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行方が事務所に向かうと、そこには事件の前兆を思わせる顔ぶれが立ち並んでいた。
「ジンさんに八百万長官……夏目さんに呼ばれて来たんですけど、春木さんと揃っていないと言うことは、不吉な予感は的中……ってことですかね?」
ジンは、青褪めた顔で行方に向き合った。
「そうだね、きっと行方くんの予想通りだと思う」
次いで、異能警察長官、八百万神子も向き合う。
「私たちが以前逃したコードネーム『キキョウ』。一ツ橋剣二は、あの事件以降、第一級犯罪者として真っ先に捉えるべき対象となっていた」
「そこまでは聞き及んでいます。十年前のNo.2にして、現在異能の複数持ち。第一級になるのは当然かと」
「しかし、上からのお達しだ。キキョウは、今後一切、国家権限の下に捕縛は禁じられることとなった」
行方は顎に手を置く。
しかし、焦る素ぶりは一切見せなかった。
「予想通りです。まあ最初にこの事態を予見していたのは夏目さんですが……」
「やっぱり国家と繋がっていたんだ……!」
ドン! と、ジンは強く机を叩いた。
「どこまで罪を重ねる気なんだ……剣二……!」
「ジンさん、落ち着きましょう。国家と繋がったからと言って、キキョウが更に犯罪を重ねるとは限らない。そうですよね? 十文字局長?」
そして、行方は奥に座る十文字燈篭に目配せをした。
「そうじゃ。夏目と春木は、現在神奈川の異能祓魔院へと向かわせておる……」
「異能教徒……。神からの贈り物。異能力に取り憑かれた過激派集団……。遂に動き出しましたか……」
「恐らく、最初に狙われるのは異能祓魔院じゃろう。霊魂を祓う根源たる異能力集団を、最初に潰しておきたいと思うのは当然じゃからな」
「では、僕たちの目的は……」
燈篭は目を尖らせた。
「異能教徒は、大元が捉えられない。枝分かれし過ぎている集団じゃ。しかし、枝分かれしていたとしてもその枝は根に繋がっておる。その枝をしっかり捉えるのじゃ」
「異能教徒に繋がる人物を捕獲、そのまま芋蔓式に大元に辿り着くこと……ですね。了解しました」
ジンは未だ青褪めた顔を浮かべる。
「ジンさん、憶測の話ですが、もしかしたら国家も異能教徒の動きに応じて、キキョウと取引をしているのかも知れません。キキョウは確かに既に大罪人ですが、だからこそ異能教徒との争いに不可欠だと判断された可能性もあります」
「そうだね……気に病んでいても仕方ないか……」
そして、燈篭は改めて行方に書類を渡した。
「引き続き、行方にはこちらを追ってもらう」
「分かりました。『異能教学院の中に潜んでいる異能教徒を捕獲する任務』ですね。檻口教諭の疑わしい行動は既に抑えました。あとは証拠だけです」
「ふふ……頼もしいな。流石は夏目に鍛えられただけのことはある」
行方は書類を受け取るとすぐに背を向けた。
「その話は、あまりしないで頂きたいです」
そして、行方は探偵局を後にした。
翌日、異能教学園の校門には生徒会メンバーが立ち並んでいた。
「行方先生、おはようございます」
「生徒会長、四波慎太郎か。おはよう。今日は毎週月曜に行われる検査日だったな。僕も折角だし立ち会ってもいいか?」
「もちろんです! 生徒に対する姿勢、流石です!」
やがて、疲弊した顔を浮かべる二宮が登校して来た。
「随分と疲れた顔だな、二宮」
「あ、行方くん……おはよう……。昨日のレポート、なんてまとめればいいか分からなくて……」
「行方先生、だが、まあ許してやろう。提出できそうでよかったな。あとで、そのリボン直しておけ」
「はいはい……」
「はい、は一回だ」
暫くして、三嶋グループもやんやと登校して来た。
九恩の姿もそこにはあった。
「止まれ」
やはり、止めたのは副会長、八百万昴。
「あ、今日は検査日か……。すまねぇ、すぐ直す」
「いや……必要はない」
「は?」
ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン!
