テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
19
漬物🥒
108
それから日々が過ぎた。星夏(せいか)は先輩、竣の企画の手伝いを続けていた。
そしてある日、次の企画プレゼンのテーマが発表された。
「次のテーマ、ボドゲだって」
とパスタを巻きながら言う夕彩(ゆあ)。ボドゲとは、ボードゲームの略称で
元々は車の駒に人を乗せて、ルーレットで進む数を決め、止まったマスに書かれている出来事が反映される
人生的なSomethingのゲームのように、専用のボード上で繰り広げられるゲームのことだが
最近ではボードゲームと呼ばれるものの範囲が広がり
テーブル上で行える、カードや駒などを用いて遊べるゲームのことを総称してボードゲームと呼ばれている。
「ボドゲねぇ〜…。あんませんのよねぇ〜」
と言う星夏。
「夕彩やる?ゲーム好きじゃん」
「いや、私やるのはボードじゃなくてテレビだから。テレビでもないか。
サティスフィーは携帯機だから。呼び方ムズイな」
「ボドゲかぁ〜…。どうしよ」
「ま、私は今回企画出すけどね」
「え。そうなの?」
「もちろん。ボドゲとはいえ、私の好きなゲームだからね。
自分が考えたゲームが世に出るなんて、最高じゃん?」
「そっかぁ〜…。ボドゲねぇ〜」
なんて話してお昼ご飯を食べ終えた星夏と夕彩。オフィスに戻る。
すると後輩である四季(しき)もオフィスに戻っていた。
四季が入社したときから「仲良くしたい」と考えていた。なので
「経堂さん!」
話しかけた星夏。
「はっ、はい…。なんでしょうか…」
少し怯える四季。
「怯えとる」
と2人の様子見ながら呟く夕彩。
「ゲームしよ」
「…ゲーム…ですか」
「そう!ゲーム!「最終なぁに?ゲーム」」
「好きだなぁ〜、それ」
と呟く夕彩のほうをバッっと振り返り
「夕彩もやるよ」
と言う星夏。
「なんか巻き込まれた」
ということで、各階にある休憩スペースに移動して、3人で「最終なぁに?ゲーム」をすることになった。
「ま、このゲーム、経堂さんも知ってるとは思うんだけど、。知ってる?」
「あ、はい」
「夕彩は、知ってるか」
「知ってるもなにも、星夏、2人だけなのに何回もやろやろ言ってきたじゃん」
「いや、このゲーム2人だけでもできるからね?あ、うん。でね?
このゲームは何個かルール?やり方?があるんだけど、経堂さんは知ってる?」
「あ、はい。…なんと、なくは…」
「てかそもそもなぜにこのゲーム」
と聞く夕彩。
「いや、それをこれから説明しようかと」
と星夏が言うと、「あ、それはすいません」と言わんばかりにペコッっと頭を下げて
「どうぞ説明続けて」と言わんばかりに手を出す夕彩。星夏は頷き説明を続ける。
「私たちは経堂さんと仲良くなりたいの」
と言う星夏に
たち?勝手に私もってことにされた。…ま、仲良くできればそれに越したことはないか
と思う夕彩。言われた四季は、驚いたような
鳩が豆鉄砲を食ったように「ポカン」と「きょとん」としていた。
「だからこのゲーム」
「説明になってませんが」
「だからー。このゲームってさ?連想連鎖ゲームみたいなもんじゃん?言ってみれば」
「そうね」
「だからその人の考えが見える、読める?わかるからさ?
