「ねぇ、私と付き合って楽しかった?」
中学のころ付き合ってた彼女、萌佳が高校の制服で隣にいた。
「もちろん。後悔は〜…ないかな?」
「なに今の間!ちょっとはあったってこと!?」
「いや、もちろん付き合ったこと自体に後悔はなにもないよ。
でも「あのときあぁしてればな」とかの後悔はある」
「あぁ〜、それは私もあるかも」
ベランダの塀に寄りかかり、懐かしの教室を眺める。誰もいない教室。
陽の光で照らされ、電気を点けずとも、中の細かな部分を確認できる。
教室の前の引き戸がスーっと右側に開く。
「おすおす」
音成さんが入ってきた。
「おーレンちゃんじゃん!」
萌佳が音成さんに駆け寄る。僕も教室に入る。懐かしの教室、懐かしの机にイス。
床と擦れてギギギーゴゴゴーと鳴るイスをひく。この音。一気に青春時代が蘇ってくる。
イスに座る。萌佳も僕も高校の頃の制服を着て、教室にいるのだから
なにと違和感はないはずなのに心が大学生だからか、どこか違和感があった。
成長を実感したと同時にどこか寂しさも覚えた。萌佳も音成さんもイスに座る。
教室に3人、黒板を向いて座る。萌佳の肩までの長さの綺麗な黒髪と制服のブレザーの背中。
そして音成さんのショートカットの綺麗な黒髪と白いYシャツの背中が見える。
なにもかも皆懐かしい。萌佳が振り返る。
「なんか懐かしいね!」
「同感」
「同かーん」
「てかレンちゃんと面識あったっけ?」
「いやなかったね」
「昨日ガッツリ話した」
「あ、そうなんだ?」
「そうそう。6年?も一緒だったのにね」
「まぁ私と仲良いグループと暑ノ井くんが仲良いグループが関わる機会なかったし
そもそも6年間1度も同じクラスになんなかったしね」
「それデカいね」
「デカい。マジで萌佳の名前出されても気づかなかった」
「まぁ私も髪切ったし、服も制服じゃないし
コンタクトにしたから見た目も大分変わったし」
「あぁ〜…。見た目同じでも気づかんかったかも…」
クシャクシャという音が聞こえ、ノートの1ページを破いて丸めたものが飛んできた。
なんだかその光景も懐かしかった。
「ごめんごめん」
「ま、しょうがないけどね」
「なんか2人が仲良くしてんの新鮮」
「だから関わりなかったんだから、そりゃ新鮮だろうよ」
「そうそう」
しばしの沈黙が訪れる。なんとなしに机の教科書やノート、筆箱を入れる部分
僕の場合は授業中コソコソしていたゲーム機を隠す部分に手を入れる。
固くも指が入っていく柔らかさを持つ物体に右手薬指が触れる。
右手でその物体を手に取り、見てみた。懐かしの練り消しだった。
小学生、中学生1年生頃まで、よく暇なときに伸ばして伸ばして
千切れるギリギリになったほわほわの部分を人差し指と親指で挟み押し
もう一度固くするというマッチポンプを行なっていた。そのことを思い出し、やってみる。
練り消しを伸ばす。千切れるギリギリになったら現れるほわほわの霞のようなものを
人差し指と親指で押し潰す。
蜘蛛の巣のように柔らかいものが指の中で練り消しの硬さに戻る。癖になる。
何度も伸ばす。手元で練り消しをいじりながら左側の、ベランダ側の窓の外を見る。
窓の外には体育館の入っている別校舎。風で砂埃が舞う校庭。
1階の下駄箱は見えないが下駄箱を出て正門に向かう道。
萌佳と付き合ってからその道を手を繋いで歩いて
知ってるやつらに冷やかされた思い出が蘇る。
今思えば青春時代は一瞬で過ぎ去っていった。まるで急行の電車のように。
「なんか寂しくなるね」
静寂を破ったのは萌佳だった。
「あぁ」
「だね」
また静寂が訪れる。キーンコーンカーンコーン。キーンコーンカーンコーン。学校のチャイム。
また懐かしさを感じ、どこか寂しさにも襲われる。
「時間だね」
「だね」
「ん?」
