テラーノベル
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衣装を作り終わって、初めて着る日。
部室の隣の小さな教室には、役ごとの衣装が並んでいた。
「わぁ、清藤さんめっちゃかっこいいよ!」
いつもの練習着じゃない、肩幅を強調したジャケットに堂々としたブーツ。
こればかりと前髪を強調したヘアセット。
少し大げさなくらい自信満々な立ち姿。
――映画から出てきたようなガストンがそこにいた。
あやかは思わず台本から顔を上げた。
「……」
「あや?」
陽花里が首を傾げる。
「いや、何でも。似合ってるじゃん」
あやかは視線を戻した。
戻した、はずだった。
でも、戻せずに、ちらちら見てしまう。
(……なにあれかっこいい似合いすぎでしょやっぱ陽花里イケメンすぎるガストンに合うとはわかってたけどあまりにも似合いすぎて手本当に惚れちゃうよスタイル良すぎだし普通の人は似合わないほんとうにメロい…!)
普段から声も立ち姿も男役向きだと思っていたけど。
でも衣装まで入ると、本当に別人みたいだった。
「どう?ガストンっぽい?」
「……うん」
「え、あやどうしたの?反応薄くない?」
「いや……」
あやかは少し考えて。
「すごい似合ってる」
と言った。
陽花里はぱっと笑う。
「ほんと?やった!でもあやかもめっちゃ似合ってるよ!」
その笑顔はいつもの陽花里だった。
ちなみにあやかも野獣の衣装を着ていた。
品のある上質な羽織に、たてがみの入ったかつら。
人を寄せ付けまいとしているが、中身はとてももろくて弱い。
そう。なんだかんだ言ってあやかもめっちゃ似合っていたりする。
「じゃあ決闘シーンの動き確認しよ」
「おっけー」
二人とも役に入ると真剣になるし、周りが見えなくなる。
「ここで野獣が後ろに下がって――」
「ガストンが追い込む」
「そう」
動き確認。
陽花里が前へ出て、あやかは後ろへ下がる。
そして――
足元の衣装の裾が少し引っかかった。
「「え」」
バランスを崩す。
次の瞬間。陽花里が反射的にあやかの頭に手を伸ばした。支えるために。
二人はバランスを崩して、床へ倒れこんでしまった。
――あやかの上に、陽花里が覆いかぶさるようにして。
床ドン。
数秒。
動きが止まる。
「「……」」
陽花里は状況を理解していない。
ただ真剣な顔で、
「えっと、大丈夫…?」
と聞く。
あやかだけが固まっていた。
(近い近い近い。え、床ドン?ガストン衣装でそれは反則でしょ…)
頭の中は大混乱。
「……だ、大丈夫。ケガしてない?」
「うん」
そして、まだどかない。
あやかの心臓だけが忙しい。
急に顎クイをされた。
「!?」
「じっとしてて」
陽花里が徐々に顔を近づける。
(え何急にどうしたの??え何するの?!?)
はむっ
首元を軽くかんだ。
「えっ?」
軽くキスマみたいなのができて、すぐ消える。
あやかの顔は真っ赤だ。
もともと大きい目をさらに見開いている。
「ふふっ、マーキングだよ笑♡」
(????????)
「おっ、そこ、イチャイチャしないのー」
通りすがりの先輩がそう茶化してきた。
「あ、ごっめーん!」
「う、うん。大丈夫」
分かってる。
陽花里は何も考えてない。
ただからかってきただけ。
ただただ、自然に。
(イチャイチャ、か…白雪姫みたいなことするのかと思ったじゃない…)
あやかだけが勝手に期待して、勝手に困っている。
そのあと、さらに他の先輩が入ってきた。
「お、ガストンと野獣いい感じじゃん」
「うん。二人とも迫力ある」
陽花里は嬉しそうに笑う。
「あやかの野獣がすごいからです!」
「いや、それは陽花里のガストンがいいからでしょ」
二人とも真面目に返す。
本当に、舞台のことしか考えていない。
あやかは思う。
だから好きなんだよな、と。
気づかないところも。
真っ直ぐなところも。
からかってくるところも。
誰よりも舞台に本気なところも、全部。
でも。
「好き」
その言葉だけは、今日も言えなかった。
ガストンの衣装を着た陽花里が、からかってくるから。
コメント
1件
うわあああ第3話も最高すぎた😭💕💕 ガストン衣装の陽花里ちゃん、マジでイケメンすぎて反則だよ…!! あやかの「メロい」内心大爆発してるの分かりみが深すぎる(泣) 床ドンからの顎クイ→チュッ? はむっ♡ の流れ、もうキュン死にするかと思った…!! 陽花里は何も考えてないのにあやかだけ大混乱なの、尊すぎて布団で転がった📣✨ 先輩の「イチャイチャしないのー」もナイスすぎるw 次回も絶対読むからね!!
karua_0121
210
#大学
きの子ちゃん
761
#あおはる。
輪廻˖ ࣪⊹
510
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