ニキしろ SS
久しぶりにしっかりアラームの音を聞いた。現在朝の9時。今日は実写で質問コーナーの撮影のため、ニキが俺の家に来ることになっている。昼頃家に来ると言っていたが、部屋を片付けたり、ヘアメイクしたりするのに時間が必要なため少し早い時間に目を覚ますことにした。
起きてすぐ携帯を手に取って、ニキへのLINEを確認する。
「明日昼頃行くわー、なんか飯頼んどいて」
「わかったわ、気をつけてー」
「撮影楽しみにしとく、質問厳選よろ」
「おけ」
「また服ジャージでいい?w」
「お前それしかないやんけ」
「じゃあまたあしたーおやすみー」
「寝坊すんなよ、おやすみー」
他愛のない会話。あえて「おはよう」とかは送らないで、今日はニキからのLINEを待とうと思う。布団から起き上がって、ベッドメイクする。あまり意味ないと思いつつ、少しの期待を込めて、見られた時のために綺麗に整頓しておく。
顔を洗って、スキンケアは入念に。こだわって選んだケア用品で肌の健康は保っておく。ニキには少しでも綺麗に見られたらなんとなく嬉しい。そこら辺の女には敵わないと知りながら。
クローゼットの中から俺がプロデュースしている洋服を取り出す。ニキに自慢したいのもあって、今日はそれを着用する。動画内でも宣伝するためだった。黒を基調としたシンプルなデザインが本人的にも気に入っている。こういうシンプルなTシャツのデザインなら、ニキでも着てくれるだろうなと思いながら制作したことはリスナーにバレないように墓まで持っていこう。
ヘアセットとメイクはニキが来る直前に。そして携帯を取り出す。ネット注文のアプリで、俺もニキも好きな昼ごはんを注文する。バーキンでいいか。ニキがよく頼んでいるものは把握済みである。写真にも残してあるし、それを美味そうに食べるニキの顔も実は写真に撮ってある。1枚だけの写真だが、フォルダに入れて大切にしている写真だ。
ネット注文を終えて、パソコンデスクの前に座りXに送られた質問に目を通す。メンバーについての質問も多いが、俺とニキ2人に対しての質問が今回は多い。中にはそういう質問もある。動画では取り扱うことは無いが、俺も聞きたいような質問が沢山あった。今回の動画の尺は約20分。一つ一つ丁寧に答えるとして、ある程度の質問は厳選した。少し多めに厳選して、昼を食べながらニキにも選定してもらうことにした。
ヘアセットとメイクを丁寧に終わらせて、ネットをダラダラと見ていたらあっという間に11時半になっていた。ニキのLINEを少し気にする。動画撮影の用意をしようと思い、カメラのセッティングの準備のために立ち上がる。
すると、いいタイミングで通知音が鳴った。
「そろそろ着くけど大丈夫?」
「ええよーカメラ用意してた」
「おけ、もう着く」
少しソワソワする。一緒に住んでいた一時期を思い出すのも何度目だろうか。それを経て、今のこの気持ちに至るのだから。困ったものであった。
玄関のチャイムが鳴った。鍵は開けてある。
「ただいまボビー」
「おう、おかえり」
「飯届いてんよー、これバーキン?」
「そう、お前好きじゃん」
「流石だわ」
「食いながら質問見て欲しいんよ、ニキも何個か選んでくれ」
「わかった、手洗うわ」
迷うことなく洗面台に向かうニキ。俺の家に何度来たか分からないからこそ、もう部屋の構造は把握されている。また一緒に住むことは出来ないのだろうか。俺らの関係なら、一緒に住んでいても問題ないのではないだろうか。色んなことを考えながら届いた昼ごはんをテーブルの上に広げる。
「おーありがとう、やっぱ俺が好きなやつなんだね」
「そりゃ何度も見とるからな」
「ボビーじゃなきゃわかんないよ」
【いただきまーす】
「俺が選んだ質問これなんやけど、半分半分位で選ぼうと思っててな?この中から俺と同じ数だけニキも選んで欲しいんよ、どう?」
俺の携帯をニキに差し出す。
「あーおけ、見せて」
俺の携帯を手に取る時、ニキの手が俺の手に触れる。よくあることだが、俺はそれ程度のことで一喜一憂できるほど色んな思いを持っている。また、少し嬉しくなる。