質問攻めで「食べ物なにが好き?」とか「休日なにしてる?」とかよりも
ゲームとして楽しめて、なおかつ自然と質問できるじゃん?」
「なるほど」
「私の高校時代の友達は、アパレルで働いてるんだけど
新人さん入ったらみんなでやるらしい。やると仲良くなれるんだって」
「へえぇ〜」
「それに連想ゲームだから、もしかしたら企画のアイデアも湧いてくるかもしれないし」
「Oh。それは名案かもー」
「でしょー?なので、私たちと一緒にやってください!」
と告白のときのように四季のほうに手を差し出して頭を下げる星夏。
「仲良くなりたい」と言われて、もちろん嬉しかった四季だが
歳上、先輩ということもあって、やはりどこか少し怖さもあった。
「ごめんね。ちょっと付き合ってあげて。ちょっと付き合ったらたぶん満足するはずだから」
と言う夕彩に
「…じゃあ。は、はい」
と承諾した四季。
「ありがとうございます」
「あ、…いえいえ…」
ということで3人で「最終なぁにゲーム」をすることになった。
「…」
Doufor(ドフォール)のコーヒーの容器を2つ持ってオフィスへ戻ってきた怜視(さとし)が
キョロキョロ辺りを見回していた。
「なんか探してんのか?」
竣が怜視に聞く。
「いや、経堂を。買ってこいって頼まれたんで」
とコーヒーの容器を少し上げる。
「へえぇ〜」
経堂ちゃんって人に命令するタイプなんだ。意外だな
と思う竣と青音羽(あおば)。
「経堂なら先輩らに連行されていったぞ」
「先輩?青牙(あおきば)先輩よりも上の人ってことっすか」
「あぁ〜違う違う。あれ、塩地(しおじ)と千石(せんごく)」
「あぁ〜、なるほど。経堂からして先輩ってことっすね」
「そそ」
「…ん?連行?」
と戸惑っていた。
「今回は経堂さんと仲良くなりたいという名目なので
経堂さんの答えに合わせにいくルールにしようと思います」
と星夏が言う。
「ん」
「ということで、経堂さんの答えと一致した数が多かったほうが勝ち。負けはジュース奢りね。3人分」
「罰ゲームありかよ」
「じゃないとちゃんとやんないでしょ」
「あ、いや、私の分までは…」
と言うが声が小さく2人には聞こえていなかった。
「失礼な。ゲームと名のつくものは割とちゃんとやるから」
「どうだかー。私が誘ったときは乗ってこなかったくせに」
「ボードゲーム2人でやろうって、RPGでいったら縛りプレイするようなもんでしょ。しかも初見のゲームを」
「…わからん例えすなよ。ま、いいや。とりあえずやりますか」
ということでスマホのお題アプリでまずは「お題(最初のワード)」を決めた。
「最初の言葉は「ピンク」…また漠然としたワードだな」
次は「テーマ」を決める。
「テーマは飲み物」
そしてルーレットアプリで回数を決める。
「回数は4回。なかなか多いね」
ということでそれぞれスマホを使って連想していく。もちろん今回は四季の答えを予想しながら。
ピンクといえばなんの飲み物を想像するだろう…
過去うち(会社)で出した「桃より桃な桃サイダー」とか?
と考える星夏。
ピンクの飲み物ねぇ〜…そもそもあんのか?
