ループ0…死の起点
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空気が張りつめていた。迷路の奥は闇が濃く、息を吸うだけで胸が痛む。 セドリック・ディゴリーは汗ばむ掌を握り直しながら、隣に立つハリー・ポッターを横目に見た。彼は震えながらも、前を見据えている。
(大丈夫だ。ここまで来たんだ。どんな結果でも……誇れる。)
そう思った瞬間だった。
――あのポートキーに、触れた。
胸の奥がきゅっと縮むように引き絞られ、視界がねじれ、風が耳を裂いた。
着地した場所は、墓地だった。
嫌な匂い――土と冷たい霧の臭いが、肺の奥まで染み込んでくる。
「ハリー……?」
返事はなかった。代わりに聞こえたのは、乾いた笑い声。
「殺せ」
その一言が、やけに鮮明に耳に残った。
セドリックは反射的に振り返った。
そして――緑色の光が眼に映った。
走馬灯など流れない。
ただ、ほんの一秒だけ、思った。
(父さん、ごめん。僕……まだ、やりたいことが……)
胸を撃ち抜かれたような痛みが走り、世界が闇に沈む。
声も出なかった。
恐怖も、最後には感じられなかった。
――死んだのだ、と、どこか冷静な自分が告げた。
*
暗闇の底から引き戻されるように、セドリックは目を開けた。
まぶしい朝日。
見慣れたハッフルパフ寮の天井。
「……え?」
声が掠れた。
シーツは温かく、体も痛くない。
生きている。そんなはずはない。
胸に手を当てる。
確かに鼓動がある。
でも、ついさっきまで――自分は墓地で、あの緑色の光に飲まれて……。
「悪い夢、じゃ……ない」
夢ならいい。
でもあれは夢ではなかった。
死の感覚は、あまりに鮮明すぎた。
ぼんやりしていると、部屋の扉が勢いよく開いた。
「セドリック、起きてる? 今日、代表者の発表の日だぞ!」
同室のメイトが笑いながら入ってくる。
セドリックはその言葉に、ゆっくりと顔を上げた。
――代表者の発表?
それは……トライウィザード・トーナメントの代表が決まる日の、朝ではないか。
(……戻ってる? どうして?)
心臓が早鐘のように鳴り始めた。
間違いない。
自分は“死んだ”。
そして今――“トーナメントが始まる前”に戻っている。
「……なんでだよ」
思わずこぼれた声は震えていた。
助かって嬉しい、なんて感情はない。
ただ、理解できない恐怖と、胸の奥にわだかまる重さだけが残っていた。
そうしてそれは始まった。
セドリック・ディゴリーも気づかぬうちに…
死と再生のループの一周目が、、
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