「んー、なるほどねぇ。俺ら2人の質問がやっぱ多いけんね。なんでもいい?メンバーのこともあり?」
「ありあり、俺もバランスよく選んだよ」
この後の撮影についての話を進めながら飯を食って数分。机を片付けて、カメラのセッティングを2人で行った。座布団を並べて2人で近づいて座る。カメラに収まるようになるべく近寄らないとならないので、肩が付く位の距離で俺らは2人で並んだ。少しニキの匂いがする。長い黒髪が目に入って、少し眩しい。
「じゃあ撮影しますか!」
「ええよー」
「はいどうもニキです!」
「こんにちは!しろです!」
……
そこから数時間に渡って撮影をした。
ニキと二人きりで笑いあって撮影できるのは嬉しい。ほかのメンバーとみんなで撮影する時ももちろん楽しいのだが、ニキと二人きりの時は特別だった。でも、あまりそれを受け入れてはいけないのだろうなと、少し心の中で戸惑っていた。
「いやーお疲れ様、おもろかったわ」
「攻めた質問ばっか選ぶからやろ、ツッコミに疲れたわ」
「ボビーも攻めてたじゃん」
「ま、お互い様やな」
撮影の振り返りを少しして、カメラを片付けて落ち着いた。
「この後どうするん?すぐ帰る?」
「んー、いやー、特になんにもないからな」
「そう…」
「どうした?」
「いや…?別になんでも。それならもう少しゆっくりしてから夕飯でも食いに行く?」
「あり!行こうぜ」
現在時刻は18時半過ぎ。大体19時過ぎくらいが夕飯にはちょうど良いと思い、30分くらいは今後のことについて話すことにした。女研でやりたいこととか、個人的な撮影でやりたいこととか。色んな打ち合わせを行っていた。
「そういやさ」
「何」
「さっきの動画でさ、【ニキくんとせんせーは同棲してた時付き合ってたんですか?】って質問答えたやん」
「そうやな」
「同棲、だったの。あれ」
「……同居の間違いやろ」
「でもボビーそれ否定しなかったよね」
「あんま気にしてへんかったわ」
「そう」
あえて俺がツッコミを入れなかった質問に対する話をされてビクッとする。同棲という響きが少し良かったからツッコまなかっただけであって、それといっていやらしいような深い意味は無い。ただ、何も無かったとはいえあれは同棲だった。楽しかったな。あの頃はまだ気持ちがここまで来ていなかったけど、今となっては本当にいい思い出であった。ニキと住んでいた頃はまだこんな気持ちじゃなかった。離れて気がついたのだ。大切なものは失ってから気付くとはこのことであった。毎日いたはずのニキが居なくなって、俺の部屋が静かになって、物が少なくなって。人の温かさが無くなって孤独感があった。その時に、ニキとの時間を思い出したのだ。笑う彼の声、ぼーっとしてるだけでかっこいい姿、ふざけながら一緒にいてくれる時間、撮影の時間、編集する時間、喧嘩したりもあったけれど、それも愛おしいものであった。その、【愛おしい】に気付いた頃には、ニキへの気持ちが大きくなっていた。
「……ボビー、聞いてる?」
「あ、ご、ごめん。なに?」
「そろそろ飯いく?どこ行こっか」
「あー、うん、どうしよか」
「どうしたよ、なんかぼーっとしてんね?」
「いや。ニキと住んでた時のこと考えてて…」
「ん?」
「あ、いや、なんでもないわ、気にすんな」
「同棲ってやつ、気にしてる?嫌だった?」
「いや、嫌じゃないねん別に、その……嫌とかじゃなくてさ、楽しかったなぁと思っただけやねん」
「そっか」
「なぁ、ニキ」
「なん?」
「俺さぁ」
「お前とまた住みたいかもしれんわ」
思わず口が開いてしまって、そのまま言葉が飛び出して行った。突拍子もないことを言っているのは分かっているが、自分にはどうしようも出来ないことを分かっていた。驚いたニキの顔が目の前にある。でもどこか落ち着いているような気がしたのは気の所為ではなかったようだ。
「ゆうたもそう思ってんの?」
「へ……?」
「そう思ってんのかって、きいてんの」
「いや、うん。思っとるけど…」
「へぇ、同じだね」
同じだ……?なにかの聞き間違いかと思う。
「裕太」
「なんや、急に名前で」
