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美味しい話1


鼻が甘くくすぐったい感じの香ばしい匂い。出来立てのを一口小さくかじる。

舌先が熱さを強く感じた瞬間、それを上回るバターと粗い小麦の風味が鼻を抜けた。控えめとは言い難いバターの後に、深いチョコレートの苦味が甘さに追いつけないままやってくる。決してチョコは甘くないわけでは無いのだが、甘さよりも奥深い大人の苦味というやつが下にざらっと残る。大粒だったり小粒だったりするチョコチップが、口内で時間をかけ溶けていくのがまた堪らない。

嘆息を吐く暇もないまま次の一口に行ってしまう。これも出来立てという魔法のせいなのだろうか。

チョコチップの溶けるその時間すら惜しくて、溶けかかったものを奥歯で潰しもうひとかじりする。奥歯に残る苦味と次にくる甘い生地のギャップに内心悶えながら、何食わぬ顔で咀嚼し続ける。

口の中の水分が持って行かれたのを、あえてのブラックコーヒーで補いつつ、残ったバターの余韻を楽しんでいる。

最高じゃないか。我ながらテクニカルなことをする。

己の素晴らしいコーヒーのチョイスに密かに拍手を送った後、店内を見回る店員に目を向ける。

「これもう一つお願いします。」


チョコチップクロワッサン

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