僕はなんのことかわからず困惑する。
「じゃ、怜くん、またどこかでね」
「暑ノ井くん、また大学?でね」
「え、おん。ん?うん」
困惑する僕を置いて教室を出ていこうとする2人。引き戸に手をかけ、スーっと左側に開ける。
2人は教室を出て行き、萌佳と音成さんが僕に手を振る。
なにがなんだかわからず僕も2人に手を振り返す。引き戸がスーっと閉まる。
完璧に閉まった瞬間、引き戸の衝撃吸収のための黒いゴム部分が
壁の側面の引き戸を受け止める銀の金具に当たった瞬間
ミシミシミシと足元から音が聞こえる。足元を見る。
教室でしか見たことないフローリングの床に大きな亀裂が入っていた。
「え…」
言葉を失う。その亀裂から目が離せずにいると、みるみるうちにその亀裂が成長していく。
僕が座っている部分が教室の出入り口の方と分断される。
驚きと恐怖で立ち上がることができない。
亀裂を成長し続け、溝はどんどん大きくなっていく。溝を覗く。
1階の教室が見えると思っていた。底の見えない暗闇。恐怖が増した。足が震える。
するとミシミシ音が重なって聞こえる。左側、ベランダのほうの足元を見る。
先程のとは別の亀裂が入っていた。
僕の座っている半径1メートル周辺が孤島のように亀裂に囲まれ始める。
溝の幅はまだそんなに大きくなく、今立ち上がってジャンプすれば助かるだろう。
くらいの幅だった。だけど足が震えている。しかもこれが腰が抜けるということなのだろうか。
立とうという気持ちがあっても、腰に重りがついているように上半身しか動かせない。
みるみるうちに溝の幅も大きくなり、亀裂が僕の周りを囲んでいく。
もうそろそろ2つの亀裂が繋がる。あと10センチ。5センチ…2センチ…1センチ…。
体が斜めになる。ギギゴゴ。イスが音を立てて、他と切り離され
傾いた床から落ちそうになる。バランスを崩す。お尻がイスから離れる。
終わった。落ちる。落ちた。落ちるイス、落ちそうな机、学校の天井、
学校の天井の蛍光灯、そして自分の足が見える。頭から暗闇に落ちている。恐怖。
「はあっ!」
息を吸うと同時にパッっと目を見開く。心臓が文字通りバクバクバクと音を立てる。
視界の先に広がる光景。逆さまの世界。訳がわからない。
ふと冷静に見ると自分の部屋の扉が逆さまに見える。
あぁ、自分の部屋だ。
そう思う。と同時に
あぁ、夢か…良かったぁ〜…。
と安堵し目を瞑る。安堵するとなぜかまた鼓動が大きくなる。カッチャンと音が聞こえる。
「お兄ちゃぁ〜ん?」
妹の声も聞こえる。目を開ける。いつもとは反対方向に扉が開く。
妹が大きく見える。身長が低く、いつも見上げて話す妹が、僕を見下していた。
そんな妹と目が合う。
「なにしてんの」
と笑う妹。そして部屋着のショートパンツからスマホを取り出し
カシャッっという音が聞こえる。
「おい〜なに撮ってんだよ」
と言いながら自分が逆さまなことに今更気がつく。ベッドから頭から落ちていた。
かけていた布団がクッションになっていたらしく頭は痛くなかった。
ありがとう布団。
心の中で恐らく人生で初めて布団に感謝した。
足だけベッドの上に乗っていたので、足を床に下ろし、ベッドに寄りかかるように胡座をかく。
世界が回転し、世界が通常位置に戻る。
「んんー!はぁ〜」
思い切り腕を天井に向かって伸ばし、伸びをする。
体練り消しを伸ばすのように伸びる。気持ち良い。
「お兄ちゃんご飯だよ」
妹がスマホをポケットにしまい言う。
「あいあい。ありがとね」
そう言うと妹は扉を閉めて出て行った。まだ少しボーっとする。夢を思い出す。
あ、そういえば
思い出したことがあり
アクセサリーケースが置いてある、恐らくほとんど勉強に使わなかった勉強机の
本来は教科書やノートを立てて置くところに置いていた分厚く青い本を手に取る。
