げる。電車の扉が閉まりゆっくりと動き出す。
「なんか音成さん緊張してました?」
「ぽいですね。ちょっと固まってた」
乗り換えの電車のホームで電車を待つ。
「デートだって聞きました?」
「あ、やっぱりデートなんですか?」
「やっぱりというのは?」
「いや、恋ちゃんはただのお出掛けだよって言ってたけど…。なんとなく雰囲気で?」
あまり親友の心の内を話すのもどうかと思ったけど
誰かに言いたいという欲と妃馬さんにならいいかという思いで
「匠は「デートだ」ってはっきり言ってました」
と確信を突くことまでは言わないがある程度わかってしまうであろう言い方で言った。
「あ、へぇ〜。そうなんですねぇ〜」
妃馬さんもなんとなく匠の気持ちを察したようだった。
「でもただのお出掛けって言ってる割には
いつもよりオシャレじゃなかったです?音成さん」
「やっぱそう思いました?」
「なんとなくですけどね?」
「いや、髪もたぶん洗い流さないタイプのコンディショナーつけてるし
服もカジュアルでしたけど結構考えて決めたと思いますよ〜」
「女子にはわかるんですね」
「女の子の第六感は怖いんですよぉ〜」
「嘘はつかないようにしなきゃ」
「ですよぉ〜すぐバレますから」
「…ん?でも妹は全然嘘気づかないけどな」
「え、怜夢さん妹さんに嘘ついてるんですか?」
その返答を言おうとすると駅構内にアナウンスが流れる。
「電車内で話します」
「気になるなぁ〜」
間もなく電車がホームに入ってきて、扉が開き、中から乗客が降りてくる。
僕と妃馬さんは同じ方向に寄り、乗客が降り切るのを待つ。終点なので乗客は全員降りた。
そのため、電車に乗り込むとシートはすごく空いていたが
続々とシートに人が腰かけ、どんどん埋まっていく。
妃馬さんと僕は扉を挟んで扉のサイドのシートの端の壁にもたれかかる。
まだ帰宅ラッシュという時間でもなく、そんなに混んではいなかった。
「で?妹さんにどんな嘘をついてるんですか?」
「いや、めっちゃくだらない嘘ですよ?あと現在進行形じゃないですし」
「あ、そうなんですか?」
「はい。まぁ基本くだらない嘘なんで
そんな隠し通すほどの嘘でもないので妹の反応見た後すぐに嘘だってバラしてます」
「あぁ、揶揄うための嘘ね」
「ですです」
「たとえば?」
「たとえばかぁ〜…。うぅ〜ん」
終点のため止まっている時間が長かったが
駅構内、電車内にもアナウンスが流れ、間もなく扉が閉まった。
ゆっくりと電車が動き出し、慣性の法則で妃馬さんも僕も少し蹌踉めく。
段々スピードが出ていつも通りの速度で走り出した。
「あ、そうそう。妹4つ離れてるんですけど、最初いつだっけな。中1の夏かな?
匠が最初にうちに遊びに来た時、妹、匠のこと気に入って気に入って。
で、まぁ中1っていったらある程度、ねぇ?
なんていうか、ある程度のことわかる年齢じゃないですか」
「まぁ〜…そうですね?」
「だから高2に上がったときに妹に「匠イメチェンしたぞ」って言って
そしたら妹食いついて「坊主にしたよ」って嘘ついたら
「へ?」って変な声とともに魂抜けたような顔になってですね」
「ほんとにくだらない嘘ですね」
妃馬さんがクスリと笑う。
「でしょ?その後「嘘だよ」って言ったら「なんだぁ〜」ってホッっとしてました」
「可愛い〜」
「そうなんですよ。中〜2?くらいまでは可愛かったんですけど
そこからはなんというか、まぁ可愛いは可愛いんですけど
年頃と言いますか、ちょっとツンツンしてるんですよ」
「へぇ〜。でもそれも可愛そうですけどね」
「まぁ可愛いんですよ」
「私はぁ〜、妹とは2個しか変わんないからなぁ〜」
「同じ中学、高校ですか?」
「ですです。体育着とか貸してましたよ」
「お姉ちゃんに借りるんだ?」
「それ姫冬にも言ったんですけど「洗濯して返さなくていいから」だそうです」
「なるほどね。頭良い」
「ズル賢い」
2人で笑う。
「他は?どんなくだらない嘘をついたんですか?」
「他…他…んん〜」
考える。
「あっ、こないだ」
と思い付き、話そうとして立ち止まる。
「スマホ取って」
と言うと妹はローテーブルに置いてあったスマホを手に取り、僕に渡してくれた。
「はい」
「さんきゅ」
「ねぇ、お兄ちゃん」
「なに?」
「キウマさん?って誰?女の人?」
「誰?キウマさんて」
「お妃様の「妃」に「馬」って名前の人」
「あぁ妃馬さんね」
「あれで「キサキ」って読むんだ」
「てかなんで妃馬さんのこと知ってんの!?」
するとニマニマしながら
「LIMEの通知来てたから」
と僕が手に持ったスマホを指指す。
「見んなよ」
と言いながらスマホをポケットにしまう。
「見えちゃったんだよ。で?女の人?」
「そうだよ」
「彼女ぉ?」
楽しそうに揶揄うようにニマニマしている妹に一泡吹かせてやろうと思い
「そうだよ」
と言うと妹は鳩が豆鉄砲を食ったような表情をする。
鳩が豆鉄砲を食ったような表情とよく言うが
よく考えたらどんな表情だろうとか、どんな由来なんだろうとかを一緒考えてしまう。
ポカーンとした表情をした妹を5秒ほど見ているとぷっっと吹き出してしまった。
「なんだその表情」
そう笑いながら言うとポカーンとした表情のまま
