テラーノベル
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心の傷というものは、見えないものだ。
誰にわかってもらえることのない、ついたら一生消えない傷。
…だがどうだろう、この傷というものは姿形はないのに人々に古くから愛されてきている気がする。
この傷が痛いと、苦しいと人々は泣いて叫んで共感を求める。
幽霊とか、怪奇現象とか、言葉とか、絆なんてものは信じようとしないのにね。
『はぁ』
ため息をついた。目を閉じて、瞳が金色に光る時。
僕には人の心の傷が視える様になる。
これでも結構頑張った方だ、昔はなりふり構わずそばに人間がいれば
例えどんな時でもずかずかと視えていたのだから。
多少はコントロールできるようになったことは、僕のクソみたいに傷だらけな世界を大きく変えた。
まぁ、それでも中に相手が入ってくる感覚はあるし視える時は視えるんだけど。
『…視えた所で、って話なんだけどな』
一人でボソリと呟いた。高層マンションの38階から地上を眺める。
忙しなく人々は動き、渋谷の街は日々に生きている。
金色に輝く瞳が揺れた後、いつもの白い目に戻った。
俺はアルビノで肌も弱く、色素が薄いため真っ白だ。髪は染めているが瞳を染めるのは痛いし
金がかかる。…そこまでしなくても今の時代は便利でカラーコンタクトなんてもんが存在するんだから
白い瞳は簡単に隠せた。
両親はこの瞳や俺の姿を気持ち悪がって見てくれなかったが、18になった僕には関係のないことだ。
今まで政府には興味を持っていなかったし、政治にも勝手にやっててくれ程度にしか考えていなかった
ものの18歳を成人としてくれたのはそこそこ感謝している。
家を出て早三ヶ月。まだ桜の散った花が人々に踏みつけられる季節に、
一人ぼっちになった俺は死んだ一丁前な笑顔で日々を生きていた。
…そうだ。視えたって、金の足しにもならない。
昔夢見た誰もを救えるヒーローの様な超能力だったら良かったのにと、何度思った事か。
視えた所で、かけてやれる言葉も向き合える心も当たり前をこなす頭も持っていないのだ。
そんな障害者に何を言われたってお荷物にしかならないし
中途半端な自己満を振り撒くくらいなら死んだ方がマシだ。
何にだって、誰にだって、100%と言うものが分からなくて
中途半端にのらりくらりと笑いながら生きてきた僕に対人出来る心構えなんて持ち合わせていない。
…というか、ごちゃごちゃ言ってるけどアドバイスだって結局はその人が受け取らなければ
ただの偏見や一介の意見でしかない。〇〇だから何何してみれば、あとは君次第だよ、と
押し付ける様な無責任な行為は党の昔に無駄だと気がついてやめた。
…本当に、傷が見えたところでなんの力にもならない。
役になんて立ちやしない。僕にこの能力がなければ、今もっと楽に生きれていたはずだ。
体が弱い僕でも友達ができたはずだし、それなりに人に気を遣えるからもしかしたら
彼女なんてものもいたかもしれない。この力とアルビノが無ければ、
僕は普通の人生を歩めたはずなんだ。
瞳を閉じて、窓の外を見るのをやめた。
ソファーに座って適当にニュースをつける。
一丁前に笑えたところで、一丁前に死んだ魚の様な目をしたって、視えたところで、何の意味もない。
…ないんだ。
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