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野坂 りさちゃんは綺麗な子だった。
ぼくの隣のベットに座る彼女は白い足をぶらぶらさせて、白い雪が降り積もる窓の方を見ている。
季節は冬。
一年で最後の季節で外は寒くて白くてまっしろだ。
外に出たことはあまりないけど、ぼくは割と好きな季節なんだ。
だけど、りさちゃんは好きじゃ無いらしい。
彼女は綺麗な横顔を微動だにせず一点を見つめている。
いつもりさちゃんはつまらなそうだ。
ぼくよりも一年長く病院に入院している彼女と僕は病室が一緒だった。
今年で3年目になるだろうか。
りさちゃんは僕よりも歳上で12歳。ぼくは9歳。
性別も違うし、容姿も全然違う。
りさちゃんはまるでモデルのような容姿をしている。
テレビに映っていても違和感がない。たまに見惚れてしまう。
確か、お母さんが外国人の人だと言っていた。いわゆるハーフだ。
りさちゃんのお母さんは滅多に見たことがないけど、綺麗な人だったことは覚えている。
一度だけ面会に来たことを見たんだ。
対してぼくは彼女と比べるほどの容姿をしていない。
だから割愛しよう。
数えられるほどだけど、年数回、父さんが会いに来てくれる。
会うたびに痩せていて心配になる。
それ以外の時間はりさちゃんと過ごしている。
結構、暇なんだ。
病気の検査として血を抜かれ、針を腕に刺して薬を体内に入れられる。あとは、薬の副作用で眠くなりながら病室に置いてあるテレビを一日中見ているぐらい。
検査は辛い。血を沢山抜くから辛くて痛くて泣いてしまう。最初の1年間は泣いていた。
薬の副作用でたくさんの毛が抜けた。
だけどもう慣れた。
それはりさちゃんも同じみたいで、よく愚痴っていた。
「くそったれ」って。
案外彼女は口が悪い。
だけど結構、絵になっていた。
僕とりさちゃんの患っている病気は国内でも患者は数えられる程しかいないらしい。
だからぼくたちは大きな病院に入院した。
治療法が確立していない病気だからって偉いお医者さんが何人も来た。
両親に病状を説明された両親は暗い顔をしていて、母さんは泣いていた。
それから、母さんは病室に来なくなった。
それはりさちゃんも同じだった。
ぼくたちは似たもの同士だった。
ぼくは嬉しかった。
孤独じゃない、こんなに辛い思いをしているのがぼく1人だけじゃないんだって。
ぼくはりさちゃんのことが好きになった。
一緒に泣いて欲しかったんだ。
だけど彼女は強いから泣かなかった。
そんなあるとき、ぼくたちは将来について考えた。
将来。
そんなものがぼくたちにあるのか分からないけど、考えたかった。
お医者さんはいつも笑って「大丈夫、必ず治るからね」と言ってくれたが、この身体は自分のものだから何となくわかったんだ。
ぼくはもう長くは生きられないって。
母さんが来なくなったのは息子の死ぬ姿が見たくないからだって、わかってた。
りさちゃんは何も言わなかった。
いつもと同じでつまらなそうに、
ぼくのベットの上で隣りに座っている。
だけど、今日は違った。
彼女はこちらを見て、吸い込まれそうな強い瞳を向けて口を開いた。
「死んだらおわりなんだよ。パパのこともママのことも忘れちゃうの。なにもかも思い出すこともできないの。」
その綺麗な横顔は遠くを見ていた。
「私ね、ママみたいにモデルになることが夢だったんだ。世界中を飛び回って、好きな人と出会って、付き合って、結婚して……」
今日のりさちゃんはよく喋った。一年で一番話したんじゃないんだろうか。
思わず僕は魅入ってしまう。
が、だんだん彼女の様子がおかしくなる。
―グス、グス
気がつけばりさちゃんは大粒の涙を流して泣いた。
彼女の方をみると、
色白な肌と日本人離れした顔立ちをした青い瞳と目が合った。
泣く彼女の姿は改めてみると、非常に整った容姿をしていた。
だが闘病のせいでその容姿は痩せこけている。
いつも、ベットの上で彼女を見ていたつもりだった。強く、冷たい人だと思っていた。
だけど今日のりさちゃんは年相応の女の子だった。
震えていた。
「…どうして、パパ来てくれないの…?どうして外に出て遊んだらダメなの…?どうしてみんなみたいに学校に行ったらダメなの…?…どうして……どうして」
「〇〇くん」
りさちゃんはぼくの名前を呼ぶと、冷たい手で握ってきた。ちなみにぼくの手も冷たい。
「なに?」
「…もし、生まれ変わることがあったら、また友達に…なってくれる?」
「………。」
「…うん」
ぼくは笑顔で返事をした。
それから2か月後、りさちゃんは亡くなった。
治療法が無いために病の進行を抑える薬を投与するしか手が無かったらしい。
定期的に来ていた彼女の母親はもう病室には来なくなった。
今、ぼくがいる病室にはベットが2つある。
ぼくの隣のベットにはりさちゃんがいた。
近い未来、ぼくは彼女がいるところに行くんだと思う。
天国っていうのかな?
よく母さんが言っていた。
きっとりさちゃんも天国にいる。
待っていてくれるんだ。
いい事をした人は天国に行くんだって。母さん言ってた。
だからぼくはたぶん、天国に行けるんだって思っている。
ぼくの人生は短かったけど、りさちゃんと出会えて良かった。
孤独じゃなかったから、辛くてたまらない人生が彼女のおかげで生きていていいんだって思えた。
ぼくはもう一度、彼女に会いたい。
どんなに苦しくてもいいからりさちゃんに会いたいんだ。
ありがとうってい言いたい。
ひとりぼっちにしないでくれてありがとって。
りさちゃんが亡くなって数ヶ月が経った。
気がつけばぼくの手は白くなっていた。
冬だから白いわけではない。もともと白いわけではない。
加え手足は細く、骨がよく見えている。
だけど嬉しいことに最近は父さんがよく会いに来てくれる。
ぼくの大好物のプリンを買ってきてくれるんだ。高くて美味しいやつ。
でも泣いてた。
ぼくの手を握って泣いていた。
ぼくの視界は半分くらいしか見えてなくて身体はうまく動かない。父さんのすすり泣く声しか聞こえない。顔がよく見えない。
父さんに触れたいのに触れられなかった。
…ごめんなさい。
さらには一日に起きる回数も減ってきて
血を抜かなくなって、
薬を入れなくなった。
最近は一日中ずっと寝ている。
ピーピーとよく音が鳴って
その度にお医者さんが慌ててきてくれる。昼も夜も。
だけど、それももう終わるんだ。
もう僕は死ぬ。
多くのお医者さんが叫んでいた。
ああ、りさちゃんの時と同じだ。
あの時はただ、呆然と見ていることしかできなかった。
怖かった。
死ぬことを実感して、自分もそうなるんだって。
でもいざぼくがそうなるとあっけないものだった。
意外と苦しくない。痛くも無い。
死ぬのは怖いけど、もう少しでりさちゃんに会える。
早く会いたいな。
「…りさちゃんまっててね」
そう賀川 隼人は呟いた。