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「…は?」

何が起きたかさえわからなかった。あいつ、何か言おうとしていた…?よくわからない。いろいろと。とりあえず俺も、用事に向かうことにした。




数十分後、俺は病院についた。兄、シュウは大きな病気で入院していた。重症になる前に治療を開始したので死ぬ確率はかなり低いが、治療には病院の施設が必要らしく、今は入院している。

「よう。大丈夫か?」

「…。」

「…おい?」

「……。」

「はっ?ちょ待て、え、嘘だろ?おいっ!おいって!!!」

『ガバッ』「ワハハハハッッ!!!」

「…。」

「お前今まじで焦ってたろ!?騙されたか!やーい騙された!!」

「…無事ならいいが、今度やったらもう来ねぇからな。」

「そんなこと言うなよ、かわいい弟よ…。ん、花、きれい。」

「あぁ。花屋の店員さんがな…──」




俺の兄は、真っ黒だった。よく嘘をついていた。俺のアイスを母さんが食べちまったとか言って自分が食べてたり、俺のおもちゃを直してあげるとか言って自分で遊んでたり。まぁ、しょうもない子供だった。それでも、たまに優しかったり、頼りにはなったり、運動もできた。明るかったのだ。小さい頃、友達とうまくいかなくて落ち込んでいた俺にとって太陽のような存在だった。

ある日、児童館かどこかで一人、おもちゃで遊んでいると、兄の友達(?)が俺のおもちゃを取ってきた。俺は大泣きした。なんで大泣きしたかはよく覚えていない。そこへ、兄が来た。俺が泣いている様子を見て、兄はひどく怒った。そして、おもちゃを取り返してくれた。

しかし、あるときから、兄は、変になった。

怪我をして帰ってきても、「転んじゃった」としか言わない。そして、よく物をなくすようになった。母が問い詰めても、「ほんとにどっかいっちゃったんだよ」としか言わない。


多分、いじめを、うけていた。

そして、決定的なことが起こった。


ある日、係の仕事で帰りが遅くなってしまい、急いで学校を出ると、通学路に父が乗った車が止まっていた。

「どうしたの?」

「…シュウが怪我をして入院することになった。とりあえず、今から病院へ向かうから急いで乗れ。」

「…!?わかった」

車の中は静かで、ひんやりしていた。俺は心を落ち着かせようと窓の外をずっと眺めていた。多分、これもいじめのせい。そのいじめの原因はきっと…




俺だ。




病院に着き、病室へ行くと、母がいた。母と兄はだまっていた。父が着いて早々、

「何があったんだ。…正直に言いなさい。」

と兄に言い放った。兄は、うつむいて、静かに口を開いた。

「………いじめを、うけています。」

ただ、その一言だけ言った。たった、それだけ。それでもこの一言には重みがあった。きっと、今まで隠していたのは家族に心配をかけないため。そして、俺がいじめをうけていることを知り、悩まないように嘘をついていたのだろう。だからこそ、兄に無理をさせてしまっていたと知り、ドッと胸に何かが押し寄せた。

この日のこの後は俺自身もよく覚えていない。すぐ帰ったのかもしれないし、病室で話していたのかもしれない。

そして、このとき、今の入院につながる大きな病気が見つかったのだ。怪我を負わされてしまったが、病気を早めに見つけられてよかったと話していたのは覚えている。


「学校、楽しいか?」

「あぁ。すごく楽しいよ。」

「遊びに行かなくていいのか?」

「こうして来てるじゃないか。それに、たまに行ってるよ。大丈夫。」

「そうか…。」

「ってか、誕生日プレゼント。何がいい?」

「お前が元気ならそれでいい。」

「…はいよ。んじゃ、そろそろ。」

「あぁ。毎週ありがとな。じゃあな。気をつけろよ。」

「ん。」

『ガラガラガラッ』ドアを閉める。




俺は、真っ黒だ。


心が、真っ黒だ。


そのことにみんな多分気づいている。


それでも、黒くなきゃ生きていけない。


間違っているのかもしれない。


けれど、かつて、兄がそうしてくれたように。


今日もまた、嘘をつく。


それで、兄が救われるなら。兄のために、なるのなら。


俺は、真っ黒でもいい。

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