表紙には金色で「絆」と書いてあった。そう卒業アルバムだ。
ただ朝ご飯の時間で家族がリビングで待っている。
そう考え、ローテーブルに卒業アルバムを置いて部屋を出た。そこからはいつも通り。
洗面所で歯を磨き顔を洗い
リビングに入り家族とめざめのテレビで報道されるニュースの話や
学校のこと、その他、他愛もない話をしながら朝ご飯を食べる。
部屋着姿の妹が2階に上がり、制服姿で下りてくる。
今日の妹は朝早くなく8時少し前に家を出て行った。
父はそれから約30分後、8時半頃に家を出て行った。
「怜夢ー今日大学はー?」
と母に聞かれ、1限はサボるの決定しており
ゆっくりしていたが3、4限をどうしようか考える。
「んー」
「んーってなに?」
「午後からあるからー12時頃出るー」
「お昼ご飯はー?」
「あぁ〜…なんか軽くお願い」
「なんか軽く?」
「おなしゃーす」
母とそんな会話を交わし、部屋へ戻る。
自分の部屋へ戻る道中考える。階段を上りながら考える。
なんで午後からあるって言っちゃったんだろ。
まぁ大学生なんだから大学行くのはまぁ自然なことだけど。
廊下を後頭部を掻き、歩きながら考える。
…妃馬さんか?妃馬さんに会えるかもってそんなこと思ってるのか?オレ。
そんなキモい考えしてたのか!?いつの間に!?あぁ、ないないない。
いや、でもそれしか思い付かない。
妃馬さんに会う前の大学をサボりにサボって鹿島とゲームしてたり
「大学行ってくる」って言って映画観に行ったりしていた自分と
妃馬さんに会ってからなぜか大学に行こうという意欲が少し出てきた自分の違いが
それしか思い付かん!
頭を左右にブンブンと振る。自分の部屋のドアノブに手をかけ、部屋に入る。
ローテーブルに置いたあった卒業アルバムの「絆」の金の文字に陽が差し、光り輝く。
それを見て忘れていた「卒業アルバムを見ること」と
今朝見た「夢のこと」を思い出し、ベッドに腰を下ろし、卒業アルバムを開く。
最初のページは本来ならなにも書かれていないページだったが
お世話になった先生からのコメントが書かれていた。
「大学でもその人を思いやる気持ちを忘れずに!」
「誰とでも分け隔てなく仲良くできるのが暑ノ井の良いところ。
大学でも友達たくさん作って、良いキャンパスライフになるように!」
書いてくれた先生たちの顔、思い出が蘇る。ページを捲る。そこには校舎と校長先生の写真。
懐かしい校舎。しかし今朝、夢で見たため
感動的な、莫大な懐かしさはほんの少し薄れていた。ページを捲る。
そこからはクラス順に担任教師、生徒の写真が載っていた。
A組。1年の頃よく話したやつ、1、2年と同じクラスだったやつ。
よく知らない人たち。30人近く載っている。
ページを捲る。B組。1年の夏休み一緒にプールに行ったやつ。
2年の夏休み明けに明らかに髪が明るくなって職員室に呼び出されてたやつ。
よく知らない人たち。と写真と名前を流しながら見ていくと目が止まる。
「音成恋」いた。音成さんだ。写真を見る。肩より少し長い髪に黒縁メガネ。
たしかに今の音成さんの面影はあるが、随分と可愛くなっていた。
まぁわからんでもないけど、6年間一度も同じクラスになってないし
だいぶ変わってるし、気づくかぁ〜!
百舌鳥のノウさん的な言い方で心の中でツッコむ。
そこからC組、D組と思い出を思い出しながら見て行き
ラスト、自分のクラス、E組。50音順なので「小野田匠」の写真が先に目に入る。
わっかぁ〜。クソガキじゃん。
と笑う。
でも顔は整ってる。腹立つな。
腹は立っていないがそんなことを思う。僕の写真が目に入る。なんか嫌な気持ちになる。
なんかクソガキ感が漂うし、変にワックスつけてカッコつけているがカッコよくない。
これに隠れファン?
