第2話:「もう一人のスピーカー」
会場の沈黙を破るように、誰かのヒールの音が響いた。
音の主は、ひとりの女――加藤花音だった。
蒼の記憶にある彼女は、派手な服装で、常にどこか虚無をまとっていた。
けれど今、そこに立っている花音は、黒のスーツに身を包み、まるで別人のようだった。
「私が……話します」
声は震えていない。
狐面の男がゆっくりとうなずいた。
「どうぞ、“スピーカー”」
花音はスクリーンの前に立ち、語り始めた。
「私は、加藤翔と交際していました。
でも、彼は蒼さんや悠斗さんといるときは、いつも“良い奴”を演じていた。
私は知ってましたよ。あの人が、本当はどれだけ不安定で、どれだけ孤独だったか」
会場に、微かなざわめきが広がる。
「翔はある時、言いました。
『蒼と悠斗は、俺のことを道化だと思ってる。でも、俺が一番彼らのこと分かってる』って」
彼女は、涙を堪えるように唇を噛む。
「でも、その夜――彼は私に、
“全部終わらせる”って言ったんです」
蒼の心臓が跳ねた。
(あの夜……翔と、花音が話していた?)
花音はポケットから一枚の紙を取り出した。
それは、日記の切れ端のようだった。
【翔の日記・抜粋】
――俺は、蒼のすべてを知ってる。
あいつが嘘をついてることも。
でも、あいつに真実を突きつけたら、壊れるかもしれない。
だから俺が悪役になる。
そうすれば、蒼は前に進めるはずだ。
「私はこの日記を事件の翌日、翔の部屋で見つけました。
誰にも見せなかった。
だって、彼が選んだ“悪役”としての死を、ただのゴシップにしたくなかったから……」
蒼は、立ち上がれなかった。
全身が氷のように固まっていた。
(翔は、俺のために……?
違う、そんなの、違う……俺は、見殺しにしたんだ)
花音の声は、最後にこう締めくくられた。
「私は、ずっと黙っていました。
でも、“#真相をお話します”が再び始まったのなら、
翔の選んだ“悪役”の役目を、私が終わらせます」
沈黙の会場。
だがその時、スクリーンに突如、システムエラーのようなノイズが走った。
狐面の男が振り返る。
🦊【狐火】:「……異常通信を検知。強制割り込み発生」
スクリーンに浮かび上がる、新たな映像――
そこに映っていたのは、今は亡きはずの人物。
山本蓮。
白い部屋。監視カメラ。首をかしげる蓮。
そして彼の口元が動く。
「……ようやく、また集まったね」
蒼は震えた。
「嘘だ……蓮は捕まったはずだ……!」
狐火の声が重なる。
🦊:「次回、最終ステージ“Testimony Z”を開示します。
スピーカー:山本蓮」
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