すると、昴は全員の前に鋼を降り注いだ。
「どう言うつもりだ……? 昴……!」
「生徒会として取り締まっているだけだ」
睨み合う三嶋と昴。
「ちょっと待て……! 落ち着け昴……!」
仲裁に入る慎太郎。
しかし、
「てめぇ……四波慎太郎!! よく私の前に姿を見せられたな!!」
九恩は、敵意剥き出しに会長の胸ぐらを掴んだ。
「あの時は仕方がなかっただろ……!!」
その九恩の圧により、三嶋グループの他の不良たちも威圧感を剥き出しにさせる。
そんな一触即発の空気の中、
パンパン!
「そこまでにしておきなさい」
その空気を止めたのは、檻口だった。
「檻口先生……」
「もう始業のチャイムが鳴ってしまうぞ。いいじゃないか、服の乱れくらい今ここで直せばいいだけさ」
「確かに……それもそうですね……早計でした……」
そう言うと、全員の前に下ろした鋼は消えた。
「おい、昴」
「なんだ、三嶋」
「後で話がある」
そう言うと、三嶋グループは三嶋の指揮で全員速やかに服装を正し、校内へと入って行った。
それに続いて、檻口に並び、生徒会も入った。
「あの……行方先生……」
行方がその背に続こうとした瞬間、コッソリと校門を潜る生徒に引き留められる。
「十二か。遅刻ギリギリだぞ」
「すみません……昨日徹夜しちゃって……。それより、私って音の異能じゃないですか……その、さっき喧嘩みたいなの聞いちゃって……。あとで、三嶋先輩と副会長が後で話すとかも聞こえちゃって……」
「十二はあんな小さな声も聞き取れていたのか」
「はい……。三嶋先輩の声から、覚悟のようなものを感じちゃって……。私、会長の妹の志帆とは少し仲良いから、三人の関係もよく耳にしてるし、心配で……」
「覚悟……。そうか、君は色んな人の声を聞いてきたことで、その人の感情も読み取れるまでの聴力も備わっているようだ。しかし、問題はない。今はな」
「なら、よかったです! なんか、行方先生が言うと安心しますね……!」
「それはそうと、走らなきゃ遅刻だぞ」
「あぁ! いけない!」
そう言うと、十二は駆けて行った。
「副会長、昴の衝動的な行動……三嶋の覚悟……四波慎太郎と九恩の不仲……檻口教諭の歯止め……」
行方はブツブツと朝の光景を脳内に刻む。
「よし、全て分かった。問題は、“あの子” だな……」
そうして、行方も校舎へ入って行った。
放課後、三嶋は昴と相対していた。
「話とはなんだ? 三嶋」
「もう檻口と関わるのはやめろ。昨日の不良集団を仕向けたのもお前たちだろ」
「先生を付けろ、三嶋」
「否定はしないんだな……。どうしちまったんだよ、昴! お前はそんな奴じゃなかっただろ!?」
ガシャン!!
再び、三嶋の眼前に鋼が振り落とされる。
「直に当てても、俺に罰は下らない。何故なら、俺は生徒会副会長で、貴様は不良グループの長だからだ」
「昴……」
ヒリつく空気感の中、三嶋は歯を食いしばる。
「ダチが曲がった時、正してやるのがダチだ……」
三嶋が足に力を入れ、異能を発動しようとしたその時
トン……
ガクッと三嶋は肩を叩かれ、体勢を崩す。
「行方さん……!?」
止めたのは行方だった。
「どうしてここが……」
行方は後ろを振り返る。
そこには十二と二宮の姿があった。
「十二の異能力で、君たちの居場所を探した」
「これはもう俺たちの問題……ダチの俺がなんとかしてやらなきゃいけないんだ!!」
「やはりそうか」
「やはり……? 俺の気持ちがアンタに分かって……!」
そして、行方は昴の奥に手を伸ばした。
「お前の気持ちではない。あそこに、檻口がいる」
「え……?」
昴も行方の言葉に目を丸くした。
その言葉に、檻口は静かに現れた。
「とうとう気付かれてしまったか……まあ、もう十分手駒は手に入ったからいいか……」
不敵な笑みを浮かべ、檻口は近付いて来た。