少し考え、嬉しくてニヤケかけたが
いや、ないない。
と頭を振り、その考えを吹き飛ばす。次のページを捲ると各クラスの集合写真があり
集合写真が終わると次は学校の行事の写真が並んでいた。
部活紹介、球技大会、体育祭、合唱コンクール、修学旅行
その他には何気ないときの写真なども載っていた。
輝かしい思い出に花を咲かせる。ふと思う。
この卒業アルバムの制作、そして写真の整理、仕分けは誰がやっていたんだろう。
もしかして先生?テスト作りやらなんやらで忙しいだろうに?
今になって先生方の忙しさを理解し
ありがとうございました。
と卒業アルバムに向かって頭を下げる。最後のほうのページには部活動の写真があり
部活をしていた人たちは、それぞれ部活着で集合写真を撮っており、その写真が載っていた。
僕には関係ないページだった。その後は1番最初と同じように
本来なら空白のなにもないページが2枚あった。
そこにはクラスメイトや元クラスメイト、よく知らない人たちからもメッセージを貰っていた。
「大学行っても元気でな!」
「お前はもっとグイグイ行けばモテるんだから大学ではハーレムサークル作れ?」
「3年間おつかれ」
「仲良くなれて良かったです。
同じクラスになったのは1年だけだけど、とても楽しかったです。ありがとう。」
「オレ大学卒業までには1流モデルになってるから今のうちにサイン書いとくわ。
友達って自慢してもいいぜ」
その横に高校生が考えたらしいサインが書いてあった。
あったあったこんなの。
懐かしさに口元が綻ぶ。
「大学でもよろしくな 匠」
匠からのメッセージももちろんある。淡白なメッセージ。だけど濃い繋がりがある。
メッセージを眺めていく。ふと目が止まる。
「1年間だったけど、クラスメイトとして
そして彼女としては1年ちょっと?楽しい時間をありがとう!
怜くんはとても優しくて、他の女の子にも優しいから嫉妬する部分もあったけど
誰にでも優しいそんな怜くんが大好きでした!大学でも元気でね!」
「萌佳」
なんだか胸がグッっとなる。一気に中学3年の卒業の日に戻ったようだった。
卒業の日と同時にお別れを決めた日に、戻ったように心が締め付けられた。
懐かしの感傷に浸っているとそんな感傷が吹っ飛ぶようなものが目に入った。
「音成」
元カノの萌佳の近くに音成さんのメッセージがあった。驚いた。目を見開き読む。
「気づいていないでしょうが6年間同じ学校でしたね。
一度も同じクラスになっていないので気づいていないでしょうが。
聞けば大学も同じということで
どちらかが中退しなければ10年同じ学校ということになりますね。
6年間たぶん一度も話したことありませんでしたが
どうか大学でもよろしくお願いします。大学でもお元気で。」
「音成」
左手で口を覆う。
マジか。なんで?え?
高校の卒業式後を思い出す。
「あ、書いてくれた?さんきゅ!あ、あぁオレも書いた書いた」
と同級生に卒業アルバムを手渡す。
「ねぇねぇ、暑ノ井くん」
女子数人がにじり寄ってくる。
「ん?」
「良かったら私たちにも一言書いてくれない?」
「もちろん!あ、じゃあさ、みんなオレのにも書いてくれる?」
「「もちろん!」」
数人が声を合わせて言う。教室内も騒がしく
僕のアルバムに同時に書いてくれている女子数人も
キャッキャと女子ノリで楽しそうに書いていた。
「暑ノ井くん!書き終わったよー!」
さすがに同時に書くと終わるのも早い。
「あ、ありがとー」
「置いとけばいい?」
「あぁ〜…」
普通なら「置いといて」というであろうところ
卒業式後のみんなのテンションの高さに釣られてなのか
「あ!そうだ!みんなの友達誰でもいいから一言書いてって頼んでもらえない?