そういえば瓶タイプのビタミンドリンクにピンクのやつあったな…それ書いとくか
と考える夕彩。四季も考える。
「さて。よござんすかぁ〜?」
「なんで丁半博打なんだよ」
「え。このワードってそれのなの?」
「知らずに言ってたんか」
「なんか聞いたことあるなぁ〜と思って。で、どお?夕彩は終わった?」
「オワタ」
「経堂さんは?」
「終わり、ました…」
「おっけ。じゃ、スマホを。せーのっ」
3人でスマホをテーブルの上に置いた。
「…」
「…」
「…」
「すごい…。全然合ってない」
星夏の回答は「ピンク→桃のジュース」「桃のジュース→オレンジジュース」
「オレンジジュース→カシオレ(カシスオレンジ)」「カシオレ→ビール」
夕彩の回答は「ピンク→ピンク色のビタミンのやつ」「ピンク色のビタミンのやつ→オーナミンC」
「オーナミンC→Reedblue(リードブルー)」「Reedblue→Warnig Energy(ワーニング エナジー)」
四季の回答は「ピンク→ソラ・オーラ」「ソラ・オーラ→炭酸水」
「炭酸水→温泉水」「温泉水→水道水」だった。
「いや、夕彩エナドリ(エナジードリンク(ReedblueやWarnig Energyなど))ばっかじゃん」
「いや、オーナミンCはエナドリじゃないでしょ」
「味似てんじゃん」
「ま…。うん、こうなったわ」
「え。そもそもちゃんと経堂さんの答えに合わそうとした?」
「しました。罰ゲームかかってるし、なにより」
「「ゲームと名のつくものはちゃんとやります」」
「でしょ」
「それ。まずピンクの飲み物といえば、ピンク色のビタミンのやつ。
ま、そこからはビタミンといえばーって感じで繋げてったら、最終エナドリになったわ」
「…ま。筋は通ってるか」
「で?そーゆー星夏は?なに桃のジュースって」
と笑う夕彩。
「いや。ピンク色のドリンクが思いつかなかったんだよ。…。あ!アスピスのイチゴ味とかピンクか!」
「懐かしいな。売ってないでしょ」
「売ってないか。…いや、売ってなくてもよくね?」
「まあ、それはそう」
「で?経堂さんは?」
と星夏と夕彩は四季のスマホを覗き込む。
「…。ピンクといえば…ソラ・オーラ?」
「ピンクじゃなくない?赤黒いでしょ」
と四季を見る星夏と夕彩。
「あ…。ピンクって、ピンクの飲み物じゃないと、ダメだったんですか…?」
と申し訳なさそうな感じで小声で言う四季。
「あ、いや、別にいいんだけど。…そっか。別にピンク色の飲み物じゃなくてもいいのか。
パッケージがピンクとか、メーカーのロゴがピンクとか」
「あぁ〜。そっか。すご。経堂さん、思考が柔軟なんだね」
「え、いえ…」
「でもなんで?ピンク…。ソラ・オーラのロゴもパッケージも赤だよね?」
「あ…。あの…。好きなゲーム実況者さんの髪の色がピンクと黄色で
そのゲーム実況者さんが好きな飲み物がソラ・オーラで…。
なんか0歳からお父さんに哺乳瓶にオーラを入れてもらって飲んでいた、年齢=オーラ歴っていう
そこらのオーラ好きとは一線を画す筋金入りのソラ・オーラ好きの方だったので」
と言う四季。
めっちゃ喋るじゃん
と思う星夏と夕彩。
「へえぇ〜。経堂さんってゲーム実況好きなんだ?」
「あ、いえ。あ、ま、はい…人並みくらいに…」
「なんて人なんて人?夕彩もゲーム好きだから気になるでしょ」
「まあ。私も何人かゲーム実況者知ってるよ」
「てかさ、もし経堂さんさえよければ、だけど、四季ちゃんって呼んでいい?」
「あ、はい…」
「やったぁ〜!四季ちゃん!」
その後も四季といろいろ話をした星夏と夕彩。オフィスに戻ると
「随分と長い休み時間でしたなぁ〜。お3人さん」
と竣に言われた。お昼ご飯を食べた後で四季と話をしていたので
だいぶお昼の休憩時間をオーバーしてしまったようだった。
「すいません。ちょっと企画についての話し合いを」
と言いながら座る星夏。
「ほお?ってことは今回の企画会議に自分のアイデアを出すってことだよなぁ〜?」
「ん?」という顔で星夏に言う竣。
「あぁ〜…。はい。そうですね」