名前で呼ばれると少しドキドキする。普段はせんせーとか、ボビーとか、活動の名前で呼ばれているからこそ、ニキが名前で呼ぶ時は少し真剣な話の時が多かった。だから、少し恐ろしいという意味でもドキドキしている。なにか怖いことが起こるんじゃないのか、期待してしまっている自分を大きく裏切る言葉が言われるんじゃないかとか、不安がよぎってしまう。どうしてもニキと目が合わせられずに下を向いてしまった。
「ゆうた?こっち向いて」
「だからなんやて………ッ!」
心臓が大きく鳴った。そして止まりそうになる。
「や、やめろって!!!!」
「……ボビー?」
「やめろって急にそんな!!!頭がおかしくなるやろが!!!!!」
「じゃあなんでそんなに顔赤くしてんの」
「ち、違っ…くて!これは……!!」
「違くないでしょ」
「ち、近づくな!!」
「なにそれwゲームキャラみたいなこと言うなよ、ね。大丈夫大丈夫」
優しい顔をして俺に近寄るニキから何とか逃げようとするが、まぁまぁ強引に腕を掴まれて逃げることが出来ない。ここは俺の部屋だというのに。
ニキは強引ながらも少しニヤッと笑っている。それに対して俺は少し汗をかいている。まだ心臓がびっくりしていて治まらない。
突然キスされたのだから。
「大丈夫だからこっち来てよ、ゆうた」
「何を根拠に大丈夫なんて言うとるんよ!」
「だって俺ら両想いでしょ?」
「だから何を言うてんのやって!!」
「……違うの?」
掴まれていた腕が解放される。ニキは企んだニヤケ顔から、少し不安そうな顔になった。その目は少し焦っているようにも見えて、俺も少し焦る。
「いや、違う……ことは…………ない」
まだ俯いたままになってしまう。
「ボビーはどう思ってんの?さっきの……嫌だったら謝るよ、ごめん」
「嫌じゃない、嫌じゃないけどさ、びっくりしたんよ、急やったからさ」
「確かに急にキスしちゃったのは悪かったけど、一緒に住みたいってあんな顔して言うもんだから。てっきり俺の事好きになっちゃったのかなー!って思ってさぁ」
次は照れたような顔で言う。コロコロと表情が変わるところにまた少し愛おしさが芽生える。俺のためにそんな色んな表情を見せてくれることに、少し優越感に浸る。
ニキの発言の中に不安に思ったことがあり、ひとつ聞き返した。
「あんな顔……って、なに?」
「いや、ボビー凄い照れた顔して耳赤くして言うもんだから。キュンとしちゃった」
また少し耳が赤くなるのがわかった。なんなら顔が真っ赤だと思う。心臓の鼓動がまた早くなっていく。ニキにも聞こえてるんじゃないかってほどの音がする。焦りなのか緊張なのか、よく分からないドキドキが俺の心臓を打っている。
「もう見ないでくれ……」
思わず顔を覆った。耳まで覆い隠せないので、とりあえず顔面を覆う。顔が熱い。熱を持っているのもわかった。離れたはずのニキの手が、俺の肩に置かれたことが感覚で伝わる。その手はとても暖かく大きかった。俺と大差ないはずの手なのに、少し頼もしく感じた。
「ゆうた、こっち向いて。ね。」
「だから急に名前で呼ぶなって!」
「さっきの答えて?」
「……さっきのって?」
「俺らって、両想い?それとも違う?」
普段のニキからは想像できない優しくて甘い声で問い掛けられる。顔を覆っていて目の前は見えないが、ニキの顔がとても近くにあることが分かる。少し手に掛る吐息にドキドキが止まらない。涙が出そうなほどニキに詰められている。
なかなか言葉が出てこない。このまま自分の本音を伝えて今までの関係が壊れないか、女研として続けていくことに支障が出ないのか。色んな不安が頭をよぎるけれど、とても逃げられるような状況ではなかった。
「この際だから言うけどさ、俺ボビーのことずっと好きだったよ?」
「へ……」
「だから、俺は裕太のこと好きだよ」
「お前、女はどうした女は」
「いやー、こんなボビー見てたら女の子よりもボビー選んじゃうよね。そりゃ」
肩に置いた両手の片方が俺の頭に乗せられてわしゃわしゃと撫でられる。あまりない感覚だが、とても心地よい。安心する。しかし、鼓動はまだうるさいままだった。