なるべく多く書いてもらいたいから」
「うん!いーよ!」
「あ、ごめん。こっちまだかかるわ」
「ううん!全然全然!書いてくれるだけで嬉しいし!
全然焦らないでゆっくりでいいよ!
じゃ、私たち他クラスの友達に暑ノ井くんのアルバムに一言もらいに行ってくるねー!」
「うん!ありがとねー!」
女子数人が僕のアルバムを抱え、教室から出て行った。
あのときだ。あのときか?
卒業式後の変に高いテンションであまり覚えていないが、覚えがあるとすればそのときだ。
「なるべく多く書いてもらいたいから」
とか言ってたくせに書いてもらっておいて読んでなかったんか?
読んだは読んだけど覚えてなかった?まぁどっちにしろ最低だ。音成さんにちゃんと謝ろ。
そう思い、パタンと卒業アルバムを閉じ
勉強机の卒業アルバムを立てていた元あった場所に戻し、ベッドに寝転がる。
枕元で充電していたスマホを充電ケーブルから抜き、手に取る。ホームボタンを押す。
通知はなし。電源を消し、枕元に置く。天井を眺める。あくびが出る。目を瞑る。
自転車を漕ぐ音、鳥の鳴き声、車の通る音。
…いつの間にか眠りについていた。
コンコンコン。コンコンコン。ドアがノックされる。目を開ける。コンコンコン。
「怜夢ー?開けるよー?」
母の声が聞こえる。寝返りをうち扉のほうを向く。
「起きてんじゃないの」
「あぁ〜…今起きたぁ〜」
「軽く作ったから食べて、大学でしょ」
「ん〜…あんがと」
母が扉を閉めて出て行く。
「んん〜!」
伸びる。
「はぁ〜」
脱力する。枕元のスマホの電源をつける。通知なし。スマホの画面を下にして置く。
ベッドから立ち上がり、洗面所へ行く。歯を磨き、顔を洗う。リビングに行くと
ダイニングテーブルのど真ん中に大きなお皿が置いてあり
そのお皿の上にはサンドイッチがいくつも乗っていた。
ナイスチョイス!
心の中で母に賞賛を贈る。イスに座り母と2人で食べる。
2つほど食べてごちそうさまをした。
5つほど残っており、さすがに母が全部食べるのはキツいかなと思ったし
せっかく作ってくれたのだからと思い
「あ、2つくらいラップして冷蔵庫入れといて?夜中食べるから」
とキッチンから言う。
「ん!」
母はちょうどサンドイッチを食べた瞬間らしく、喋れずに右手で「OK」マークを作っていた。
グラスに四ツ葉サイダーを注ぎ、飲む。
複数回に分けて飲み、最後に飲み干し、シンクに置き、水を入れる。
そして部屋に戻り、服を着替え、ピアスも変える。
スマホの電源を点ける。妃馬さんからのLIMEの通知。
「おはようございます。って起きてます?」
そのメッセージの後に猫が寝起きでぽやぽやしながら
「おはよう」と言っているスタンプが送られていた。
「残念ながら妃馬さんより早起きです」
とニヤけながら呟く。そして通知をタップし、妃馬さんとのトーク画面に飛ぶ。
「おはようございます。今起きたんですか?w
ちなみに僕は7時過ぎに起きてましたよ?(´꒳`*)どやあああ」
きっと打ち込んでいる僕も顔文字と似た顔をしていただろう。
その後にフクロウが両翼を腰にあてて得意気な表情のスタンプを送った。
トーク一覧に戻り電源を落とす。スマホをポケットに入れ、バッグを持ち、部屋を出る。
歩く度に耳元で星のチャームが揺れるのがわかる。階段を下り、一度リビングに寄る。
「んじゃ、行ってくる」
と声をかける。するとキッチンから母が出てきて
「気をつけてねー」
と言いながら後ろをついてくる。玄関で靴を履き
「いってきます」
「いってらっしゃい!気をつけてね」
と母と出掛けるときのいつものやり取りを交わし、大学へ向かう。
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