テラーノベル
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周囲を見渡せば、他の騎士たちも馬から落ち、地面に這いつくばっていた。馬は巨人に慄き、次々に逃げ出している。
自分たちの足はなくなってしまった。不退転の決意で戦うしかない――そう考えたダーレンは、剣を横に引いて地面を蹴った。
視線を移せば、少し離れた場所にいるティムも巨人に向かって走っている。こちらに合わせて攻撃するつもりだ。
「付き合いが長いだけのことはある。行くぞ、ティム!!」
真横から「はい!」というティムの返事が聞こえてきた。ダーレンは前を向き、巨人に意識を集中する。
自分の〝恩寵〟を使うなら今だ。走っているダーレンの足が、ボコリと膨らむ。筋肉が隆起し、足の寸発力が跳ね上がる。地面を蹴ると、一瞬で巨人に迫った。
これがダーレンの恩寵。足の筋力を増強し、尋常ならざる速さで大地を駆ける。
剣を巨人の足に突き立て、抜いた勢いで回転し、巨人の足を斬り裂いた。巨人は咆哮を上げ、足をばたつかせる。
痛がっているようだが、デカすぎて致命傷を与えられない。
「ティム!!」
ダーレンは後ろを振り向いて叫ぶ。ティムはすでに戦闘態勢に入っていた。剣を振り上げると、剣身にクルクルと風が渦巻く。あれがティムの〝恩寵〟――風の斬撃を生み出し、相手を斬り裂くというものだ。
人間ならば一刀両断にすることもできるが……。
振り下ろした剣から風の刃が飛んでいく。巨人の顔に当たって弾けるが、やはり大した傷にはならない。小さな切り傷ができただけだ。
「くそっ!」
ティムが苛立ったように吐き捨てる。他の団員たちも剣を振り上げ、巨人に突っ込んでいった。
だが、巨人も攻撃されたまま黙ってはいない。雄叫びを上げて足を踏み落とす。二人の騎士が踏み潰された。さらに巨人は近くにあった木を引っこ抜き、力まかせに投げつける。
巻き込まれた三人の騎士が、木の下敷きになってしまった。
このままでは大変な被害が出てしまう。危機感を持ったダーレンが叫ぶ。
「〝恩寵〟を持った者だけ前に出ろ! 残りは後方支援。後ろに下がれ!!」
号令を聞いた騎士たちは後ろに下がり、三名の騎士が前に出る。〝恩寵〟を持った団員たちだ。
三人は一斉に駆け出し、剣を構える。一人の剣には炎が灯り、一人の剣は冷気に包まれる。もう一人は地面を強く蹴ると、土塊が盛り上がり、高々と体を持ち上げる。巨人の目線まで移動すると、騎士は剣を振りかぶった。
火と氷と土の〝恩寵〟を持った団員たち。彼らがいる限り、こちらの勝利は揺るがない。
そうダーレンが確信した時、巨人は耳をつんざく雄叫びを上げた。
「うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
遥か彼方の山まで届きそうな咆哮。ダーレンは耳を押さえ、身を低くするが、頭が割れそうになる。
恩寵を持った騎士たちも機先を制された。二人の足が止まり、土塊に乗った騎士もバランスを崩し、土の上から落下してしまう。地面に激突する寸前、柔らかい土で自分の体を受け止めた。どうやら無事のようだ。
ダーレンはホッと息をつくが、状況はなにも好転していない。
「もう一度、攻撃を叩き込む!」
ダーレンを始めとする五人の騎士たちは、再び剣を構え、巨人を囲むように足を運んだ。
◇◇◇
アリスは家に戻り、夕飯を作り始めていた。
ゴブリンソルジャーのグリンも調理を手伝ってくれている。少し長めのナイフを器用に使い、野菜を賽の目状に切っていた。
「グリン、これもお願いね」
「ああ、分かった」
まな板に野菜を置き、アリスは魚を焼こうと火鉢に炭をくべる。その時、遠くからなにかの音が聞こえた。グリンが真剣な顔になり、南の方角を見る。
「なに? いまの音」
「バーンだ。バーンが叫び声だ」
「それってどういう……」
アリスの聞く間もなく、グリンはナイフを鞘に収めて裏口に向かう。
「ちょ、ちょっと! グリン、どこに行くの!?」
「俺は様子を見てくる。アリスはここにいろ!」
呆気に取られるアリスを残し、グリンはそのまま家を飛び出した。
◇◇◇
ダーレンは間を置かず、怒涛の攻撃を続けていた。
ギガンテスの足元を駆け回り、無防備な足を斬り付けていく。大した傷にはならないものの、数を重ねればそれなりのダメージにはなるだろう。ティムも少し離れた場所から〝風の刃〟を撃ち込んでいる。
巨人の手が届かない範囲からの攻撃。こちらも回数を重ねれば有効だ。
恩寵を持つ騎士たちの攻撃も止まらない。炎や冷気の刃が巨人の足を襲い、土を操る騎士は足場を築き、巨人の顔面に斬りかかる。
これには巨人も反応し、なんとか捕まえようと手を伸ばす。気を引くことに成功している。
100人近い騎士たちも、遠巻きから弓や槍で援護する。
このままいけば充分倒せる! ダーレンがそう思った刹那――巨人は山肌にあった岩を持ち上げ、遠巻きにいる騎士たちに向かって放り投げた。
騎士たちは蜘蛛の子を散らしたように逃げたが、間に合わなかった数人が下敷きになる。
「くそっ!」
ダーレンは歯噛みするも、攻撃の手を緩める訳にはいかない。
さらに攻撃を仕掛けようと剣を振り上げた瞬間、なにかかが視界を横切った。真っ赤に燃える炎の塊。赤い炎はティムに突っ込み、爆発するように炎上した。
「ティム!!」
なにがなんだか分からず、ダーレンは燃え上がるティムを凝視した。炎の塊はゆらゆらと浮かび上がり、羽を広げて空を舞う。
――あれは……鳥? 炎の鳥か!?
