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「…幻覚魔法、ですか。」

医者から伝えられた言葉を鳥のように繰り返す。

隣室で汗をかきながら唸っているであろう恋人の現状だ。

今日は休日で、俺が愛しのアンナへの手紙を綴っている時に彼奴は茶葉が切れたと言って街へ出かけていた。切れた茶葉は俺の好きな茶だった。

数時間して帰りがいつもより遅いドットに疑問を持ち連絡を入れた。伝言ウサギからは彼奴の声ではなく電話に出れないとの旨を伝える音声で、その折り返しの連絡が来ることは無かった。いつもより帰りが遅いだけだった。出歩いていても何らおかしくない時間帯だったからと、納得してしまっていた。

次に記憶があるのはフィンからの連絡だった。

耳を疑う内容だった。

神覚者数名が追っていた記憶混濁系の魔法薬を作っている研究員と意識のないドットが共に見つかった。

ドットは魔法薬の実験に使われていたのだ。

魔法薬の効力は先程の通り幻覚を見せるものだ。

そこら辺の研究好きの学生の魔法薬とは違い、やはり神格者が動くほどの研究者だ。効果が切れるまでに1ヶ月もかかるそうだ。

ドットは、1ヶ月も幻覚を見せ続けられる。

俺には何も出来ないという事実が重くのしかかる。不甲斐ないな。俺は。






ここは…どこだ?

「くん、」

俺は一体…

「ドットくん!!」

「うわっ!」

至近距離で自分の名前を呼ばれていることに気づいた。

「大丈夫…?」

少し泣きそうな、泣き腫らした後のようなそんな苦しそうな顔をしているフィンを見て不思議に思ったすぐ後に更に疑問符が増えた。レモンや普段無表情なマッシュまでもが同じような表情をしている。あれ…?彼奴がいない。

「信じられませんよね。まさか…っ、」

レモンが泣き出してしまった。何かおかしい。ここに彼奴がいないことといい、皆の様子といい、俺の知らないところで何かが起こったのは確実だ。

「僕も信じられないんだ。ランスくんが亡くなったなんて」

は?今なんて言った?すぐに聞き返したかったが泣き出してしまって聞けそうにない。俺の耳が狂っていなければランスが亡くなった。と言っていた気がする。さすがに嘘だろう。だって彼奴は生きてる。ついさっきまで馬鹿みたいに喧嘩して…喧嘩…?俺、今日彼奴と喧嘩したか?そもそも彼奴のことを見た記憶が無い。なんなんだ。この感じ。胸の奥がぽっかり空いた感じ。記憶がするりと抜け落ちている。

「ランスが、死んだ…? 」

零れてしまった答えなど期待していない問にマッシュが答えてくれた。

「うん。プリンの人?と戦ってた時にドットくんを庇ってそのまま…」

俺を庇って…?は?彼奴はあの時妹の缶バッジに守られてて…

でも、何を考えても今ここにランスはいない。それが全ての答えなのではないか…?

「っ、は?彼奴が…?俺のせいで?」

おかしい、おかしい、おかしい、おかしい

「ランスっ…」

周りが真っ暗になった。

さっきまでいたはずのマッシュ達の姿が見当たらない。代わりに目の前にいるのは会ったことはないけれど見覚えのある少女…

どこかの誰かと似ている空色の髪…

ロケットペンダントで見た眩しい笑顔の少女、

「アンナちゃん…?」

「そうだよ」

なんでここにアンナちゃんが…?

「ドットさん、」

名前…なんで…

「お兄ちゃんはっ、ドットさんを庇ったからっ!!!!」

可愛らしい笑顔がみるみる剥がれていく。中の醜い表情が顕になる。

アンナちゃんじゃないっ…

「ふざけないでっ!!!」

「っ、お兄ちゃん…」

目の前で泣き崩れているのはアンナちゃんそのもので、さっきの化け物のような顔ではなく、間違いなくロケットペンダントの中にいた少女だ。

俺のせいで…ランスが死んで、アンナちゃんが悲しんでる…

「うぁ、ぁ、ああああああああああああ」

自分の理性がほろほろと落ちているのが分かる。俺もどんどん堕ちていく。







鼻から脳まで一気に突き刺すような刺激臭がする。紫色の液体がゆらゆらと揺れている。俺は、何をされてたんだ…?

頭の中で大量に疑問が回っている時に背が大きい2人の男が入ってきた。そして、手足を台に押さえつけられた。

「っ!なにすんだよっ!!!んぐっ!?」

何か飲まされている。喉が痛い。息ができなくて苦しい。抵抗する力が抜けていく。ついには意識を手放す。

次に目覚めたのは自分が返り血で汚れている時だった。手にはナイフが握られている。誰の血だ…?目の前を確認するとそこに倒れているのは見慣れた顔。ランス・クラウンだった。

俺が殺した…?

