テラーノベル
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kid視点 ───
不破さんの言葉が落ちた瞬間、ふたりの間の空気が、まるで重力みたいに静かに引き寄せていった。僕はもう、不破さんから視線を外せない。
首筋を掠める彼の息は生ぬるくて、これから始まる行為の卑猥さが伝わってくる。
やめてって言わなきゃ。
やめて欲しい理由なんて無いのにそんなことを考える。しかし、何故か声が発せられない。静かに燃えるバイオレットの瞳を前にして、僕はあまりにも無力だった。
「……下ろすで」
そう声をかけた不破さんは、優しくゆっくりと僕のズボンを下げていく。きっとそうするのは、僕が嫌だ、と抵抗出来る時間を作るためだ。
何も出来ない、全て受け身になっている僕に、断るチャンスを与えているわけだ。
これだけ興奮して、ズボン越しにもわかるほど硬くそそり立っているそれは、もし僕が本当に断ったらどうするつもりなのか。
諦めてトイレや風呂場にでも駆け込み、発散するのだろうか。
それとも、職業柄困るわけのない、太っ腹でお得意先の女の子の家に転がりこみ、ワンナイトでもするのだろうか。
そんなの、絶対に嫌だ。
僕のことが好きで、僕で興奮したなら、僕で発散して欲しい。
だって、僕は ───。
あぁ、そうか、そうだったのか。
ここまでされなきゃ気づけない、自分の鈍感さに我ながら呆れた。最初から、頼るなら、と思いついたのは彼しかいなかった。それは、彼なら自分の意見を尊重してくれるからだ、と思っていたが、あれは建前だった。
本当は、単に彼に会いたかったのだ。自分の過ちを彼には、お前は悪くない、と言って欲しかった。
無意識にその人を選んでしまうなんて、これを恋と呼ばず、何と言おう。
遅すぎた。彼は早くから僕を恋い慕っていることを自覚していたのに、当人である僕はこんな時に気づくなんて。
素股なんて、ヤるのと何ら変わりない。それが嫌じゃないのならば、きっと僕は彼とそんな関係になりたい。
─── 好きだ、不破さんが。
ギシ、ギシ、とベッドの軋む音が耐えず響き渡る。
後ろを向かされてしまい、状態が確認できない分、感覚が研ぎ澄まされ敏感に反応する。
僕の腰を掴み持ち上げながら、優しくも強引に打ちつける彼の息遣いは荒い。入ってはいないにしろ、入口に擦り付けられるそれは硬く、興奮を隠しきれない様があまりにも愛おしくて、嬉しかった。
「……っ、はぁ……はる……っ」
「あ゙ッ……あぁ゙…♡ふあ、さっ……っ」
「なぁ、はる、……きもちい?♡」
「う、ッ♡……はずかし、ぃ……ッ」
「ははっ……、かわい、♡♡」
耳元で、とろけるような甘い艶のある声が、吐息とともに吐き出されていく。クラクラする程の艶かしい声にビクビク、と背中が震え、腰を刺激する。
「……んはは、晴、腰振ってんで♡ 」
「ちっ……ちがうっ……♡」
「何がちがうん?」
何が、と言われても、言い返すことなど出来ない。不可抗力とはいえ、無意識に揺らしてしまったことに変わりは無いから。
そのおかげで火がついたのか、不破さんは先程よりも速く腰を動かし始めた。さらに強く打ち付けられ、無様に喘ぐことしか出来ない。
アラサーの男が、入れてもないのに年下の男に鳴かされ、挙句の果てに自ら欲しがってしまう始末。
なんとまあ、惨めで、みすぼらしいんだろう。大人しくこの世を去るはずだった人間が、
まだ生きていたい、と本能に抗えずそう願ってしまっている。
彼の勝ちだ。まだ生きていたい、彼のそばで人生を終えたい。そう思えるほどに、僕はいとも簡単に、彼に絆されたのだ。