「そうか。ま、期待してるわ。“初”の企画通るといいな」
「嫌味な言い方ですね」
「先輩として応援してるんだけどな」
ということで、それからというものの、竣の企画を手伝いつつも自分の企画を考える日々が続いた。
当たり前だが、ボードゲーム1つであっても、1から作るというのは大変なことで、悩みに悩んでいた。
「あ“ぁ”〜…」
と背もたれに思い切り寄りかかる星夏。
「どうしたん。恋に悩む青春乙女みたいな声出して」
と言う夕彩。
「こんな声出す?恋に悩む青春乙女が。案が点で出ないのだよ、案が…」
「まあ。気持ちはわかる」
「でしょー?ゲーム好きの夕彩でさえそうなんだから
普段あんまゲームをしない私からしたら難しくて難しくて。ね?四季ちゃん」
「…。そ、そうですね。私も、苦戦、してます」
「だよねぇ〜」
夕彩がバッグを持って立ち上がる。
「さ。私は推しに会いに行こうかな」
と星夏に聞こえるように言う夕彩。
「なに?千石ってメン地下(メンズ地下アイドルの略称)とか応援してんの?」
と青音羽が聞く。
「いえ。ていうか先輩こそ好きなんですか?メン地下って言い方」
「え?いや、なんかで覚えちゃったんだよ。メン地下って言い方。テレビかな」
と青音羽と夕彩が話す中、星夏は夕彩に視線を向ける。
「私は行くけどー…」
「私も行く!」
ということで会社を後にした2人は真新宿へと向かった。行き先はもちろん
「いらっしゃいませ。あ」
星夏と夕彩に気づいたRENが2人に微笑む。
そう、来た場所はマジックバー&バー「immature lure portion(インマター ルーア ポーション)」。
「こんにちは」
「こんにちは」
「こんにちはー」
と言いながらコースターを出すREN。
「あ、カウンターで大丈夫でした?」
「もちろん」
「よかったです」
席につく星夏と夕彩。
「私はシャンディーガフで」
「はい。翔煌(しょうき)」
とRENが翔煌を呼ぶ。
「はい」
「シャンディーガフ。お願い」
「了解っす。ビールの銘柄はー…」
と言いながら夕彩に気づく翔煌。そして微かに微笑み
「いつものでいいっすか?」
と夕彩に聞く。
「はい」
どことなくデレている様子の夕彩。
「星夏さんはどうされます?」
とRENが聞く。
「私はー…カシオレで。お願いします」
「カシオレで。かしこまりました」
とRENと翔煌がそれぞれカクテルを作る。
「明日はお休みですか?」
本日は金曜日。
「お休みです。やっと」
「お疲れ様です。ぜひゆっくり休んでくださいね」
「ありがとうございます」
夕彩のシャンディーガフが先にできて、少ししてから星夏のカシスオレンジもできた。
「じゃ」
「ん」
「乾杯」
「乾杯」
乾杯して飲んだ。その後星夏と夕彩はいろいろと話した。仕事のことがメインだったので
「仕事の話はやめない?せっかく明日から休みなんだし」
と言う夕彩。
「だねぇ〜」
「じゃ、せっかくなら翔煌のマジックでもどうです?」
とRENが言う。
「お。いいですね。星夏、翔煌さんのマジック見たことないもんね?」
「ないない」
「じゃ。お願いしてもいいですか?」
と夕彩が翔煌に言う。
「もちろんです」
と言うと翔煌はコインを取り出す。
「じゃ、500円玉でもいいんですが
わかりやすいように500円より少し大きいアメリカの50セントコインを使います」
と50セントのコインを4枚カウンターに並べる。
「普通のコインだということをたしかめていただけたら」
と翔煌が言うので、星夏も夕彩も1枚ずつコインを取る。
「ちゃんと硬い硬貨だというのを確認してもらって」
と言いながら2枚のコインをカチンカチンとぶつける翔煌。
そう言われて、爪で弾く星夏。カウンターテーブルに軽くカツカツぶつける夕彩。
「はい。ちゃんと硬いです」
星夏が言い、夕彩も頷いて翔煌にコインを渡す。
「ありがとうございます。
じゃ、まずはこの世には瞬間移動が実在するというのを目の前で見てもらおうと思います」
翔煌は右手にコインを4枚入れて
「右手に4枚あります」
と星夏と夕彩に見せる。そして握る。
「左手にはなにもありません」
