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雪乃は廊下を早足で歩く。
高等部なんて滅多に来ないから勘で歩きつつグラウンドに向かう。
きっと加島という人が、ムウマの待ち人に違いない。
早く会わせてあげたいな、と思いながら廊下を歩いていた時、
「ーーーー!!!」
視界に“緑”が映った気がして、反射的に曲がり角に隠れた。
途端に鼓動が早まり始め、体が震えだす。
うそ…気のせい、だよね?
雪乃はそっと、曲がり角から顔を出し廊下の向こう側を見た。
緑は…いない。
気のせいか、と胸を撫で下ろし、一歩前に踏み出した時、
「ーーーーひっ」
気のせいではなかった。
再び視界にその“緑”色の人物が映り込み、雪乃は体を固くする。
緑の、フードを被った、その人物と、
バチッ
目があった。
瞬間、雪乃はバッと身を翻し爆速で逃げ出した。
込み上げる恐怖と上がる息を必死に抑え込みつつ、逃げなきゃという本能に従い足を止めず走り続ける。
会いたくなかった人物No. 1は春翔なんかじゃない。あいつだ。
私の“トラウマ”。
あいつが卒業して遭遇する確率が減って、しばらく平和な日々を送っていたのに。
今日も会うわけないだろうと、鷹を括っていた。
油断した。
走り続けてもう自分がどの辺にいるのか分からなくなった頃、雪乃は足を止めた。
流石にもう、遠くへは行っただろう。
はぁ、と呼吸を整える。
目があった瞬間ほんとに死ぬかと思った。
爆走して乱れた後ろ髪を直す。
器用に束ねて黒いリボンのヘアクリップで留める。
早くグラウンドに行って、加島さんに会わないと。
気付いたら昇降口の方へ来ていたらしく、雪乃は外へと出た。
グラウンドの方へ向かうと、野球部が練習中だった。
まだ部活が終わるには早い時間。
仕方ないから、ここで待っていよう。
雪乃はグラウンドの側の階段に座り、野球部の人たちを観察した。
…そういえば、
「加島さんって、どの人だ…?」
沢山いる部員たちを見つめながら、雪乃は少し焦り始めた。
「おい、そこの中学生」
そんな雪乃に、誰かが声をかけた。
呼ばれた方を見ると二、三人の男子高校生がこっちを見ながらニヤニヤしていた。
「…なにか?」
「お前に用があってな」
先頭の大柄な男がそう言う。
「…あ、もしかして加島さん?」
雪乃が突拍子もないことを聞く。
男たちは一瞬黙るが、「あぁ」と口を開く。
「そうだ、俺が加島だ」
「そうですか、ちょうど私も探してたんです」
雪乃は立ち上がる。
もちろんこいつが加島でないことは分かっている。
でも私に用があるというなら、その真意を確認する必要がある。
わざわざ高等部の人間が私に用があるなんて、何かあるに違いない。
「俺たちもお前に話があるから、ちょっと場所を移動しようか」
雪乃は3人の男について行った。
まぁ、部活が終わるまでの時間潰しにはなるだろう。