「ッはぁ……はぁ…っ、」
スマイルから借りたマントはもう引き裂かれてしまった。
命からがら逃げ出し、人の少ない森に逃げ込んだ。
まだ、どうにでもなる
とにかく、スマイルを……スマイルを……
……そうだ…転移魔法…スマイルのいるところに…
でも、あいつのいる海に干渉できるか…?
あれがもし造られたものだったら…繋げた入口なんか簡単に壊されて助け出せない……
もしただの海でも沢山の水が溢れ出て俺も溺れる…いや、…俺が水呼吸を可能にする薬を…確か…fish…確か一つあった気が……
…
…これだ…
これを少量だけ飲めば…
水の中だけで生きられて、地上では生きられなくない状態も数分のみ……
……やるしかない。
俺は、絶対に約束は”護る”
「たのむ……」
精神を集中させる。
スマイルの気配を探して…
…みつけた
思いっきり杖をふって
その円形の水晶から、空間が生まれる。
そうして直ぐに、荒い波が俺を襲う。
「っ、!スマイル!!」
溢れ出す水は止まることを知らない。
どんどん草木を荒らしていく。
彼を犠牲にしてまで、世界を救う必要があったか……?
いや…救えてすらいないのに……っ、!
用意していた薬を飲み、水に顔面を突っ込む。
ひとつ見えたのが、彼が海底で下向きでいた姿。
「ッ……、!…」
体ごと海に放り投げ、近づいて彼の腹に手を回す。
「……ッ…」
彼を抱き寄せ
来た入口の方に顔を向ける。
まだ、水は滝のように溢れ出ている。
あの波に乗れれば…ッ、、!!
手を伸ばす
後数cm、後数mm
しかし、そこでプツリと俺の中で何かが切れる。
「……っ、!くそ…っ、!」
魔力切れだ
体に負荷をかけすぎた…っ、!
「はぁ…っく…っそ、、…ッ、、!」
苦しい
手足が痺れる
手が震える
薬ももう少しで切れてしまう、
「…ッ…ダ……ッ、」
ダメだ…っ、こんなとこで終わっていいわけない…っ、、!!
まだこいつに説教してない…っ、!
「ッふ……ふぅ……はー……」
落ち着け、俺……
今まで何のために学んできた?
……
…………誰かの為なら、なんでも出来る、
どんな力でも出せる……
……そうだ……
上着を彼にかぶせて頭を撫でる。
大丈夫、俺が何とかする。
溢れる感情に身を任せて、全身に力を入れる。
限界なんかない、
そうだ、
目を瞑る
暗い世界の中
細く、脆い、数本の稲妻が見える。
数本の頼りない稲妻に手を触れる。
全身に力を込め
稲妻に身を埋め込むように、
海底の底に踏み込む
深く沈む砂
暴れ出す海藻
舞う砂埃
今なら、水面が見える
「……」
今なら登れる……っ、!!
頼む、外へ繋がれ……っ、、!!
その思いを光に託して
踏み込んでいた地を思いっきり蹴り飛ばした。
水を切り裂き、痺れるような感覚を纏う。
光の速度で駆け巡る海は真っ黒に見えて
手を伸ばす
もう少し……っ、!
まだ大丈夫……っ、!
暗闇を駆け巡るうち
伸ばしていた指先が空気に触れた。
「……ッ!っぷはッぁ!!!」
薬も効果を失い、冷たい空気が喉に入る
「ッはぁ、はぁ…っ、!」
ちょうどピタリ止まったのは、海から数m離れた上空。
すぐそばに陸もある。
もう飛ぶ力も残っておらず
そのまま陸の方に体を打ち付けた
「ッい”ッた……ッ……」
死にそうな体をひっぱたき、彼の心臓を圧迫し続ける。
「スマイルッ……!」
彼は目を瞑ったまま何も言わない
「おい、スマイル…目…目覚ませよ!おい!」
どんなに続けても、彼は意識を戻してくれない。
光と影の間
どうにも理不尽だ。
そんな思いは、俺の腕を止めた
愛おしいその頬に手を触れる
土に還るのはまだ早い、お前はまだ、俺に対して償ってないだろ……
冷たい彼を抱き寄せる。
視界が滲んで、彼の頬に落ちる。
しかし、それは水滴に吸収されてしまう。
何もかも、なかったように
「…スマイル…」
sm「……ゃ…」「……っ!」
sm「ゲボッ…ゲホ……っ、」
「スマイルッ!!!」
うっすらと
彼の瞳が見える。
「スマイル…よかった…スマイル…!」
ぎゅっと抱き寄せて、彼の背を握る。
「お前っ、!俺がどれほど……」
彼に目を合わせるように、体を少し離す。
彼の目をじっと見つめて。
「……!」
ふと、彼の周りの踏み荒らされた花が
立ち上がり始めていることに気づく。
「……これは……」
sm「きりやん、ありがとう…」
「…お前がそんなちゃんとお礼言うなんて…明日は槍でも降るんじゃないか?」
うっすらと笑う彼が、とても愛おしく思える。
俺の背を弱々しく掴みニコッと笑う。
「……、」
そんな時、俺の心臓が早くなった。
冷たかった手先がじわりと暖かくなっていく。
……!
それと同時に、彼の足元の草もやがて元の姿に戻ったかのように。
…想像を超える人間の感情は、魔法に勝てない
「…そうだよ、」
いつもなら、そう簡単にあんなことできるはずないのに……
sm「…きりやん……」
そう囁いた時、俺の中の苦しみが全て浄化されたように体が軽くなっていく。
mb「すごい…あの人たちの周りだけ…」
mb「大丈夫かな…」
mb「すごい、あそこだけ暖かいね、」
気づけば、周りに人だかりができていた。
そうして、段々とよってくる。
俺たちで温まろうとするように
奥ではまだ銃声が鳴り響く。
「やっぱ、平和が1番だな、」
sm「あぁ」
ふと、俺たちの上を何かが通った。
子「流れ星だ!」
その声に空を見上げれば、無数の星屑が音を奏でて空を駆け抜ける
一つの星屑が彼れ果てた木に落ちる。
その光を受けた木はたちまち元の姿を取り戻す。
sm「…星屑のチター…」
「…そういえば、あの時もこんな感じだったね、スマイル」
sm「…あぁ、…」
『俺達だけの、秘密ね!』
古のバラード
繰り返すように、
干からびた湖が、生き返ったように再び世界を映し出した。
mb「すごい…世界が…」
mb「……!」
段々と色の無かった世界が、戻されていく。
sm「…ありがとう、きりやん」
「…ははっ、どういたしまして」