と言って左手も握る。そして両手を手の甲を上にする。
「今から右手のコインを」
と言って右手を少し上げる。
「左手に瞬間移動させてみようと思います」
と今度は左手を少し上げる翔煌。そして右手を軽く細かく上下に揺らす。
するとチャンチャンとコインがぶつかる音が右手から聞こえる。
「いきますね」
右手を軽く細かく上下に揺らし、左に向かって軽く振った。
そして左手はなにかをキャッチするように、なにかが飛び込んできたように左に流れる。
まずは左手の手の甲を下にして、小指からゆっくりと開く。すると左手にはコインが1枚あった。
「え?」
驚き、声が出る星夏。夕彩は腕を組み、訝しげに覗き込む。
そして今度は右手の手の甲を下にして、小指からゆっくり開く。
そして左手のコインをカウンターに置いて、右手の中の重なったコインを左手の人差し指でズラす。
「もちろん右手には、1、2、3枚」
「えぇ?」
「まったくわからん」
「ありがとうございます。1枚だと瞬間移動した瞬間というのがわかりづらいと思うので
左手に1枚コインを入れた状態で、右手のコインを移動させたいと思います」
と言って左手にコインを入れ、また両手、手の甲を上にする。
「じゃ、行きます」
また右手を軽く細かく上下に揺らす。するとチャンチャンとコインがぶつかる音が右手から聞こえる。
そして今度は右手を軽く上に上げる。まるでコインを上に投げるように。
そして左手は少し上に上げ、軽く下に下げる。まるで上に投げたコインをキャッチするように。
すると左手からカチャンという音が聞こえる。
「え?」
翔煌は左手を軽く振る。するとチャンチャンと音がする。
「え?」
翔煌は左手の手の甲を下にして小指からゆっくりと広げる。そして左右に少し振る。
すると重なっていたコインがズレる。
「2枚ある!」
「もちろん右手は」
右手も左手と同じように手の甲を下にして小指からゆっくりと広げる。そして左右に少し振る。
すると重なっていたコインがズレる。
「2枚になってます」
「すご」
「ありがとうございます」
「翔煌さん、星夏にあれやってください」
「あれ?」
「あれですあれ」
夕彩は自分の右手に左手を被せる。
「あぁ。あれですか。じゃあ」
と翔煌は一旦コインをまとめる。
「じゃ、手よろしいですか?」
と星夏に言う翔煌。
「はい。どっちの」
「どちらでも。出しやすいほうで」
右手を出す星夏。
「ちょっと握らせてもらいますけど大丈夫ですか?」
「え。あ、はい」
「僕の手の中から、瞬間移動させますので、コインが来たら「来た」って言ってもらっていいですか?」
「え。あ、はい」
「失礼します」
と言って翔煌は星夏の右手に右手を上から被せて軽く握る。
「いきますね」
左手を軽く左右に振る翔煌。チャンチャン音がする。左手を軽く上に振る。
そして左手を見ていた翔煌の視線は左前腕、左二の腕、左肩と伝っていき
胸、右肩、右二の腕、そして右の前腕まで来た。
そして星夏の右手を握っていた右手を軽く上に上げて、軽く下に落とす。すると
「え、うそ。来たんだけど」
と言う星夏。翔煌が星夏の手から自分の手を離す。すると星夏の掌にはコインが1枚。
翔煌は左手を開く。そして重なったコインを右手の人差し指でズラしていく。
「1、2、3枚」
「え。すご」
「ありがとうございます」
コインを翔煌に返す星夏。
「すごー」
「私はこれで掴まれたのよ。手も心も」
「うまいこと言わんでいいわ」
その後も他愛もない話をして飲み続けた。夕彩のゲームの話、恋バナ、友達の話など。しかし気づけば
「マジで今回こそは企画を通したいんだけどさ?
マジでボドゲって言われても、ゼロから作れって割と無理ゲーじゃない?」
行き着く先は仕事の話。
「まあぁ〜。ムズいよね」
「夕彩は?進んだ?」
「うん。ま、ブラッシュアップは必要だけど、基礎はできた?かな?」
「マジぃ〜?さすがだわ。何回も企画通ってる猛者は」
「いや。全然よ。猛者なんて全然」
「いや、今回も今回とて、余裕を持って作れてるじゃん」
「いや、今回に限っては私の好きなジャンルだからね?
