あれから十年が経った。彼が冬によく着ていたグレーのニットの色。
下校のときに見かけた風景。
あの学校の近くを通るたびに、ふっと思い出す。
「もう帰るの?」
――あの声が、今でも耳の奥に残っている。
あの時、もし少しでも話していたら何か変わっていたのかな、って思うこともある。
でもきっと、あの場所、あの時間、あの空気の中でしか生まれなかった記憶だから、
あれで良かったんだと思う。
結局、その後一度も会っていない。
SNSで探すこともない。
十年前の春、たった一言で心が動いた。
今でもその記憶は、私の中で静かに息をしている。
十年前の声は、いまも静かに胸の奥で響いている。
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