「あえ゙ッ……はぁっはぁっ……あう♡」
「イきたいん?晴」
「あ゙ッ……うん…♡」
「なら、前もいじってやるよ♡」
彼は僕のモノを片手でシゴく。慣れた手つきで先端をグリグリ押されれば、汚い声を漏らさずにはいられない。腰と同様、激しく上下に擦られ、呆気なく彼の手の中に欲をぶちまけた。
「にゃはっ♡イけて偉いな♡♡」
「んあ……はぁ、はぁ……」
一度吐き出せばもう何回しても変わらない、という諦めと、あらためてこの不思議な関係を受け入れるべきではない、という責任感が、入り混じりながら押し寄せる。
冷静なようで、欲望にまみれている。
止まりたいけど、進みたい気持ちもある。
「きもちかった?」
「……べ、つに」
こんなムキになることもないのに。無駄に自分を苦しめて、後々きっと逃げ場がなくなって、恥をかきながら、まだ一緒にいたい、とか言うんだ。
……本当にこれでいいのだろうか。僕は、彼が自分を好きだと言ってくれて、前戯をしたことで、そばに居たいと思ったのだ。そんなこと言ったら、誰だって良かったのではないか。彼を好きだ、と思ったのは、それはただの錯覚だったんじゃないのか。
考え始めればキリがない、答えの出ない迷路に頭が痛くなってきた頃、ふと背中に温かみを感じた。
「……ごめん、こんな事に付き合わせて。嫌だよな…… 」
「……っ、」
その温もりは、不破さんの腹の温度だった。僕の背中に体重を預けているのだ。その熱とは裏腹な、ネガティブな言葉を彼はベットに落とす。
ふわふわとしていて何も考えていない。そう数多の人に言われてきた彼にしては、重みのある言葉だった。
「……でもお願い、俺ずっとこの日を夢見てきたんや……今日くらい、許して、?」
「っ……不破さん、?」
ポタリ、とシーツに染みが広がる。
頭上から落ちた雫は、その後もポタリポタリと何粒も降ってきた。
何となく、顔が見れなかった。初めて見る彼の涙に、気が引けてしまった。大の大人の涙など、滅多に目にすることは無い。伽藍堂めいた人間のものなら、尚更のことだ。
演技ではないだろう、と直感で感じ取った。この一週間で、うんざりする程彼からの愛は浴びたつもりだった。甘い猫撫で声で呼ばれまくった名前は、それはそれは溶けてしまいそうだった。
きっと不破湊は、僕が本当に好きだ。
だからこそ、僕に涙を見せたことに理解が追いつかず、反応が一拍遅れた。
「……ほんとに、しんじゃうんか、晴、」
「…………」
「やだなぁ……これからも、ずうっと一緒に、おりたいなぁ……っ」
ベッドにうつ伏せる僕に覆いかぶさり、頭に顔を擦り付けている。首に巻きついた腕は小刻みに震え、その震えが、泣き声よりも雄弁だった。
堪えきれないものが、そこから滲んでいた。
そっと、彼の頭に腕をのばした。頭が小さいから、僕の手に余裕で収まってしまい、それが何だか物足りなく感じた。
優しく、できる限り優しく髪に触れる。柔らかいクセっ毛は、撫でる僕の手を追いかけるように絡む。
明日まで、よろしくな。
そう耳元に零した、寂しさを悟られまいとした平静を装った声が、悲しげに空っぽに響いた。
お読み頂きありがとうございました!
一生不穏な空気が続いております……もはや私さえ不安になってきました😂
大丈夫ですハピエンでございます👍
また短くてすみません💦
いいね、コメントお待ちしています!
コメント
5件

良すぎる😭😭fwさんが泣いてるシーンの表現の仕方がめっちゃ好きです、! まじで泣きました🥲神作品をありがとうございます🙇🙇🙇
最高すぎませんか😭天才ですよねやんさんほんとに😭︎🫶💕 これはもういいクリスマスプレゼントもらいました🎁⋆*