静かに訪れる春。
雪と君の記憶だけはどんどん消えていく。
アルコールの匂いがする病室の中が
点滴の音に満たされる。
去年の冬、交通事故に遭い、記憶喪失になった。
覚えているのは、自分の名前と親と数人の友達だけ。
病状もそんなに重いものではない。
あと、1ヶ月ぐらいで完治すると主治医が言っていた。
「記憶は全部戻りますか?」
と主治医に聞いてみた。
「うーん、そうですね。『全部戻る』のは難しいですけど、何らかの衝撃で戻る事はありますが…」
「衝撃とは…」
「例えば、記憶喪失で忘れてしまった物や人に関連する物を見たら、記憶が蘇ってピンと来たりする事ですね。」
「じゃぁ、色んな物を見せればいいと言う事ですか?」
「そういうわけでもないんですが… でも、さっき言った方法で記憶が蘇った患者の事例は多くあります。」
そうやって、母と主治医の会話が続いた。
そして、
「今日はどうもありがとうございました。」
と、母の一言で会話は終わった。
母はその後、私の瞳を見つめながら、
「あと少しで完治するから、頑張ろうね」
と一言を残して、立ち去る。
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