「お前、何言うてんのか分かっとんの?」
「分かっとるよ。俺、結構本気よ?」
「マジかお前……」
顔を覆っていた手を外し、ニキの顔を見た。ニキは微笑んでいて、とても愛おしそうに俺を撫でている。目が優しい。この目がニキの好きな人に向ける目なんだろうか。俺だけのものなんだろうか。この目を、俺以外に向けて欲しくない。
「な、撫でるのやめぃ…恥ずいわ」
「ボビー可愛いね」
「うるさいなぁ!さっきからなんなんや!俺の事口説いて……ドッキリか?カメラあんのか?」
「違うって!これガチ!マジ!」
「じゃあもっかいキスしてみぃ!」
「は?言ったね?」
ニキの目が変わった。スイッチかなにか押してしまったんだろうか。肩を掴む手に力が入る。
「後悔しても知らないよ?俺本気だから」
「え、いや、ちょ……っ!」
ふたつ並んだ座布団の上に、そのままの力で押し倒される。呆気なくニキに力で負けてしまった。あまり俺が抵抗しなかったのもあるが、ニキの力強さに驚いた。今、ニキが俺の上に覆いかぶさっている。手首を抑えられているので上手く身動きが取れなくてまたもや逃げられない。
抵抗する間もなく、また唇が塞がる。
「お前……っ、本気やんな…」
「言ったやん、逃げんなよ」
「…!ん、ぅ…」
塞いだ唇の間から暖かい舌が俺に侵入してくる。あまりにびっくりして、息の吸い方を忘れそうになって苦しい。手首にあった手が、いつの間にか俺の頬を撫でている。
「っは、ぁ……んん…!」
「苦し?」
「くる……し、っ、んんっ…ぅ」
「大丈夫」
「あっ…は、ぁ……ん…んぅ」
思わず受け入れてしまって、念願叶ったような嬉しさで飛び跳ねそうな心臓を抱えている。女とキスする時は俺がリードするから上手くいくのに、ニキにリードされているせいで上手く息が出来なくて苦しいが、大本命の好きな人からのディープキスは本当に気持ちいいことに身体が熱く火照っている。下の方に熱を持ち始めているのがわかって恥ずかしさもまた心臓を動かした。
「に、にき…っ、まて…は、ぁっ」
「どしたの。気持ちよくなっちゃった?」
「………っ!!!ま、って、触らんで……や…」
「おっきくなってんじゃん。チュー好き?」
「そんな聞くなっての!」
「本当にいじめがいがあるなぁ、ゆうたは」
「やめっ…っ!!まって、待ってって!!」
「こっち来て」
ニキに手を引かれて起こされて、そのままの勢いで手を引かれてまた迷うことなく寝室のベッドに連れていかれる。ベッドメイクしておいて良かったと心のどこかで思った。
そのまま勢いよくベッドに押し倒され、またニキが俺の上に覆い被さる。さっきよりお互い体と顔に熱を持っているのが見てわかった。ニキも興奮しているようで、目がギラギラしていた。俺しか見えていないようだった。俺自身もさっきのキスで身体が蕩けそうになってしまい、足腰にあまり力が入っていなかった。
「ゆうた」
「…なんだよ」
「俺の事、好きだった?」
「……さぁ」
「好きだったよね。そうじゃなきゃさ、キスだって抵抗するし今だってこうやって受け入れてないよな?また一緒に住みたいなんて、あんな可愛い顔で言わないでしょ、ね」
「!やっ、めろ……触んな……!」
「可愛いよ。俺はそういうあんたが好き」
「うるさ……っ!んぁ……あ、…ふ、ぅ……っん」
強引にまたキスされる。もう今日だけで何回ニキからキスされているんだろうか。こんな日が来るなんて思ってなかった。幸せだと思う反面不安な気持ちもあるが、今はそんなマイナスなことは一切考えてる余裕はなかった。ただ一瞬の快楽に身を任せていて、溺れそうになっている。ニキから与えられている俺だけに向けての快楽が気持ちよくて身体全身で感じて熱くなって、ニキを求めていた。
「ふぁ……っあ……ニキ、もうやめ……っ」
「……やめていいん?」
「ここ、こんなに熱いのに」
「……やめ、ない……で」
「よしよし。よく言えた。俺のボビー♡ 」
「好きだよ。裕太」
END
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ヴァ…(尊死)