第一章 さよならのはずだった
ないこは、いふをこの手で殺した。
刃が心臓を貫いた。血も噴き出した。呼吸も止まった。
──完璧だった。
だから、自分は“自由になれた”はずだった。
それから数ヶ月、心は痛んでも、「戻ってくることはない」と信じてた。
でも、それは、ただの願望だった。
第二章 帰宅
帰り道。
なにもない普通の夜道を歩く。
すれ違う人も、店の灯りも、全部“日常”。
けれど、家に着いたとき──
玄関の前に、ひとつの紙袋が置いてあった。
中には、あの時のナイフ。
血を拭った跡。そして、付箋。
> 「ないこが使ったもの、返しておくね♡」
また、会えるの楽しみにしてるね。
震える指でスマホを握った。
でも、警察に通報できなかった。
怖いとかじゃない──違う、これ“現実味がなさすぎる”。
(……まろは死んだ。死んだんだ。おれが殺したんだ……)
その夜、眠れなかった。
第三章 ただいまのキス
数日後、
ないこが目を覚ますと──
見慣れた「白い部屋」にいた。
足には拘束具。窓は塞がれ、外は見えない。
「…………っ!」
「おはよう、ないこ。おかえり」
声がした。あの、懐かしい声。
振り向くと、
いふが立っていた。血の気のない笑顔で。
「……死んだ、はず……っ」
「うん、あれ“演技”だったの。だって、きみが“俺を殺した”ことを本気で信じられたら、ちゃんと自由を味わえるでしょ?」
「なんで……なんでそんなこと……!」
いふは、静かに近づいて、
手の甲にキスをした。
「──だって、“きみの殺意”まで愛してるから。
殺したくなるくらい俺を想ってくれたの、うれしかったんだよ」
第四章 壊すまで、繰り返す
「今回のは失敗だったけど、次は上手くやるよ。
今度はもっと深く、優しく、きみの心を壊してあげる」
そう言って、いふは新しい首輪を持ってきた。
「“次はどんなふうに俺を殺したくなるか”、楽しみにしてるね」
ないこは震えながら、ただつぶやく。
「やめて……お願い、もう……終わってよ……」
でもいふは、微笑みながら、瞳に涙を浮かべて言った。
「──終われるわけないでしょ。だって、愛してるんだもん」
最終章 もう、逃げられない
時計もない。窓もない。
何日目かもわからない。
ただ、“彼”がいる。ずっと。
キスして、抱いて、撫でて、優しくして、
でもほんの少し逆らうと、“お仕置き”される。
でもないこは、気づいていた。
(もう……ぼく……この人を殺すことすら、できない……)
涙も、怒りも、とうに枯れた。
残ったのは、ただ“生きて彼の傍にいる”という事実だけ。
そんなないこに、いふは囁く。
「きみは俺を殺した。
でも、俺はまだ、きみを愛してる。
だから次は、きみが“死ぬまで俺を愛し続けて”?」
そして、キスを落とす。
「さあ、きみの番だよ、殺人鬼くん。」
THE END(死んだふりルート)
裏タイトル:『君の殺意すら、僕の一部だった』
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