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ライ
79
#異世界転移
花月夜れん
2,359
まくら
183
12 ◇石田唯の気持ち
最初は遊びのつもりだった。
カッコよくてちょいワル上司とのアバンチュール。
婚約も済ませ、直也との安定した関係に胡坐をかき、調子に乗っていたとも
いえる。
だが、唯は渡辺と身体を重ねるうちに気付くと心も持っていかれるように
なっていた。
そのことに気付いたのは、上司が、自分に恋人がいることを知り、
そろそろ付き合いを止めたほうがいいだろうと別れ話を持ち出してきたこと
からだった。
結婚を控えている自分こそが別れるタイミングを間違えないようにしないと
いけないというのに、自分は結婚するまで今の関係を続けたいと言ってしま
った。
直也にも周囲にも用心してふたりの関係がバレないよう万全を期してはいるが、
万が一のバレた時のリスクはものすごく大きいだろう。
分かっているのに、あと少しこのまま付き合いたいと縋ってしまった自分は
上司の渡辺に身も心ももかなり持っていかれているのだと気付き、愕然とした。
唯は3か月後に挙式を控えていた。
大石と婚約してからすでに8か月。
渡辺が離婚して自分と結婚する意志がないのは最初から分かっていたことだし
お互い納得しての付き合いだったはず。
具体的に確認し合って付き合ったわけではないが、婚約者がいながら
既婚者と付き合うということは、そういうことになる。
ふたりの未来に『結婚』というものは存在しない。
だが、自分は大石という婚約者がいることを渡辺に隠して付き合ってきた。
相手に本気になってしまいそうだったから?
そんなことになれば、困るのは自分なのに。
恋人の存在をわざと話さなかったのは、彼がそんなややこしくなりそうな女とは
付き合わないのではないかという懸念があったせいかもしれない。
自分はそうまでしても、上司の渡辺と付き合いたかったのだ。
女性経験の豊富そうで危険な匂いのする彼と……。
今の自分は彼から結婚後も会おうと誘われれば、喜んで受け入れてしまいそうだ。
『妻とは離婚するから待っていてほしい。恋人とは別れてくれないか』
今、唯が一番欲しいのはそんなふうな言葉なのかもしれなかった。
13
◇渡辺玄帥の恋人 横井京子、キャパ嬢
「玄ちゃん、私も30(才)になっちゃったよー。
結婚もしてくんないみたいだし、子供も持てないじゃん?
このままじゃ、私だけおババになってずっと1人のままでしょ。
結婚もしてくんないならもう私たち別れたほうがいいよ」
「分かった。
じゃあさ、京子にいい奴ができたらその時に潔く身を引きますわ」
「なんて冷たいヤツなんだー。
私ら8年だよ。
それが8年も尽くした女に言う言葉なの? 酷いねー」
パンパン胸を叩かれて、数歩後ずさりした玄帥はそのままベッドに座り込み
更に押されてベッドの大海原へと胸に京子を抱えたまま、沈んでいった。
妻がいなければ結婚して一緒にいてもいいと思うほど玄帥は京子に
惚れ込んでいた。
だが、それでも妻と離婚してまで彼女と結婚するという選択肢は、
玄帥の中にはなかった。
……となると、もうこの辺で京子の将来のために彼女を放流してやらねばならないと
考える玄帥がいた。
ということで、妻のことは省くとして半年前から二股している玄帥は、同時期に、
別れたくない京子と面倒になりそうな予感しかなくて別れたい石田との、ふたりの
浮気相手との別れを模索する日々が続き、なかなか決定的な別れを決められず、
とうとうその年の12月にまで二股状態のまんま突入していった。
14
◇大石直也と渡辺玄帥と……石田唯と渡辺恵子らの混戦模様
石田唯は大石直也という婚約者のある身でありながら、直属の上司と不倫をしていた。
やがてというべきか、案の定というべきか、しかしそれは前触れもなく突如として……
来たるべき日はやって来た。
上司の渡辺の妻に自分たちのことが知れることになり、会社に乗り込んできたことから、
石田の婚約者である大石をも巻き込んでの社内中がてんやわんやの大波乱となった。
実際てんやわんやしたのは勿論当事者だけで、外野は皆一生のうちにあるかないかの
男女の爛れた関係の揉め事に興味津々で、ついつい下品だと思いつつも野次馬根性を
隠すことができなかった。
人の不幸は密の味がするのである。
********
直也は『ただの気の迷いだった。予定通りあなたと結婚したい』と唯が
縋りついてくるものと思っていた。
謝罪があれば惚れている弱みで、両家両親たちには内緒にし予定通り結婚しても
いいと考えていた。
それなのに……渡辺の妻が彼に離婚を切り出したことを知ると、浮気相手に
甘んじていた唯は、渡辺が自分と結婚してくれるかもしれないという可能性を
見出したため、直也に対して誠意のある謝罪はせず『私が好きなのは渡辺さんなの。
だからあなたとは結婚できない』と言い放った。
いくら惚れていても、ここまで小馬鹿にされればいっぺんに目が覚めるとい
うもの。
何もかも許して結婚しようとしていた直也の怒りは凄まじかった。
唯は婚約者から婚約破棄された上、慰謝料を請求されることとなる。
もちろん婚約指輪代などの返金も要求される羽目に。
そして婚約者の大石直也に対して強気に出られる根拠となった渡辺との縁も、
渡辺からきっちりと引導を渡され、石田唯は捨てられる形で切り捨てられたのだった。
散々妻のことを蔑ろにしてきて長期に亘り外で女を作り浮気三昧の限り
を尽くしてきたというのに、何故か渡辺玄帥は妻とは離婚しないとゴネてなかなか
離婚の判子をつこうとはしなかった。
長年渡辺が余裕で浮気ができたのは、妻が自分に惚れている故黙認しているのだと
思い込んでおり、惚れられているのだから多少のことは許されて当然とばかりに、
惚れられていることに胡坐をかいていたことによる点が大きかった。
だが、妻に証拠を押さえられ離婚を言い渡されたことで、妻が自分に離婚を
申し渡してくることもあるという現実に初めて気付いたような有様で、渡辺は
戸惑うばかりだった。
石田は若くて美人だ。
だが、その石田に『結婚してほしい』と言われても微塵も妻にしたいとは
思えなかった。
婚約者がいながら……
尚且つ結婚を目前にしながら……
他の男に現を抜かすような女はご免だった。
遊ぶのにはいいが、生涯を共にできるような人間ではない。
自分が遊んできたからこその、徹底した線引きだった。
そんな女と、心許せる健全な家庭が築けるはずもない。
それくらいは、渡辺にも分かっていたからだ。
とにかく、しばらくの間判子を押さず渡辺は妻の恵子にひたすら謝罪を繰り返し
詫びを入れる日々を過ごした。
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