「え…だって。え?」
と言うので
「冗談だよ冗談。はぁ〜おもろ」
と言うと妹が
「もぉー!」
と言いながらソファーのクッションを投げつけてきた。
思い出した出来事が「妃馬さんを彼女だ」と言った嘘だった。
別に言っても特に問題ないはずだが、なぜか言いたくなかった。妃馬さんを見ると
「ん?」というような表情で続きを待っている様子だった。
「こないだ〜…こないだですねぇ〜」
必死に思考を巡らせる。
「あのぉ〜匠が髪染めたって話して。
まぁそれは本当のことなんですけど、髪の色真っ青にしてたって嘘つきました」
この話自体嘘だった。
「くだらない」
妃馬さんは笑う。
「そんなくだらない嘘ばっかです」
「いいですね。妹さんと仲良さそうで」
「仲はぁ〜…そうですね。良いほうだと思います」
「そっか!そういえば毎朝妹さんが起こしてくれるとかって」
「あ、はい。よく覚えてましたね」
「仲良いなぁ〜って。それで覚えてました」
「まぁ起こし方雑ですけどね」
「雑なんですか?」
「ふつーに叩いて起こされます」
「雑っ」
2人で笑う。
「こないだなんて僕のほっぺで遊んでました」
「仲良いなぁ〜」
「まぁ、ですね」
「妹さんは〜…4つ違うから今は高〜」
「2ですね」
「2か。部活とかなにかしてるんですか?」
「バスケやってますね」
「バスケ部!」
「意外と頑張ってやってるみたいです」
「強いんですね?」
「んん〜強い〜んですかね?まだあんま試合見たことないからなぁ〜」
「そっか。今年2年ですもんね?」
「そうなんですよ。まぁ中学のときの試合は家族で見に行きましたけど」
「そのときはどうでした?」
「まぁ2年でふつーにレギュラーだったんで、強…うまかったんですかね?」
「そういえば怜夢さんもバスケ部活じゃなかったでしたっけ?」
「よく覚えてましたねぇ〜」
「えへへ」
「えへへ」と笑う妃馬さんに心臓が軽く跳ねた。
「でもまぁバスケなんてそう何年もやってないので
うまいへたなんてあんまわかんないんですよ」
「あぁ〜なるほど。中学のときからバスケ部だった訳ではないんですか?」
「中学のときは〜バスケ部でしたね」
「あ、やっぱり」
「でも2年の前半で辞めましたね」
「なんで?」
「匠と遊びたすぎて」
「理由」
妃馬さんがクスクス笑う。
「いやだって、バスケ部練習キツい上に週3とか結構練習日あったし」
「実は練習がキツいのが嫌だからって理由だったりして」
「んん〜…正解」
「やったー」
くだらない会話をして、無邪気に笑う妃馬さん
くだらないクイズに正解して無邪気に喜ぶ妃馬さんになんだか心が溶けていくような
心になにかが染み込んでいくような、不思議な感覚になる。
「まぁでも球技大会とかでは割と活躍してた気がする」
「自分で言っちゃうんですね」
「いや、まぁ、うん。でも割とチームメイトとハイタッチしてた記憶があるので」
「それはバスケ部やめてから?」
「んん〜そうですね。1年でも3年生と結構ちゃんと戦えてた気がする」
「すごい!カッコいい」
妃馬さんのストレートな「カッコいい」に嬉しくもどこかむず痒い感覚になる。
「その代わりバレーでは全然活躍してなかったですけど」
「それで他でも活躍してたら超人すぎます」
「でも匠は割となんでもできた気がする」
「え、あの人超人なんですか?」
「あの人は…すごいですよ」
「モテモテだったでしょうね」
「まぁ匠がシュート決めたときとかは女子がざわめいてる感じはありましたね」
「ほんとにあるんだ。マンガとかアニメの世界だけだと思ってた」
「ね。でも告白されたって話はあんま聞かなかったなぁ〜」
「へぇ〜。ありそうなのに」
「あいつが言ってないって可能性もありますけど」
「まぁその可能性もありえますね。
でもバスケでそんな活躍してたなら怜夢さんもモテたんじゃないですか?」
「いや、これがね。残念ながらモテなかったんですねぇ〜」
「ほんとーですか?」
「マジですマジ」
「でも恋ちゃんは陰で好きな人は割といたって」
「でもそれはね?こっちはわからないので、ね?」
「モテてたんだー」
どことなくツーンとする妃馬さんの姿になぜかキュンとする。
「いや、でも、まぁね?モテ…そこでモテてなかったら
妃馬さんと出会えなかったかもしれないので…良かったのかなぁ〜…なんて?」
こんなこと言っていいのか?そんなことを心臓がうるさいくらいドキドキの中言葉を絞り出す。
しばしの沈黙が訪れる。電車特有のガタンゴトンという音。
車両と車両の繋ぎ目の扉が揺れる音。人々のなにかをする音。全ての音が鮮明に聞こえる。
「今は?」
妃馬さんの声が一番鮮明に聞こえる。
「今?」
「今はどうですか?」
「今は〜…一切?そんなのはないです」
「そうですか」
なんとなく妃馬さんがホッっとしたように感じて
「ん?なんかホッっとしてます?」
と聞く。
「してないですよー。何言ってんですかー?」
と言いながらも顔を隠すように下を向いたままの妃馬さん。
「んー?」
と覗き込む。顔を逸らす妃馬さん。
「んー?」
また覗き込む。また顔を逸らす妃馬さん。それを繰り返す。
そんなバカなことを繰り返していると妃馬さんの降りる駅についた。