TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

       2  

 ディヴァラが槍を突いた。鋭利な槍頭がアキナに迫るが、アキナはしゃがんで回避。即座に地を蹴って加速し、ディヴァラの腹部へとカベサーダ(頭突き)を見舞う。

 しかしディヴァラは徒手の腕で反応。アキナの頭を受け切るが、黒炎が生じた。ディヴァラは後退していき、いまだ燃え盛る炎にわずかにひるんだ。

(隙あり!)蓮は大きく踏み込み、ディヴァラの背後を取った。|白神龍《ホワイトドラゴン》を纏った右手で延髄を全力で打ち付ける。

 なすすべもなく食らったディヴァラは、とてつもない勢いで地を転がっていった。石壁に激突し数瞬くたりとしていたが、立ち上がる。だが見るからに、身体が重そうな挙動だった。

「よしよし、いい調子。蓮くん、だいぶその力を使いこなせてきたよね。見かけ通り結構しぶといみたいだけど、大丈夫だ。私たち二人ならお茶の子さいさいでやっつけられるよ」

 歌うように楽し気に、アキナは蓮を元気づけてきた。ディヴァラに向ける横顔は明るく、余裕の色すら感じられる。

 アキナの言の通り、戦闘開始以来、蓮たちは終始押していた。蓮自身、命のやり取りに少し慣れてきたように感じており、効果的に立ち回れている自覚があった。

 ふいにディヴァラは、唯一何も持たない手を大きく頭上に掲げた。ぐるぐるとゆっくり二回転させると、両目の赤色がギラリと光を増した。すぐに口から、不気味で毒々しい低音の唸りが発せられ始める。お経のようではあるが、蓮達には理解のできない禍々しい言語だった。

「何かやる気だ! どうにかしなきゃ!」切羽詰まったアキナの叫びの直後、頭上の血赤色の星の一つが、ディヴァラの瞳に呼応するかのように輝いた。

 すぐさま遠くから、大きな物体が空を切る音がし始めた。蓮が視線を遣ると、先ほど鈍く光った星が徐々に大きさを増していっていた。

(星を落とす気かよ! 出鱈目過ぎる! アキナにも策はないみたいだし、くそっ、こうなりゃ一か八かだ!)

 腹を括った蓮は、右手に白神龍を移動させた。

「蓮くん! 何をする気で……」焦った風なアキナの声がするが、蓮は構わずに右手を下に構えた。

 部屋ほどの大きさの流星が頭上十メートルほどの位置に至った。至近距離からの轟音が耳をつんざく。

 蓮は跳躍。頂点に至ると、流星を目掛けて右手を全力で振り抜いた。

 流星と蓮の拳とが激突した。刹那、衝突点が白く発光し、流星の落下が止まった。すぐに蓮の手を起点に小さな塊に細分化され始め、やがてその全てがガラスが割れるかのように飛散し、消滅した。

 蓮はすたりと着地した。視線の先ではアキナがディヴァラへと駆け出している。

 ディヴァラはブーメランを持つ手を後方に引いた。すぐさまアキナに向けて射出する。

 目にも留まらぬ速度でブーメランが飛来する。アキナは急停止。真左に向かって左足を踏み込み、アウーセンマォン(側転宙返り)を決める。

 するとアキナの前に、紅蓮の炎で形作られた鳳凰が出現。咆哮を轟かせるや否や、神速でもってディヴァラに襲い掛かった。

「鳳凰炎舞、とっておきの技だ! 蓮くんを危険な目に遭わせたお仕置きだよ!」

 勇ましい叫びとほぼ同時、ディヴァラが自身とほぼ同じ大きさの火炎に呑まれた。するとディヴァラの姿は一瞬にして消滅した。

 アキナの身体はぐらりとよろめいた。前に倒れ込みそうになるが、どうにか手を突き四つん這いになる。

「アキナ!」苦し気な表情のアキナを注視しつつ、蓮は思わず叫んだ。

「大丈夫、息切れしてるだけだから。この技ってとっても強力だけど、とっても消耗するのが玉に瑕、かな」

 弱々しい声のアキナは小さく微笑んだ。安堵した蓮はふうっと息を吐く。

 やがてアキナはゆっくりと顔を上げ、蓮に優しく微笑みかけた。

「それにしても蓮くん無茶するよね」

「ああ、堕天使の霧が消せたから、いけるかなって思ってさ。他に手はなさそうだったし、思い切ってやってみたってわけだよ。……にしても無鉄砲すぎたかな。ごめん、心配をかけて」

 アキナの穏やかな問いを受けて、蓮は自戒の念を口にした。

 数秒後、炎の鳳凰は少しずつ勢いを減じ始める。やがて蓮たちの見守る中、完全に消失した。

「すばらしい! 二人のボーイエンドガールは、見事に魔臣ディヴァラをやっつけました! 我々の予想を超えたエクセレントな戦いっぷりです!」

 唐突に、底抜けに明るい女の声が聞こえてきた。蓮はわけもわからず、あちこちに視線をやる。だが音源はどこにも見つからなかった。

「んん? 私は誰か、だって? 教えられないなぁー。なにせこんなのはまだまだ序の口。もっと先まで進んでもらわないと、資格は得られないんだよね」

「何なのこの声?」アキナも不思議そうにきょろきょろと周囲を見回している。

「名残は惜しいけど、今日のところはこの辺でお開きだ。それではまた会おう」

 緊張感のない声が響き渡った。すると蓮の視界はゆっくりと闇に呑まれていった。

蹴撃の黒メイデン

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