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【これは、何かを抱えていそうな幽霊さんが誰にも内緒で午前〇時に料理をするお話】
1皿目【オムライス】
今日はなんだかオムライスが食べたい。
そんな思考に脱力していた体をグッと持ち上げて、ひっそり部屋を出る。
「…」
ホロホロの鶏肉が入ったチキンライスの上に、火をしっかり通して少し固めに。
でもところどころトロッとさせて形を整えた卵の上に、昔ながらの甘酸っぱいケチャップソースをたっぷりとかけたアレ。
「ンー…」
でも今は午前零時と深夜帯。
俺の空腹を満たす為だけにレウさんを起こすわけにもいかず、困った末に俺は自力で脳内でほかほかと湯気を燻らせるツヤツヤのオムライスを作ってやろうと決意したのだ。
「…ウン、全部アルネ」
冷蔵庫から材料を取り出す。
まずはやっぱりチキンライスから。
冷凍されていた鶏のササミを一切れ拝借…どうせ残り物だからいいのだ。
一口サイズに切ってフライパンに乗せた途端、ジュワッと焼ける音が聞こえる。
「…ァ」
一瞬、みんながこの音で起きてしまうんじゃないかと不安になって火を止めてしまったけど、よく考えたら俺が肉を焼いてるのは一階ので、みんなが寝ているのは二階。
…しかも、お互いに端っこ。
俺が今いるキッチンは東の端で、みんなが寝てる個人部屋は西の端側。
まったく、聞こえるわけがないじゃん。
「フゥ…」
気を取り直して。
ササミを全て入れて軽く火が通ったら、今度は冷蔵庫に余っていた冷やご飯を投入。
今日の夜ご飯はカレー…見事完食したんだけど、明日の朝に持ち越すには微妙な量のご飯だけが余っちゃったんだよね。
ここで役に立つ為に残ったんだ、きっと。
そう脳内で独り言を呟きつつ、木べらで適当にほぐしてさっと混ぜ合わせておく。
「ケチャップ…ハッケン!」
夜遅い時間には眩しすぎる冷蔵庫の青白い光を遮ってケチャップを引っ張り出す。
最近は使う機会がなかったから奥の方に隠れ潜んでいたらしい。
ご飯の上にビャーッと勢いよくぶち込んで、不意にブビャッと服にはねたケチャップを慌ててティッシュなんかで拭いつつ、全部まとめて火にかける。
「サイアク…」
そう簡単に落ちてくれないのが調味料。
マヨネーズはブビャッてならないのに、どうしてケチャップはブビャッてなるんだろ?
少し放置していい具合に焼けたケチャップをかき混ぜて全体に馴染ませていくと、途端にそれらしい匂いがキッチンを漂い始めた。
「フフッ」
ここまで失敗なし…とは言い難いけれど、味に関する失敗はゼロということに嬉しくなって頬を緩める。
そのまま塩、コショウの容器をそれぞれ手に取った。館のキッチンに置いてある塩とコショウの容器は正式名称がわからない、容器を捻ってガリガリするタイプのアレ。
ペッパーミル、なんてよく聞くけれど…じゃあ塩の方はなんて言うんだろう?
ソルトミル?…うーん、ヘンな名前。
「コレクライ…?」
その両方をいい具合にガリガリして、またフライパンの中身を平らなクッキングヒーターの上にポロポロこぼしながら混ぜる。
こういうのは、結局ちょっと濃い味がウマイんだと誰かさんが言っていたような…?
はて、それが誰だったかなんてくだらない話はさておき、混ぜ終えたチキンライスを皿の上に山みたく盛り付けた。
チキンライスを卵でくるりと包んだやつが理想だけど、俺は現実から目を逸らさないタイプなので今回は遠慮することに。
「ヨシ…」
今回はちょっと贅沢に卵は二つ。
バレた時、レウさんにお小言を言われるかもしれないけど、それはそれ。これはこれ。
殻を巻き込むことなく小さなボールの上に落とした卵はこってりした夕焼け色で、良い気分のまま軽ーく混ぜた。
以前、夕食にオムライスを作っていたレウさんから聞いた話だけど、混ぜすぎない方がふんわりするんだって言ってた…はず!
「ンー、良イ匂イガスル…」
オムライスの花形でもある卵を焼く為にフライパンに滑らせたバターが、じゅわりと音を立てて、溶けて、広がった。
そこに一気に卵を入れて、火を弱くする。
じゅわじゅわと薄く広がった卵に火が通って、思わず深呼吸したくなるような優しい匂いに張り詰めていた神経を解いた。
…この時間なら、誰も見てない。
ケチャップいろのチキンライスを覆い隠すように、黄色い卵がふんわりと着地した。
「完成」
一人で作り上げたオムライスを前ににんまりと笑みを浮かべながら、最後の仕上げにケチャップをかける。
今度はブビャッてならないように、そっと。
「…イタダキマス」
オムライスのトロッ、ほろっとしたやつをよく噛んで飲み込む。それから、すこし気の抜けた炭酸飲料をガッと煽ればもう最高。
止まらない、おひとり様の時間。
あっという間に食べ尽くして、満たされたお腹を撫でさすりながら息を吐く。
…とても、幸せな時間だった。
「後ハ…ハァァッ…」
…面倒な後片付けを除けば。
俺は白み始めた窓の外の景色を眺めながら、しばらくは椅子の上でぼんやりと過ごした。
『なんでお前ばっかり…!』
…俺はちょっとヘンな幽霊だから。
元はらだおくんの非常食として生かされていたニンゲンっぽいナニカだったから。
だから、今でもみんなへのイタズラが許されてたりする。
『才能なんてないくせに…!!』
…俺はちょっとヘンな経歴だから。
ここにくるまで…それまでの道が、他のみんなよりちょっと特殊だったから。
だから、怠惰でも許されちゃうことも割と多かったりする。
『お前が失敗しなければッ…!!』
…らだおくんは、ヘンに優しい人だから。
らだおくんだけじゃない…周りの人達がみんな優しい人ばかりだったから。
だから、誰も本気で俺の失敗を責めてくれなかったりする。
『お前さえ間違えなければ…!!』
それがいつかの俺にとっては、ほんの少しだけ…苦しかったりもする。
本当に、ただただ自己中心的な独り言だ。
コメント
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自分が深夜帯にお腹が空いた時にのみ更新されるお話になります🍴 余談ですが、オムライスは野菜アリじゃないと駄々捏ねたくなるタイプの人間です。 デミソースのオムライスはあんまり得意じゃなかったりする… デミソース派を否定したり喧嘩売ったりしたわけじゃないから、派閥の人は怒んないでね🥺