あと今回に関しては、ブラッシュアップの時間は必要だから。
ゲームに関してはルールとか、そういうのに穴があった時点でダメだからね。ま、面白そうだから採用されて
その後でみんなでブラッシュアップするってパターンもあるんだろうけど」
「そっかぁ〜…。私も早めに上げないとなぁ〜…」
「あ、あと最初はね?星夏みたいに一喜一憂するけど、1回企画通ったら慣れるよ」
「マジぃ〜?」
「マジマジ」
「最初1発目の企画通んないときは私もめっちゃ悩んだけど、ま、そんなもんだって」
という会話を聞いていたREN。
「お悩みですか?」
と微笑む。
「そうなんですよぉ〜。今回のテーマがボド、ボードゲームで」
「おぉ、ボードゲーム。うちにもいくつか置かせてもらってますよ」
と後ろのお酒のボトルが置いてある部分を振り返るREN。
「ほんとだ」
「テーブル席側にも何個かあって」
「へえぇ〜。そこに並びたい…」
「そっか。企画が通ったら星夏さんが考えたボードゲームが商品化するのか」
「です」
「おぉ〜。楽しみだ」
「でもいい案がちっとも出なくて…」
「難しいでしょうね、ゲームを作るって。
ルールとかも決めないといけないし、ボードゲームだからみんなで楽しめないとだし」
「そうなんですよぉ〜…。…マジック見せてください」
「唐突に」
と笑うREN。
「いや、RENさんのマジック見ると不思議とやる気とかアイデアとか沸くんですよ」
「それは嬉しいですけど。そう言われるととハードル上がりますね」
と笑うREN。
「んん〜…」
と悩んだ声を出しつつ、周りを見回す。
「じゃあぁ〜…」
と手を擦り合わせながら悩む。そして発見する。
「じゃ、ルービックキューブを使ったマジックとかどうでしょう?」
と言って左手にルービックキューブを持つ。
「ルービックキューブのマジック。ぜひ!」
目を輝かせて言う星夏。
「では…」
とルービックキューブを置いて両手の指を波打たせるように動かすREN。
「こちらのルービックキューブ。なんの仕掛けもないかどうか見てみてください」
と星夏に渡すREN。ルービックキューブを四方八方から見てみる。
「…普通?」
と夕彩に渡す。夕彩も四方八方から見る。
「うん。めっちゃ普通」
「あ、動かしてもらって大丈夫ですよ。というかこれから混ぜてもらおうと思っていたので」
「あ、そうなんですか。じゃ」
と動かす夕彩。
「うん。動かしてる感じ、めっちゃ普通のルービックキューブ。ていうかひさしぶりに触った」
「たしかに」
「じゃ、混ぜていただいている間に…」
腰を曲げてカウンターの下からルービックキューブをもう1つ出すREN。
「こちらのルービックキューブを使って1つお見せしたいと思います」
と言うREN。右手でルービックキューブを掴むREN。
星夏と夕彩からは上面と横の2面、計3面が見える形になっている。
「よーく見ててくださいね」
と言ってRENは少し溜めた後、左手に投げる。すると先程見えていた3面が一瞬で揃った。
「えぇ!?」
「ヤバ。魔法だ」
と驚く2人。
「ありがとうございます。でも、実を言うとですね」
と言ってRENはルービックキューブの裏側を見せる。すると
「あ」
裏の3面はバラバラの状態だった。
「最初はこっちの面を見せておいて、投げる瞬間に反転させてただけなんですよ」
と笑うREN。RENの言葉に
…見る面を変える…。見る側面を変える。何気ないところに目を向けてみるとか?