それは本の中にしか出てこないモンスター。火の鳥、フェニックスだ。実在するなど聞いたことがない。
ダーレンが呆気に取られている中、断末魔のような悲鳴が聞こえてきた。視線を向ければ、炎の恩寵を持った騎士が、大きな獣に食いつかれ、血まみれになている。
「なんだ……なんだ、あの魔獣は!?」
四足歩行の魔獣で、長い尻尾がある。全身を覆う毛は金色に輝き、鋭い眼と鋭い牙をこちらに向けている。
後方で、誰かが「フェンリル」とつぶやいた。フェンリルは北の果てにいるという伝説の魔獣だ。ギガンテスと同じくらい希少なモンスターなのに、どうしてこんなところに!?
さらに悲鳴が聞こえてくる。騎士たちの囲いを、何者かが突破してきた。
ダーレンは一歩、二歩と下がりながら相手を見る。馬に乗った騎士……首のない騎士だ! 黒い鎧を着込んだ化物がこちらに向かってくる。ダーレンはかつてない恐怖を感じた。
首のない騎士は御伽噺にしか出てこない。確か、デュラハンと呼ばれるモンスター。
出会った者は必ず殺され、首を刎ねられると聞いたことがある。そんなモンスターが目の前にいるのか?
後方からも悲鳴が上がる。ダーレンが慌てて振り向くと、巨大な鳥が騎士を掴み、上空に舞い上がっていた。
――あれはグリフォンじゃないか! この国にいるはずがない。
グリフォンは高々と空を舞い上がり、そこから騎士を落とした。人間ではどうすることもできない。騎士は地面に激突し、物言わぬ骸と化す。
有り得ないことが起きている。ダーレンはいまの状況が理解できなかった。
そして混乱はピークを迎える。山の中腹にある岩場に、一体のモンスターがいた。それは存在は知られているが、滅多に姿を見せないモンスター。そして、もっとも恐れられている魔獣でもある。
「……ドラゴン。あんなモンスターまでいるのか……」
噂は本当だった。これほどのモンスターたちがいるのなら、グロスター帝国の軍隊が全滅してもおかしくない。いや、むしろ必然と考えるべきか。
ドラゴンは口からチロチロと炎を吐きながら、こちらを見ている。
あんなものに襲われては一溜りもない。ダーレンは撤退しようと考えたが、自分たちに馬はなく、負傷者もいる。
顔をしかめながら逡巡していると、木々の向こうからなにかが飛び出してきた。それはまっすぐダーレンに突っ込んで来る。
剣を使って防御すると、剣に二本のナイフが当たる。突っ込んで来たのは人間だ。頭に白い布を巻き、逆手に持った二本のナイフで攻撃してくる。
なぜ人間が!? ダーレンは困惑したが、力づくで剣を振り、相手を弾き飛ばす。
襲って来た人間は空中を回転し、軽やかに着地した。ダーレンは改めて目の前にいる人間を見た。
つぶさに観察し、衝撃を受ける。緑色の肌に、赤い瞳。人間ではない。ゴブリンだ。
「なぜ、ゴブリンが……」
「お前ら、また山を荒しに来たんだな」
ダーレンは耳を疑った。ゴブリンが人間の言葉を話した。それもハッキリと。
「山を荒し、仲間を傷つけるヤツは許さない。全員、ぶっ殺す!!」
ゴブリンは二本のナイフを逆手に構え、鋭い眼光を向けてきた。なにがなんだか分からないが、やるしかない!
ダーレンは覚悟を決め、剣の切っ先を相手に向けた。地面を蹴って突っ込んで来るゴブリン。
互いの剣がぶつかり合い、火花が激しく舞い散った。
コメント
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モンスターと騎士団の衝突。 撃退に進んでも和解に進んでもどちらも面白そうです。