状況証拠的に見て誰もがそう思うだろう。だが自分には殺したという記憶が無い。逆に殺してないという記憶もない。

怪しいのは…紫色の液体…?

意識を手放す直前の男達の会話…多分。確証は無いが洗脳系の薬だろう。

俺を洗脳してランスを殺させた…?

なんで、そんなことを。

第一何故ランスは殺されるほど恨まれているのか。いくら顔がいいからって、成績が優秀だからって殺す。という発想にはならないだろう。

じゃあ、なぜ?

「お前に対する戒めだよ」

耳元で声がする。戒め。俺が何かしたのか…?自戒人であることの戒めは額にある十字のアザがある。自戒人であること以外に何か…

「ドットくんっ!」

「チンピラ」

「ドットくん、」

「ドットくん!」

まさか、彼奴らと関わったことが罪なのか…?そんなに残酷なことがあってもいいのだろうか。じゃあ、もしかしてランスだけじゃなくて…

しっかりと辺りを見回すと、血の海が出来ている。海の中心には

フィン、マッシュ、レモン、ランス…

俺が…殺した…

俺は、俺は、俺は、俺は、俺はっ、 !!!!!!

『絶対に裏切るな。』

姉ちゃん、ごめん。俺、おれっ…

もうだめだ。




「ランス・クラウンは死んだ。」


「もう、ダメです。ランスくんは…」


「お前のせいでっ、ランスがっ、 」





何回やっただろう。

どれだけ繰り返してもどんなに足掻いても結局ランスが死んだところから始まる。

全部俺のせいで。

もう嫌だ。本当に嫌なんだ。

…俺が死ねばいいんじゃないか

簡単な事だったんだ。自分が死ねばいい。

今までありがとう。母さん、父さん、姉ちゃん。

マッシュ、フィン、レモンちゃん、先輩方、先生

ランス。

杖を自分の方へ向ける。

口を軽く開け固有魔法を唱える。

「エクスプロ…「ドット!!!!」




1ヶ月間。それは普通に過ごしていればあっという間の時間だっただろう。だが、俺にとってはもう一生終わらないのではないかというくらい長く、苦痛なものだった。

目の前でドットが苦しんでいるのに助けてやれない。解決方法は時間経過だけ。

眠れない日が続いた。目の下のクマはもう真っ黒だった。

1ヶ月が経った日、皆がドットのところに集まっている。

腕が動いた…!

やっと目覚めるのかと、誰しもが安堵したその時

自分の首に杖を構えた。

口が動く。此奴の固有魔法を唱えようとしている。

そんなことをしてしまったら…

「ドット!ドットっ!!」

身体を揺さぶり耳元で大きく叫ぶ。

嫌だ。またお前の淹れる紅茶を飲ませてくれ。お前と沢山喧嘩させてくれ。また俺の隣で笑っていてくれ…






「んぁ…? 」

どれほど待ちわびたことか。

目を覚ました。

ゆっくりと瞼をあげ、久々の明るい世界に慣れるように瞬きをしている。

「ランス…?」

「ああ。そうだ。」

「生きてる、?」

「生きてるぞ。」

「みんなも…?」

「もちろん!僕たちも生きてるよ!」

「シュークリームがある限り死なないよ」

「大丈夫ですよ!ドットくん!私達も生きてます!」

ドットは安心したように微笑んで

「そっか、」

と言いそのまま少し寝てしまった。

ちゃんと数時間後には起きた。




俺はどうやら危ない奴らに人体実験みたいなのをさせられていたらしい。

幻覚を見せる魔法薬を飲まされて1ヶ月も眠っていたらしい。情けないな…

暫くは入院生活が続いた。1ヶ月も寝たきりだと身体が鈍ってしまっていて歩くのも一苦労だった。また、入院生活が終わった後、俺が行くとこ全てにランスがついてくるようになった。部屋も同じなのでほぼ一日中一緒に居る。

周りからはドン引きされているが、俺は別に嫌じゃなかったり…なんて…。

うっかりそんなことを彼奴の目の前で滑らせてしまった時はそれはそれは大変だった。

おはようからおやすみまで全ての会話の後に

「付き合おう」

と言ってくるもんだから“仕方なく”付き合っている。“仕方なく”ここ大切な。


今日はランスと2人で買いに行った茶葉でお茶会をする日だ。

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