と勝手にインスピレーションをもらっていた。
「では星夏さんも混ぜていただいてよろしいですか?」
と言うRENの言葉に、夕彩が星夏にルービックキューブを渡す。
「はい。え。ぐちゃぐちゃにしますよ?」
「もちろんです」
容赦なくぐちゃぐちゃに混ぜる星夏。
「よろしいですか?」
「最後に1回」
と最後に1回回す星夏。そしてRENに渡す。
「念入りにありがとうございます」
受け取ったRENはすべての面を見る。
「おぉ〜…。ぐちゃぐちゃにしましたね」
「しました」
「これでは1回」
1回ルービックキューブを回すREN。
「2回」
もう1回ルービックキューブを回す。
「3回、4回、5回」
と回してみるREN。
「5回回してもどうやら揃いそうもないですね」
頷く星夏。静かに見つめる夕彩。
「今度は6面」
RENが6面を見せる。
「ちゃんとバラバラです」
「はい」
RENはルービックキューブを右手に持ったまま
「よく見ててくださいね」
と言ってルービックキューブを持った右手をゆっくりと振る。
その速度が徐々に速くなっていく。そしてまた速度がゆっくりに戻り、止める。
「わかりますか?」
とRENが6面を見せる。
「ん?」
特に変わっている様子も、揃っているわけでもない。
「わかんないですか?じゃあもう少し」
と言ってからまたルービックキューブを持った右手をゆっくりと振る。
その速度が徐々に速くなっていく。そしてまた速度がゆっくりに戻り、止める。
「わかります?」
また6面を見せるが特に変わっている様子も、揃ってもいない。
「今、1面に、徐々に同じ色同士が惹かれあっていて、色素が集まってきているんですよ」
「え?」
「はあ」
「じゃあいきますね?」
と言ってからRENはまたルービックキューブを持った右手をゆっくりと振る。
その速度が徐々に速くなっていく。そしてまた速度がゆっくりに戻っていく。すると
「え」
ゆっくり振ってはいるが、明らかに面が揃っているのがわかった。
「え。いつ?」
RENの右手がゆっくりと止まる。
「どうぞ」
とRENがルービックキューブを星夏に渡す。星夏は受け取って6面すべてを見る。
「うわ。全部揃ってる」
「ほんとだ」
「はい。今度はしっかりと6面」
「ヤバ。どうやったんですか?」
「それは、マジックですので」
と微笑むREN。
「あれかな。シール貼ったんかな」
「なるほど?3×3、9×6、54のシールを振ってる中で正確に」
「無理か」
「マジックならいけるかも」
「それはマジックじゃなくて魔法よ」
なんて話をして、終電前にお会計を済ませて帰ることにした。RENが出口まで送ってくれて
「ありがとうございました」
とペコッっと頭を下げる。
「こちらこそありがとうございました」
と頭を下げる星夏。夕彩もペコッっと頭を下げる。
顔を上げた夕彩はお店の中の翔煌を見つけて今度は翔煌に向かってペコッっと頭を下げる。
翔煌もそれに気づき、ペコッっと頭を下げた。
「また来ます」
「はい。その時はいい報告を楽しみにしてますね」
「あ…。まあ…。いい報告ができればいいですが…」
「応援してますね」
「ありがとうございます!」
と会話を交わして駅へと向かった。家に帰り、部屋着に着替えて、リビングでパソコンを前にして座る。
「最初はこっちの面を見せておいて、投げる瞬間に反転させてただけなんですよ」
というRENの言葉を思い出す星夏。
「…よっしゃ」
とパソコンをカタカタし始めた。
コメント
3件
おつかれさま〜第6話読了した! 今回は星夏が四季ちゃんと仲良くなろうとしてるところがほんわかして良かったな〜。「最終なぁに?ゲーム」でみんなの回答が全然合わないの、あるあるって感じで笑ったよ(笑)。でも四季ちゃんがゲーム実況者の話でめっちゃ喋るところ、ギャップが可愛かった! RENさんと翔煌さんのマジックも相変わらず凄かった…!特に星夏の手にコインが瞬間移動するやつ、ガチで鳥肌たったわ。あのルービックキューブのマジックから星夏がインスピレーションもらって、企画に取り掛かるところで終わったのがエモすぎる。次回でどんなボドゲ作るのか、めっちゃ気になる!🔥